224・合同訓練
先輩方が普段の倍くらい頑張っている姿を見守りながら、時に教えを乞われながら――あっという間にクォドラの21の日は訪れた。
「ティア様、また後で会いましょう」
お昼休みが終わりに近づいて、そろそろ特待生クラスに行こうかと思っていたら、ジュールからそんな風に言われた。いつもなら『また放課後』って言うんだけど、今回はちょっとニュアンスが違った。
「ええ。また後でね」
一応いつも通りになって返して特待生クラスに向けて歩いていくんだけど……そういえば、二年生の特待生は私以外全く知らなかった事を思い出した。
それに、ジュールはさっき、口の方が少し緩んでいた。それを考えると多分――
――
「こうなるわけね」
特待生クラスに行って、そのまま流れで訓練場の方に行くと……予想通りそこにはジュールが待っていた。
後はレイア、リュネー、雪風、フォルス、ウォルカの見知った五人と知らない数人の生徒もいる。
「あれ? あまり驚かれないですね」
「何となく予想出来たからね。それに、成績上位者が入ってないなんておかしいしね」
本来なら私もあそこなんだろうけれど……彼女達と一緒になるのは多分来年くらいかな。
「はい、それではこれより合同訓練の方を始めたいと思います。ラウロ先生。準備はいいですか?」
「こちらは問題ありません。いつでも大丈夫ですよ」
特待生二年のクラスはラウロ先生が担当しているのか。いつ見てもあの毛並みは綺麗だけど、流石に先生を触るのは
「まずはお互いの成績優秀者をぶつけてみましょう。いい? ハクロくん」
「ええ。それで構いませんよ。さあ、僕と戦いたいのは誰だ?」
ここぞとばかりに先輩風を吹かせようとしてくるハクロ先輩だけど、前に比べたら丸くなったような気がする。
以前なら、噛み殺しかねない目つきで睨んできたはずだけど、今は後輩に力の差を教えてやろうって感じになってる。
「こちらはレイアさん……ではなく、ジュールさんに任せましょう。良いですか?」
「はい! いつでも大丈夫です!」
流石に病み上がりに近い状態のレイアは見学なのだろう。他の人より少し離れたところにいた。
……まあ、私の方も似たようなものなんだけどね。
「レイア。調子はどう?」
「うん! 大分良いよ。これもみんながお見舞いに来てくれてたおかげかな」
えへへ、と笑うレイアと一緒に、のんびりと二人の戦いを見守る。
ジュールは剣でハクロ先輩に攻撃を仕掛けているけれど、今ひとつ動きにキレがない。比べたら悪いけれど、戦闘経験の差が表れている。ムキになって攻撃を加えてるところなど、挑発に乗せられやすいみたいだ。
逆にハクロ先輩は冷静にジュールの斬撃の軌道を確認しながら、隙を突くように魔導を放ってる。魔王祭の時の敗北が余程悔しかったのだろう。また一つ腕を上げている。
以前は剣での攻撃の合間に魔導を放つ事に主軸を置いていたみたいだけど、今は完全にそれを捨て去って近接戦でも魔導を用いた戦い方をしている。
剣一つ分の重さがなくなった事で、軽やかな動きに磨きがかかってるけれど……並大抵の事じゃないだろう。やっぱり、努力する事においては、ハクロ先輩はずば抜けている。
「ティアちゃん、どっちが勝つと思う?」
「ハクロ先輩ね。ジュールには悪いけれど、地力の引き出し方が違う。あんな風に翻弄されてちゃ、実力の半分も出さないでしょうね」
冷静に分析してみると、何がおかしかったのか、レイアはくすくすと笑い出した。
「ティアちゃん、ちょっと冷たい。ジュールちゃんも頑張ってるんだよ?」
「それはわかるけど……。戦いに私情を持ち込んだら、足元掬われちゃうのよ。ジュールの頑張りも認めるけど……ハクロ先輩はそれ以上って感じ」
「へぇー……それだけ見てるって事は……ハクロ先輩の事、好き?」
いきなり何を言い出すんだか。呆れた視線をレイアに向けるけれど、彼女は二人の戦いに視線を向けたままだ。
「別に嫌いって訳じゃないわね。先輩だし、彼が努力家なのは知ってるから。それだけよ」
「……そっか」
さらっと投げ返すと、どこか安堵するような息を吐いていた。別にそんなに気にすることもないだろうに。
「あ、ほら、決着がついた」
たわいない話をしてると、ハクロ先輩の魔導がジュールの剣を弾いて、慌てたジュールが魔導を発動する前に、彼女に向けて氷の矢を眼前に突きつけている最中だった。
悔しそうにハクロ先輩を睨むジュールだったけど――
「ありがとう、ござい、ました……」
「ああ。お前も強かったよ」
それでも、戦ってくれた先輩に対する最低限の礼を取ったジュールに、ハクロ先輩は笑顔を浮かべていた。
それを皮切りに、二年生は三年生の洗礼を次々に受けていく事になる。
それでもリュネーがかなり善戦したけれど……三年生も普段見せないような底力を発揮して、先輩としての尊厳を守っていた。
訓練が終わったころには三年生はやり遂げたような顔をしていて、充足感を得られていたようだった。
逆に二年生は本当に疲れたような顔をしていて、対比が妙におかしくて、思わず笑ってしまう。
多分、もっと早く特待生クラスに行けるようになっていたら、私もこの洗礼を受けたことになっただろう。その場合、先輩を立ててあげなきゃいけなかったんだろう。そんな面倒な事をしなくて済んだのは、メイルラの月に入ったおかげだろう。
改めて、本当に良かった。他人を立てるなんて、中々出来ないしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます