128・どこか見覚えのある顔
自由行動の一日が終わった私達は、ベルーザ先生に連れられて魔王祭の会場に訪れていた。
「うわぁ……すごい人がいっぱい」
リュネーが思わず驚きながら周囲を見回している。それもそうか。左を見ても右を見ても、様々な種族が溢れているのだから。
一昨日に見に行った時は、会場の半分くらいしか埋まってなかったけれど、今は全ての席が埋まってる。
「これだけの人の前で戦うとは……すごく、心躍りますね」
好戦的な笑みを浮かべている雪風は、自分の得物である刀に手を掛けようとしている。流石闘争本能の塊のような鬼人族だけある。こんな可愛い女の子も例に漏れないみたいだ。
「来年は俺達もこんな会場で……」
「感動しているところなんだが、たかだかこの程度の会場を埋めただけで満足するな」
レイアが言葉も出せずに驚いていると、ベルーザ先生は無感動のまま、ため息を吐きだしていた。
「ティリアース、雪桜花、ドラグニカ、エンドラル……この四つの国の王都にある闘技場はこれの比じゃないぞ。お前達はそこを目指して、頂点に立つ程の目的を持て」
「先生、でもそれって、難しいんじゃないですか? 僕達妖精族なんて体格もまるで違うし、種族的な差だってありますよ?」
「小さい妖精族でも魔王祭本選に勝ち残った生徒はいるぞ。決して不可能という訳じゃない。お前達の努力次第だ」
ウォルカがベルーザ先生に諭されている間に準備が整ったのか、会場の照明がいきなり消えて、真っ暗の中に司会席だけが浮き上がるように光が灯る。
「び、びっくりしたー……」
「魔導具だからな。こういう使い方も出来るってわけか」
ただの照明器具なのに、こんな風な演出をされると、別の魔導具を使っているようにも見えそうだ。
『魔王祭最終予選……このガンドルグに吹いた嵐も今は収まり、残るは一陣の風のみ。この戦いで本選に進む者が決まる!』
少し臭い台詞回しの司会は、一昨日担当していた男の人とは違って、大きい方の妖精族の男の人だった。
『歴史に名を刻む栄光に挑む
『この最終予選の決闘官は魔人族のアルデ・エクジアです。よろしくお願いします』
挨拶と同時に丁寧に頭を下げるアルデ決闘官は確か……私が初めて決闘した時に来てくれた決闘官だ。いきなり開始宣言をされてあの時は驚いたけれど、今回は流石にそれはしないみたいだ。
『まず、今回のルールの説明を行います。魔王祭最終予選は、本選と同じく……先に相手の命を奪った者を勝者とします』
「は……?」
「え? ど、どういう事?」
アルデ決闘官の説明に戸惑いを覚えているのは、フォルスを始めとした、ここに来た殆どが戸惑っているけれど、私とリュネーの二人だけは落ち着いていた。
以前、結界具の話をベルーザ先生から聞いたことがある。それと同じものなんだろうと思ったからだけど……なんでリュネーも知ってるのかは謎だった。
「よく聞いておけ。決してお前達も無関係じゃないんだからな」
ベルーザ先生の言葉に誰も頷く事はなく、説明の方は着々と進んでいく。
『今から私が魔導具を通して会場に結界を張ります。観客の方々の身を守り、決闘者の死を無効にするものです。……とは言っても、それまでに受けた傷が無かったことになるわけではありません。あくまで致命傷に届きうる攻撃を肩代わりするだけのものなので、その点だけは理解しておいてください』
アルデ決闘官はあまり抑揚のない声でさっさと告げると、懐から四角い箱みたいな魔導具を取り出して、それを展開させる。
それは彼の手から離れて、キュルキュルと音を立てながら光を浴びて宙に浮かんで……その周囲に白い丸状の線を浮かび上がらせる。それが少しずつ広がっていって、会場全体を覆っていった。
『死からその身を遠ざける結界が私達の身体を包み込み、新たな戦士の誕生を祝う舞台が整う……。さあ、共に名を謳おう! 遥かなる高みに挑むその英雄の名を!』
どこか拗らせているような発言と共に照明の一つが会場の一角を照らす。そこに現れたのは、一昨日私が見たオーク族の生徒で……確か名前は――
『南ゲートから現れたるは、豊かな大地に育まれ、そびえ立つ山のように磨き上げたその身は、崩れる事を知らぬ――ジーガス・クワルディア!』
大きな歓声と共に大きな戦斧を片手で振り上げて、強気のアピールをしていた。彼の戦いは見ているし、これは相手次第だな……なんて思っていると……次に照らされた姿を見て、驚いてしまう。そこにいたのは――
『続いて北ゲート。世界に名だたるその血潮。遍く知れ渡るその剛腕が、あらゆる敵の悉くを握り潰す! 声高らかに叫べ! かの名は――出雲
不敵な笑顔で相手を見つめている
……なんだか色々と複雑な気分だけれど、なんで彼がこんなところにいるんだろう?
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