13・穏やかな時間と不穏の始まり
決闘当日。私は学園が指定した会場である訓練場へと足を運んでいた。
「なぁ、今回の賭け、どう思う?」
「ルドゥリアが倍率1.2倍。新入生の子が5倍だろ。当然大穴狙いで行くぜ」
「あんたも好きね。ルドゥリアが勝つに決まってるじゃない」
「いいや、わからないぞ。相手はこの国の王族だっていうからな」
「そんなこと言っても、ルドゥリアの勝ちは揺るぎないだろう。積んできた訓練の量が違うさ」
「俺、あいつ嫌いだからぶっ飛ばして欲しいって思うんだけどさ、今回はやっぱ駄目だと思うんだわ」
私とルドゥリア……先輩の勝負が賭けになってるってことは知ってたけど、倍率が酷い。他の人たちも結構ずばずばと言ってくるところからも、私がどれだけ無謀な事をしてるように見えるかよくわかる。
「……み、みんな、言いたい放題言ってる」
「しょうがないわ。私はこの学園に入ったばかりなんだもの」
自分がそういう風に評価されているっていうのはあまりいい気分ではない……けれど、それだけ注目度も低いってことだ。これなら、あのルドゥリア……先輩とうまい具合に苦戦して勝てば、少しは目立たなくて済むかもしれない。
本当は負けるのが一番いいのかもしれないけど、あんなのに負けちゃったら何をされるかわからないし、お父様やお母様に合わせる顔がなくなってしまう。それだけはどんなことがあっても避けなくちゃならない。
「ティアさーん」
大きな声を上げて、手を振りながら蓋のついた大きな籠を持って走ってきてるレイアを見つけて、同じように手を振ってあげる。あの後、色々話してみて仲良くなった。クラスは違うけれど、そのおかげでこうして話せる機会が出来ただけであの時、面倒事に巻き込まれて良かったのかもしれない。
「あの……私、自分でも何が出来るかわからなかったから……これ……ティアさんに」
そう言ってレイアが開けた籠の中身はサンドイッチが入ってた。玉子にハムに野菜にと色んな種類が入ってるけど――
「ありがとう。だけど……ちょっと多いわね」
そう、籠の中に敷き詰められたサンドイッチはとてもじゃないけど一人じゃ食べきれない量だった。
「あ、はは。私、これくらいしか取り柄がないから……あ、そうだ。せっかくだからみんなで食べよう?」
一瞬しょんぼりした様子だったレイアだったけど、すぐに閃いたような笑顔で嬉しそうにしてる。
「そうね。決闘が始まるまでもう少し時間があるから、一緒に食べましょう」
「いいの……?」
「うん!」
レイアの一言に、リュネーは少し照れるように俯きながらも、嬉しそうにしてた。二人の仲の良さそうな姿を見ると、心が温まるような気がする。
「ほら、ティアちゃんも、行こう?」
「……ええ」
訓練場の中にある休憩室でレイアの作ってくれたサンドイッチに舌鼓を打ちながら、とても決闘前とは思えない程ののんびりとした時間を過ごした。そうして……とうとうその時が訪れる。
――
『さあ、いよいよやってまいりました! 本日始まるメインイベント、エスカッツ伯爵の息子ルドゥリアと、ティリアース王家に連なるリシュファス公爵家の娘エールティアの一対一のけ・っ・と・うぅぅぅっっ!! 司会は私、ゴブリン族のヘリッド・ホフマッツです! さあて、会場の方ですが、盛り上がってますねぇ!』
訓練場の実況席では、なんでか司会のゴブリン族の男の子がマイクを使って盛り上げてた。なんでこんなことになったんだろう? 賭け事とかはあるっていうのはわかってた。だけど、司会がついて、大勢の観客の声が聞こえて……こんなにも騒がしいことになるなんて思ってもみなかった。
――なんか……どんどん酷い事になってる気がする……。
頭が痛くなってくるっていうのはこういう事をいうんだろうな……ってため息が漏れる。
『さあ、前置きは長くなってはいけませんね! それではまず……ルドゥリア・エスカッツからご登場です!』
わああぁぁっっ、と歓声が聞こえてくる。随分人気のようだけど……そんな人望が彼にあるとは思えないのは私があんな姿を見てたからかな? それとも、お祭り騒ぎしたいだけなのかな?
『聞いてくださいこの歓声! やはり賭けの鉄板。彼に賭けた生徒も大勢いる事でしょう! それがこの歓声に表れております!!』
それって、ただ単に賭けてるからとりあえず応援しておこうってのが多いって事になるんだけど……多分、気にしたら負けなんだろうな。
『続きましての入場は、この国の誇る最強の王家の一人! エールティアァァァァ……リシュファスゥゥゥ!』
司会の掛け声と共に、私は通路を抜けて闘いの場へとゆっくりと……堂々とした足取りで歩みを進めた。場内に入った途端響く大きな歓声を浴びながら、今回の騒動の原因を見る。そこには私と同じ鋳つぶした剣を携えた彼が立っていた。
「く、くくくっ、覚悟は良いですか? 貴女は今日……いや、明日一日、私の物になるのですよ」
呆れて物も言えない。それが揺るぎない事実だと言わんばかりの表情をしてるんだから尚更、ね。
「御託はいいわ。さっさと始めましょう」
――どうせ、貴方が勝てる要素は何一つないのだから。私だけは私を知ってる。だけど、貴方は私の事を何も知らない。哀れな道化には、精一杯踊ってもらおう。
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