187・彩られる城
派手な鳥車に乗って城に行くというのは、否応なく他人の視線を気にしてしまう事になる。
唯一、外からこっちがあまり見えないような作りになっているのが利点だろう。もちろん、こっちから外の景色を見る事も難しいんだけれど、こんな物に乗っていると知られるくらいなら、見えない方がずっとマシだ。
こんな乗り物だったら、さぞや暗殺をしやすそうだろうな……なんて考えてみたけれど、迎えを寄越した挙句に殺しに来た輩が現れたとしたら、公爵家のメンツ丸つぶれだろう。私達が必ず殺せるような状況にでも持ち込めない限り有り得ない。
それをお父様もわかっているからこそ、不満そうにしていてもピリピリとした雰囲気を纏っていないのだろう。こんな悪趣味な物に乗る日が来るとはもわなかったけどね。
――
「……着いたな」
しばらくの間、鳥車に揺られていたけれど、ようやくそれも終わりを迎えたわけだ。
「随分長く歩いていましたけれど……本当にコクセイ城に着いたんですか?」
「ああ。探査の魔導で調べてみた限り、間違いない」
いつの間にそんな事を……と思っている間に扉が開かれて、ピシッとした執事の男が丁寧な所作で中から降りるように促してきた。
「お待たせしました」
「やけに時間がかかったようだが……何かあったのか?」
「エールティア殿下が緊張されておられるでしょうから、少しでも気持ちを落ち着けられるように緩やかな速度で行くよう、仰せつかっておりました」
「そうか。心遣い感謝するように伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
それが本当に私への配慮なのかはわからないけれど、お父様はそれ以上追求することはなかった。
ようやくこの悪趣味な鳥車からお別れを告げる事が出来た私は、外の空気を思いっきり吸い込んだ。コクセイ城の大きな門が目の前に立ちはだかっていて、屈強そうなオーク族の門番が背筋を伸ばしていた。その中に知っている顔を見つけたお父様は、意気揚々とその知り合いに軽く手を上げて挨拶をする。
「リシュファス公爵様。ようこそおいでくださいました」
「ゴルジャン、久しぶりだな。息災だったか?」
「おかげさまで。こうして毎年貴方様にお声を掛けていただこうと頑張っておりますよ」
「そうか。これからもこの城を守ってくれ。本当はもっと話していたいのだが、時間がなくてな。通らせてもらうが……構わないな?」
「はい。どうぞお通りください」
ゴルジャン……門番い親しく話しかけて、軽く雑談しながら門をくぐり抜けた。お父様は他にも、良く話しかける人の名前を憶えている。庶民だとか貴族だとか関係ないそこがお父様の良いところだと思う。
門の内側には庭園が広がっていて、夜を眩く染め上げようと言わんばかりに光の装飾が施されていた。これだけの魔導具を見るのは中々に圧巻だ。
「うわー、すごく立派な庭園ですね」
ジュールがいつものメイド服できょろきょろと周囲の様子を見ていた。まるで田舎から都会にやってきたばかりの若者って感じだ。
雪風の方は落ち着き払っていて、ジュールとは対照的だ。
「この国随一と呼ばれているだけあって、壮観な景色ですね」
光の庭を歩いて城の中に入るとうっすらと黄色く温かみの帯びた白の明かりに照らされて、どこか安心する。
ジュールは相変わらず見るもの触るものが新鮮だと言うかのように、視線を彷徨わせていた。
「ジュール殿。あまりきょろきょろとしているとはしたないですよ」
「う……わかった」
雪風が優しく
普段自分達が住んでいる館よりも広く、メイドも多種多様。兵士は各々力を磨いているであろう強さを感じる。
それに加えて非現実的な光景。ジュールの気持ちは痛い程よくわかった。
「はぁぁぁ……」
ため息が出るほどの光景を堪能しているのはいいけど、まだ城の中に入っただけだ。そこからさらに奥の部屋に入ると――パーティーホールと呼ぶに相応しい広く大きい部屋に辿り着いた。
白いクロスを掛けられたテーブルには数々の料理が並んでいて、着飾った人々が談笑していた。
「こんなに多くの人を見たのは初めてですよ!」
「魔人族が多いですね。王族に近い聖黒族もそれなりにいますが……」
感心している二人に苦笑して、改めて会場を見渡す。
私とお父様に全ての視線が集まっている。あまり好意的でないものあって、いくつもの針で刺されているような気分になる。
その中でも一際強い視線を向けてきた女の子が、執事風の男の子と一緒にツカツカと音を響かせながらこちらに迫ってくる。それは綺麗な黒髪にパールのように綺麗な白い目をした聖黒族の子で、ツリ目が勝ち気な印象を与えてくれる。いや、実際私には刺々しいんだけれど。
そんな彼女の名前はアルティーナ・エスリーア。私と同じ、王位継承権を持っている子だった。
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