30・特待生達の訓練

 ハクロ先輩と衝撃的な出会いをした後の二日が過ぎて、私は特待生クラスのみんなと訓練場にいた。今回は魔導の訓練……という訳で、遠くにある目標に向かって魔導による攻撃を仕掛けるって内容の訓練をすることになった。弓矢の訓練に使うみたいな小さな丸い標的は、縦横無尽にうごきまわって、たまに思い出したみたいに不規則な動き方をしてる。多分、あれには魔石かなにか……魔力で動くものが使われてるんだろうね。

 あの的の中央に当てるには、より精密に、正確にイメージして魔導を発動させる必要がある。


 現実を巻き込むほどの強いイメージを描く。これが魔導の極致で、前の世界ではその為に戦いに明け暮れた人もいた。

 ……まぁ、多少大雑把でも魔力でなんとか出来る人もいるんだけどね。


「これかー……もうぼく、こんなの楽勝なんだけどー」


 シェイン先輩が気怠げに体育座りをして、うんざりするように的を見てる。


「貴方達にとっては些か物足りないでしょう。ですので、複数の的を同時に撃ち抜く訓練を行いたいと思います」


 アイリア先生は持っていた鞄を地面に置いて、静かに開ける。その中にあるのはいくつもの的だった。

 魔力を流し込まれたそれは、くるくると宙を回って最初の的と同じように様々な動きを取る。


「言っておきますが、まとめて爆発に巻き込む事や、光線のようなものを出して、一気に破壊するという行為は禁止です。正確に中央を狙って放つように」


 アイリア先生の言葉に何人かの生徒が不満そうな声を上げた。その気持ちはわかる。まるで生き物のように動く的を同時に狙うってことは、魔導を放った後も動きを制御しないといけないって事だからね。

 そして、そうなるように上手くイメージする事も大切で……結構難易度は高い。


「それではまず、エールティアさん。良いですか?」

「あ、はい」


 なんでいきなり呼ばれたのかわからないけれど、とりあえず返事をして前に出た。


「上手くいかなくても大丈夫ですから、思いっきりやってください」


 相変わらず無表情で、何考えてるかわからない先生だけど……言われた通りやってみますか。

 流石に思いっきり……と言うわけにはいかないけれど、ある程度本気であの的を射抜く事にしよう。特待生クラスなんだし、あまり下手なところを見せても手抜きだって言われるのがオチだからね。


 イメージするのは降り注ぐ氷の雨。それらが次々と的の中央を貫き凍てつかせる。逸れたものは即座に消え、残されるのは中央に当たる物のみ――


「『フリーズレイン』」


 ある程度大丈夫なようにイメージを固めた私は、魔力を込めて発動させる。

 何もない空中から雨のような氷が的に一気に降り注いだ。


 的の中央から外れた氷の雨は他の場所に当たる前に掻き消える。結構気を遣う作業だけれど、これくらい派手にやってるからある程度気付かれないようするのは苦労する。しばらくそんな攻撃をした後……氷の雨を降らせるのをやめると、的は全て動きを止めて……中央に攻撃が当たった後がある。


「す、すごい……」

「ふん、あの程度のどこが。大体、あんなの先生が言ってた禁止行為となんら変わっていない」


 誰かの声が聞こえて、それを思いっきり否定してきたハクロ先輩の声が聞こえた。

 別に自慢できるようなものじゃなかったけど……ちょっとムッときた。何もそんな風に言わなくてもいいじゃない……。そういう気持ちが湧き上がってくる。


「それでは、次はハクロさん。準備は――」

「愚問ですね。いつでも出来ています」

「それでは……」


 アイリア先生が再び魔力を流すと、的はさっきと同じようにくるくると回ってちょっと前と同じ光景が繰り広げられる。それを前にハクロ先輩は魔力を練り上げて、中々の速度でそれを解き放った。


「『ファイアショット』」


 複数の炎の弾が発射されて、様々な動きをする的に次々と当たっていく。それもわざと的の周りを一回転した後に中央に当てる……なんて芸当をいくつか見せてくるおまけつき。


 ハクロ先輩は私に見せつけるように魔導を使ってるけど……なんでそんなに敵対心を剥き出しにしてるんだろう?

 炎の弾が全部当たったと同時に、ちらっと私の方を見て『どうだ? みたか?』みたいな視線を向けてきた。


「流石ハクロさんですね。それでは、他の方も負けないように頑張ってください。当たらなくても大丈夫です。根気よく続けていくのが大切なのですから」


 アイリア先生の言葉に納得したのか、見てた他の生徒のみんなも順番に的当ての訓練をやり始めた。なんだかんだ言ってもいざ始めると熱が入ったようで……全員が熱心にやっていた。


 例外は一発でクリアした私とハクロ先輩だけで……少し離れて訓練の様子を眺めてるハクロ先輩は、私の様子を気にしてるみたいだった。

 これで肝心の視線がもう少し別の類のものだったら良かったんだけど……そんな妙に居心地の悪い視線に晒されながら、少しずつ複数の的に当たるようになって喜んでるみんなにアドバイスをしたりして、時間を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る