56・出会った二人
雪桜花での生活はかなり新鮮だった。まず、出される料理がティリアースの物とは全く違う。箸とかいうものを使って食べる料理に、米に漬物。魚の塩焼きに汁物がついてきていて、厚焼き玉子もあって……これが雪桜花の朝食らしい。私に合わせた量を用意してくれた事に感謝しながらそれを食べてしまうと、お父様が私に声を掛けてきた。
「エールティア。出雲殿がお前に会わせたい者がいるそうだ」
「私に……ですか?」
出雲様とはあまり接点がなかったはずなんだけど……私に会わせたいって一体誰なんだろう?
「そうだ。今すぐ……という訳でもないとは言っていたが、早ければ早い方が良いだろう。せっかくだ、ジュールも連れてきなさい」
その瞬間、私は嫌そうな顔をしていただろう。あまり出雲様と会話するときに、ジュールを連れて行きたくなかった。その理由としては、彼女が私の事を妄信してるからだ。
私は出雲様に向かって、リュネーやレイアに接してるような態度を取るわけにはいかないし、出雲様も上の者としての接し方をするだろう。それをジュールが許すとは思えなかった。
「お父様……お言葉ですが……」
「言わずともわかっておる。だが、いつまでも避けて通れる道ではあるまい? これがもっと大きな舞台――それこそ、女王陛下の誕生祭などになれば、連れて行かない訳にもいかないだろう」
「で、ですが……」
お父様の言う事に、それでも私は拒否をしようとしたけれど……お父様はそれを見透かすように頭を左右に振った。
「出雲殿は私と旧知の仲だ。もちろん、だからと言って無礼を働いていいという訳ではないが、それでもお前が誠心誠意謝れば伝わらない相手ではない。傷口は浅い方が良いだろうし、やらない内に後悔するよりも、やってから後悔すればいい。違うか?」
私は、何も言う事が出来なかった。お父様がここまで言ってくれてるのだから、私の方も少しでもジュールの為に――彼女が成長するように動かないといけない。そう思ったからだ。
「……わかりました。ジュールと共に出雲大将軍様に会いに行きます」
「よろしい。向こうの方々には既に話を通してある。エールティア……
「心得ております」
それは『ジュールの事は伝えている』と言ってるようにも聞こえた。その上で今言った事を守るように、と。
お父様の言いたい事は伝わった。ここは学園じゃない。だから、気を引き締めて行かないとね。後は……なるようになるしかない。
――
「ここに、その……出雲大将軍という方がいらっしゃるんですね」
「『様』を絶対に忘れないようにね」
「わかりました!」
返事だけは良いんだけど、顔に出てしまったら何も意味がないって事を彼女は……わかってなさそうで困る。
彼が設けた場――部屋までやって来た私達は、ゆっくりとその
一人は私と同じくらいの少年で。出雲様の隣に座ってる。もう一人は部屋の片隅に座っていた。多分……護衛か何かなのだろう。
「本日はお招きいただいてありがとうございます」
「頭を下げずともよい。この場は公式の場ではないのだからな」
その言葉に少し安堵した私は下げかけた頭を元に戻した。なにせ既に不穏な空気を背後から感じるのだもの。おまけに出雲様の隣にいる男の子は驚いた表情で出雲様を見た後、私に怒りの視線を向けてきた。
「これ、止めぬか」
「……父上。しかし――」
――父上。確かに隣の男の子はそう言った。だけどそれも納得だ。出雲様そっくりの髪の色と目。凛々しい感じの顔つきは、厳つい顔をしてる出雲様とはあまり似てないような気もするけど、鋭い目つきなんかはそっくりだ。
「済まぬな。此奴は
「……
納得がいかないのかつーんと顔を背けた様子で自己紹介をした彼に向かって、ジュールが嫌そうな視線を向けるけれど……それを遮るように私は声を上げた。
「エールティア・リシュファスと申します。雪雨様、どうぞよろしくお願い致します」
「……ふん」
再び頭を下げた私に向かって『だからどうした?』と言わんばかりの態度を取られたのが気に食わなかったのか、ジュールは一切殺気を隠さずに雪雨を睨んでしまった。それに対して出雲様は涼しい顔をしていたんだけど……雪雨の方は信じられないものを見るような目で怒りを露わにしていた。
「ジュール!」
「ですが……!」
私が諌めても一向に引くつもりのない彼女には本当にため息が出そうになる。
――やっぱりこうなった。
お父様に言われたから連れてきたけど……いくら私の礼儀が正しくても、彼女の態度はかなり不味い。下手をしたらお父様に迷惑を掛けかねないし、国家問題にまで発展したら洒落にもならない。
それなのに、出雲様はあくまで私達の問題だと言わんばかりの態度で事態を静観しているし……。
「随分と無礼極まりない眷属を連れているではないか。位の違いもわからんとは、器が知れるというものだ」
たかだかこれくらいの殺気を放たれたくらいでそんなに怒らなくても……なんて口が裂けても言えないくらいの緊迫した空気。
誰かに助けを求める事も出来ないこの状況。それでも助けて欲しいと思うのは、これから先の未来が透けて見えそうな気がしたからだった――
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