245・嘲笑する王位継承者

「ふふふ……あはははは!」


 私の為に集まってくれたみんなの前で、アルティーナは大きな声で笑った。

 あまりにも馬鹿にするような笑い声にイラっとくる。


「何が可笑しい?」

「ふふ、ごめんなさい。あまりにもくだらない茶番を見せつけられたから。つい、ね」

「茶番……ですって?」

「あら、気に障った? ならごめんなさい。あまりにも滑稽だったんですもの。たった六人。しかも未熟な雑魚ばかり……自ら死にに来たものじゃない」


 アルティーナは、わざわざ一人一人に小馬鹿にしたような笑みを向けてきた。

 最初に反応したフォルスは、我慢できないとでも言いたげな顔で一歩踏み出してきた。


「フォルス」

「……わかってる。俺だって十分わかってるさ」


 怒りに拳を震わせているフォルスだけど、それ以上は何もすることはなかった。

 自分の立場をわかっているというか……むやみに噛みつこうとせず、ただただ睨むばかりだ。


「ふふふ、いいわ。エールティアさん。貴女が無様に這いつくばる姿が楽しみね」

「未来を夢想するのは結構だけれど、後で泣いても知らないから」

「あはは、そんな事あるわけないじゃない。たったそれだけで私に勝てるだなんて……妄想するのも大概にした方がいいわ。まあ、言っても無駄でしょうけど」


 睨んでは睨み返して……そんな私達の間に割って入ったのは、オルキアだった。


「お二人とも、舌戦はそれくらいに。そろそろ決闘を開始しましょう。しばらくしたら、開始の合図を鳴らします。その時に決闘を開始いたします。お互い、用意された陣地までお戻りください」

「一つ、質問いい?」


 オルキアは準備に動こうとしたみたいだけれど、聞きたいことがあった私は、彼女を呼び止めた。


「なんですか?」

「アルティーナさんのところとこちらの戦力の差はわかった。だけど、どうやって死亡や降参を判断するの? 人数が多い分、紛れて戦おうとする者が出てくるかもしれないでしょう」


 あの申請書の文面を見た時に思ったのは、仮に大軍を相手にした時、魔導具で一度死を無効にしても、そのまま襲いかかって来られるんじゃないか? ってこと。

 そうなれば、死を恐れずに戦いを挑んで来る者も現れかねない。私はそれでも構わないけど。


「その点はご安心ください。ワタシの持ってる魔導具は、死亡した者を特定の地点に転送する事ができます。そしてその場所は、他の決闘官がおります。投降する場合、お仲間の皆さんは戦線を離脱してください。確認出来次第、決闘官が迎えに行きます」


 なら、安心して……なのかもしれない。

 ほっと胸を撫で下ろしたのは、これで仲間達を盾にされるような事はない。

 ……いや、もしそんな事が起こったら、絶対に許せないんだけど。


 それにしても、どれだけの数の決闘官を配置しているんだろう? 魔王祭の時よりも遥かに規模が大きくて驚く。


「残念ですね。その場に留まる事になっていたら……壊してあげるのに」


 クスクスと笑って挑発するアルティーナを無視して、私はさっさとその場を去る事にした。

 後ろで何か言ってるけど、全部無視。これ以上は構ってあげる暇が惜しかった。


 ――


「何も言い返さなくて良かったのですか?」

「構わないわ。どうせ何言ってもあの顔が崩れる事はないし……それに……」


 気になるのはあの子の雰囲気。態度もちょっと違うし……なにより、彼女は契約スライムすら連れて来ていない。それに違和感がある。


「今のあの子とは、話すよりも戦う方が分かり合えるような気がするの」

「わかるぜ。やっぱ、拳を交えて語り合わないと、見えてこないものがあるからな!」

「暑苦しい男の肉体言語はどうでもいいけど、ティアちゃんの言う通り、今は話すよりもする事があるものね」


 いつの間にさりげなく毒を吐けるようになったのだろうか。

 レイアの一撃で、フォルスはへこんでいた。


 少しして陣地に指定されている場所に戻ってきた私達は、申し訳程度に作られたハリボテの小屋の拠点の前に集まった。

 みかけは悪いけれど、拠点の場所だとわかればどうでもいい。一応食料は配給されているけれど、そんなに何日もかかる事はないだろう。


「それで、どう動きますか?」

「そうね……まず、三人一組で動いて。決して一人で多数を相手にしないようにして欲しいの」


 そうすればリスクを多少減らせる。あまり固まって移動しても、あまりメリットはないしね。


「まずは雪風、ジュール、リュネーの三人。次にフォルス、ウォルカ、レイアの三人ね」

「ちょ、ちょっと待ってください! それではティア様が一人に……!」


 ジュールが言いたい事はわかるけれど、逆に彼女達の誰と組む事になっても、私の足を引っ張る事になりかねない。


「いえ、これはエールティア様の指示通りにしましょう」

「雪風!?」

「ジュールも、わかっているでしょう? 悔しいけれど、僕達じゃエールティア様の枷になってしまう。そんな風になるくらいなら……僕達が纏って可能な限り敵を叩く事で役に立たなくては」

「でも……!」


 二人が言い争っている間に、上空で派手な音が鳴った。花火の魔導で打ち上げたのだろうそれは……戦いを告げる合図だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る