246・この世の地獄

 結局、ジュールの抗議は却下された。三人一組の案がそのまま採用されて、即座に分かれて別々に進む。向こうが軍隊として行動しているのだから、こっちは迅速に動かなければならない。まとまって行動する利益なんて、範囲攻撃をしたときに的にならないくらいしかない。


 分散して戦う以上、味方の範囲攻撃に巻き込まれるリスクは存在するけれど……それ以上に他の組が暴れている間に、別の組が大将に近づくことが可能になる。

 今回の決闘は何も自分達だけで決着をつける必要はない。あくまで私かアルティーナのどちらかが降伏した瞬間に勝利が決まるというものだ。


 過程や方法は問われていない以上、私以外――リュネーやジュールが倒してしまっても問題ない。だからこそ三人一組に分かれて、それぞれがアルティーナの元を目指す。表向きではそういう風に指示を出した。

 実際は私一人が大暴れして、軍隊の目を全てこちらに引く。彼女達がここに来てしまった以上、出来る限りリスクを背負わせないように……かつ、彼女達が納得するようにしないといけない。


 色々と考えていた頭を一度リセットする為に、ゆっくりと深呼吸を繰り返して、思考をクリアにする。全員には、最悪超広範囲魔導を放つ事は伝えている。その時は私も手加減とか魔力量を絞るとかそんなことをしてる場合じゃないから全力で撃つ事になるだろうけれど……私一人ならそれが最善なんだけど、こうなったら最悪の場合として考えた方がいいだろう。


 まずは先制攻撃を――そう思っていた直後、爆音と共に光が襲い掛かってくる。


「【プロトンサンダー】!」


 その光を迎え撃つべく、こちらも雷の力を収束して解き放つ魔導を発動させる。激しい音と光が交わって、ぶつかりあう。爆発と共に打ち消すことは出来たけど、今の攻撃は……並の魔導に比べて明らかに威力が高い。なんだか、複数の魔力を凝縮して放ったような。そんな感じがあの攻撃からした。


「魔導具……そう考えたらしっくりくるか。持ってきたのは兵士だけじゃない、ね。中々やるじゃない」


 だったらこっちも遠慮する事はない。攻撃に関しては後手に回ったけれど、これ以上は好き勝手にやらせるつもりはない!


 ――イメージ。それが魔導の全て。それを発動させるのは練り上げられたイメージから湧き上がる言葉ワード。だからこそ、どこまでも広がる。それを今から――


「今から教えてあげる! 【ルインミーティア】!」


 恐らくまだリュネー達は先に行っていない。あの光の一撃を防いで、体勢を整えている最中だろう。それを見越しての魔導。

 空から黒いシミみたいなものが滲み出て、そこから無数の隕石が降り注いでいく。


 一つ落ちるたびに轟く爆音。それが幾つも響き渡り、地面が揺れる。

 あまり長時間これを使うわけにはいかない。流石に味方を巻き込む訳にはいかないからね。


 しばらくして【ルインミーティア】の発動を止めて、始まりの平原を駆ける。


 やがて見えてくるのは、私の魔導によってぼろぼろになった草原。そして傷ついた兵士達の姿。もっとも、無事な兵士もかなりいて、アルティーナがどれだけ戦力をかき集めて来たのかわかるくらいだ。


 というか――


「まさかここまでとは思わなかったわ。やる時は徹底的にやる。そういうの嫌いじゃないけどね」


 見渡す限りの敵、敵、敵。数えるのが馬鹿らしくなるくらいだ。


 ――昔を思い出す。私の事を化け物だと罵って、一つの国が戦士を次々と送り込んできた時の事を。

 あの頃はまだ私も幼くて……上手く力を振るえなかった。


 それでも必死に戦った。死にたくなかった。何も成していない。何も教わっていない。

 私は……どうしようもなく、飢えて渇いていた。


「……昔と今は違うと言うのにね。お陰で少し目が覚めたかも」


「エールティアの首を獲れ! そうすれば、女も金も思いのままだ!!」


 なんともまあ可愛らしい欲望をぶちまける事だろう。だけど残念。私を敵に回した以上、それは未来永劫叶う事はない。というか、今私を呼び捨てにした奴はこの決闘が終わったら国から追い出してやる!


「【ガシングフレア】!」


 いつもの決闘だったらどうしても威力と範囲を絞らないといけないけれど、今回は始まりの平原の全てが決闘のフィールドだ。なんの縛りもなく、発動する事が出来る。


 あらゆる敵を飲み込む毒霧は、濃霧となって彼らを覆い尽くし、どす黒い炎の爆発が彼らを焼き払っていく。

 悲鳴すらも搔き消える程の轟音の中に晒された兵士達は、為す術もない。


『さあ、私を打ち倒して名を上げたいのなら掛かって来なさい!! エールティア・リシュファスは逃げも隠れもしない!!』


 爆音が止むと同時に拡声魔導を使う。自分がここにいる事をアピールする事で、少しでもこちらに惹きつける。


 同胞を倒された恐怖より、ここまでやられた怒りが勝っているのか、殺気のこもった目で見つめられる。

 魔導兵は後ろに。戦兵は前に陣形を整えて、私に向かって突撃を敢行する。


 数で押せば勝てる――。

 当たり前のことだけれど、それは相手がどうしようもなく格上だった場合、話が変わる。


 例え何十、何百万の兵士が集おうとも塵芥も同じ。さあ、思い知らせてあげる。


 ――この世の地獄に堕ちた事を、後悔しなさい。

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