29・理解できない憎悪
「……もしかして、聞いてませんでしたか?」
私の様子がおかしい事に気付いたアイリア先生の問いかけに、私は言葉もなく頷いた。ベルーザ先生からは、『特待生クラスに行ってくれ』としか聞いてない。まさか、二年生のクラスだったなんて……。
「あの人も仕方ありませんね……。まあいいでしょう。エールティアさんは彼の……ハクロくんの隣にお願いします」
「ハクロ……先輩?」
私が名前を呼ぶと、他の生徒が視線で誰なのか教えてくれたけど……肝心のハクロ先輩っていうのは、私の事を睨んでた銀狐族の男の子だった。今は私の事なんて知らないように適当な方向に顔を向けてる。
「あの……よろしくお願いします」
とりあえず頭を下げてみたんだけど、全くの無視。ここまで露骨な態度を取られると、むしろ清々しいくらいある。
少しの間、彼の事を見てたんだけど……何も言ってくる事はなかったから、仕方なく隣の席に座った。
一体なんでハクロ先輩にこんな態度を取られるのか、全くわからない。接点すらないんだから、わかりようもないんだけど……。
「自己紹介は各自でお願いしますね。それでは――今回は自習となります」
「あれ、戦闘訓練はしないんですか?」
「まずはエールティアさんと話すことも大切だと先生は思います。次回からはいつもの戦闘訓練を行いますが、今日のところは親睦を深めてください。先生は今後の用意をしますから、それでは」
それだけ言って、アイリア先生は教室から出て行ってしまった。なんていうか、後は適当にやってね! みたいな感じで置いて行かれたような気がする。
「エールティアちゃん、だっけ?」
「は、はい」
「ぼく、シェイン・アルマーシュって言うんだー。よろしくねー」
さっき先生に質問してたエルフ族の男の子――シェインは、半分くらい寝てるんじゃないかな? って感じで、気怠げそうに見える。だけど、目の奥には優しい光が宿ってて、私は好きだな。
「拙僧は
「え、ええ……」
「ああ、ちなみに……蒼鬼の方が拙僧の名前故、決して間違えぬよう」
妙にキャラの濃い人物だけど……それに見合うように立派な二本角を頭の方に生やしてる。少し空の色が混じってるような青い髪と目をしてる。私も初めて見るけれど……確か鬼人族って種族だったはず。
「鬼人族の人がいる事が、そんなに珍しいですかな? エールティア殿のクラスにはいないでしょうが、学園にはそれなるいに在籍しておりますよ。この国と我が国・雪桜花は遥か昔から続く友好国ですからな。鬼人族の中にも、この学園に入りたがってる者も多いのですよ」
「そうなんですね。それは初めて知りました」
「この学園は初代魔王様が作った場所だからねー。ぼく達エルフ族にも、ここに憧れてる子は多いんだよー」
シェイン先輩や蒼鬼先輩の話だけでも、初代魔王――私のご先祖様の凄さが伝わってくる気がした。確かにお話の中にはアールヴ(現エルフ)族の女の子を助けたり、鬼人族の王と激戦を繰り広げて、心を通わせたっていう話もあるけど、こういう風な話を聞くと、本当に起こったんだなぁって実感が湧いてくる。
「はっ、いくら昔がすごくたって意味がない。肝心なのは今、だろう」
そんな私の思いを台無しにしてきたのは、ハクロ先輩の吐き捨てるような言葉だった。驚いて彼の方を見ると、忌々しいものを見るような視線を私に向けてきてた。
私と視線が重なったハクロ先輩は、苛立ちながら適当に本を開いて、そっちの方に視線を落としていた。
「……私、何か悪い事しましたか?」
「あー、気にしなくていいよー。ハクロは君がここにいる事に苛立ってるだけだからねー」
それは十分気にしてしまう事だと思うんだけど……それを直接言うことはなかった。その分、微妙な物を見るような顔をしてしまったけどね。
「確かに、ハクロ殿からしてみたら面白くない事ですからなぁ……。だけれど、彼もきちんと理解してくれると思いますぞ。今はただ、きっかけと時間が必要なだけです」
「そうだねー。ハクロがこれからも嫌な事を言ってくると思うけど、あんまり気にしたら駄目だからねー」
二人ともハクロ先輩が何で私にあんな視線を向けてきたか知ってるみたいだけれど……ハクロ先輩自身が言わない限り、説明するつもりはないらしい。
結局、なんでハクロ先輩が私の事を憎悪するような視線を向けてくるのかわからなかったけれど、誰も教えてくれない以上、どうすることも出来ない。
それから、他の特待生のみんなの自己紹介を受けて、軽く話し合ってってしていると……時間はあっという間に過ぎて行った。チャイムが鳴ったと同時にアイリア先生が教室に入ってきて、軽く話してくれた後、今回は解散となった。
結局何もなかったし、ただ睨まれただけだったんだけど、これから先の事を考えたら、絶対にそれだけじゃ終わりそうにない。ベルーザ先生には悪いけれど、またもやすぐに決闘になりそうな気がして……私は思わず頭を悩ませてしまうのだった――。
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