250・ドワーフの激震①(レイアside)

 エールティアが多数の兵士を。リュネー達がスキュスを相手にしている間。レイア達はどんどん先に進んでいく。


「なんで私がこの二人と一緒に……」

「まあまあ、そう言わずに」

「俺達の力を合わせれば、なんとかなるって!」


 ため息を吐いて、内心の複雑な気持ちを隠そうともしないレイアに対して、他の二人はマイペースな事を言いながら一緒に進んでいった。

 レイア自身はエールティアと一緒に行きたかったのだが、あの場面ではそんなわがままは言えなかった。


「こうなったら、一刻も早く敵を倒して、ティアちゃんと合流しよう!」

「それはいいけど……前の決闘の時のような姿になって戦うのはあんまりしないでよ。僕達が巻き込まれちゃうから」

「わかってるって!」


 ウォルカが危惧しているのは、エールティアとの決闘の時にレイアが変わった竜人形態の姿の事だった。

 あれはエールティアだからこそ、なんとか出来た。だがウォルカとフォルスの二人では、振り回されることが容易に想像できた。


「それにしても、全然敵が来ないな。なんていうか、物足りないっていうかさ」

「そういう事言うと――」


 二人の会話の途中で、爆音が響き渡って激しい光の線がレイア達に襲い掛かる。


「二人とも、危ない!」


 レイアの叫び声と同時に散開したおかげで事なきを得たウォルカ達は、敵がいる方向を睨んだ。


「そんな事言うから来ちゃったじゃないか」

「ははっ! 上等だ! 行くぜぇぇ!!」

「相変わらずの暑苦しさ。もう少しなんとかならないのかな」


 フォルスが大声で気合を入れているところ、レイアとウォルカは微妙そうな顔をしていたが、それでも敵に向かって先に進んでいく。レイア達が向かっているのがわかっているからか、次々と光線や炎の弾の雨が襲い掛かる。

 弾幕と呼んでもいい激しさの中を、時には魔導で応戦し、かわしてくぐり抜けて行きながら、たどり着いたのは……数十人の兵士が見たことのない武器を構えている姿だった。


「撃て! 近づけさせるな!!」

「『収束光砲』……発射ぁぁぁぁっっ!!」


 敵兵の声と同時に、やけに機械的な大砲サイズの魔導具の中心が光を収束し……一気に解き放った。

 遥か昔に『極光の一閃』と呼ばれた兵器を小型化した物。破壊力はその分落ちるが、人を数人相手にするには十分な威力だった。


「くっ……あんなの防げないよ!」

「だから死ぬ気で避けてんだろうが! レイアもウォルカも、あれに当たるなよ!」

「言われなくても!」


 三人は狙いを絞らせないようにバラバラに行動し、互いに避けやすいように距離を取っていた。

 魔導によるサポート以外では助けに入る事の出来ない程の距離。普通ならば自殺に等しい行為なのだが、今回は功を奏した形になった。


「ちっ……充填急げっ! 各員、敵を近づけるな!」

「「「了解!!」」」


 攻撃を避けられた兵士達の内、数人が『収束光砲』の前面に出て、魔導による攻撃を開始した。次々と降り注ぐ炎の矢と雷の弾を掻い潜り、到達したレイアは持っていた武器を振り上げて――


「吹・き・飛・べぇぇぇぇっっ!!」


 魔導兵の中から一人だけ飛び出した少女が、自身の身の丈程もある巨大なハンマーをレイアに向かって振り抜いた。


「うぅっ……【フィジックスシールド】!」


 突如の攻撃に、レイアは咄嗟とっさに攻撃を防ぐ魔導を発動させる。物理に特化させた分、耐久力を上げた代物なのだ。少女のハンマーは、命中直前に後ろから風の魔力を放出して、一気に加速。いきなり速くなったハンマーの一撃は、レイアの【フィジックスシールド】を容易く打ち破った。


「くっ、ぅうぅっ……」


 じんじんと響く痛みを感じながら、敵の正体を確かめようと睨むレイアが見たのは、褐色の肌をした灰色に近い髪と目をしたドワーフ族の少女だった。


「ふぅん。あたしの一撃を防ぐなんて、やるじゃない」

「……誰?」


 ハンマーの柄の先端を地面に突き刺して自信満々に佇む少女。その背後から更に魔導による攻撃が放たれる。


「バカねー、敵に名を問う暇があるなら、攻撃しないとぉ!」


 くるくると自らの手足のようにハンマーを動かして、レイアに向けて思いっきり投げつけた。

 ちょうど炎の矢を避けて体勢を崩した時に放たれた一撃。避けられないと覚悟を決めて身構えていると、唐突にフォルスが割り込んだ。


「フォルス!?」


 離れていたはずなのに、いつの間に? と驚くレイアを背に、フォルスは両腕を交差して回転して飛んでくるハンマーの一撃を受け止めようとする。


「あは、バカばっかりね。さっさと潰れたトマトみたいにグチャッとなりなさいよ!」


 嘲笑する少女の声が届いたフォルスは思わずにやりと笑った。

 諦めたような自嘲気味のそれではない。油断している者に対して、目にモノを見せてやる――そういった類の笑みだった。


「はっ、はは、……【人造命手めいしゅ・フュレットンチャーガ】ァァァ!!」


 フォルスの魔導と共に具現化するのは、彼を象る力。彼自身の魂。顕現したのは真っ赤に燃えるような色と、重厚感に溢れる黒と鋼色で出来ていた、腕を覆い尽くす籠手。


 彼が顕現させた【人造命具】の姿だった。

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