3・学園の入学式

 なんとか遅刻することなく学園にたどり着いた私は、門の前で待っていた教師の人の案内を受けて中へと入っていった。


「……わぁ、すごく綺麗な場所」


 感嘆の声を上げた私は、ありきたりな事を口にするしか出来なかった。白い学び舎に中央には噴水があって……周囲には花畑がいろどりを与えてくれる。白い門のようなものがいっぱい並んでて、かなり豪華な道に見える。乳白色って言ったっけ。


「えっと……確か……訓練場にいけばいいんだっけ」


 この学園には礼儀作法や文学の他にも、戦いや魔導など、様々な事を教えてる。だから、そういう施設も必要らしい。

 校門で案内してくれた人にもらったパンフレットを頼りに、訓練場の方まで歩いて行くと……大きくて立派な建物が校舎よりも少し奥まったところに丸い物が建ってるのが見えた。そこには私と同じ格好をした同じぐらいの子供が集まろうとしてる。


 大きな猫が二足歩行してたり、獣耳や尻尾が生えてる人が歩いてたり……見たことのない色んな種族の人が訓練場に向かってる。

 こういう景色を見ると、改めて異世界にやってきたんだなって実感が湧いてきた。


 ……こんな色んな種族がいる中で、私一人だけ浮いてしまわないかな? 少し不安もあったけれど、よくよく見たら、私以外にも似たような子がいる。


 中にはわいわいと楽しそうにお話ししてる子たちもいて、ちょっと遠くの光景を見てるような気分になった。


 そのまま訓練場の中に入ると、あまりの広さにまた驚く事になった。訓練場って言うより、闘技場なんじゃないかな? って思うような広さとすり鉢状に広がった観客席みたいな場所が余計にそう思わせてくる。


「おーい、そこの君」

「……私?」

「そうそう。リシュファス家の子だろう? こっちが君の席だよ」


 手をちょいちょいとしてる男の人が呼んでるけど……嫌だなぁ、って思いながら恐る恐るそっちの方に行く。


「……ここは貴族も平民も関係ないと聞いてますけど?」

「確かにそうだけど、王族の君が後ろの方で……っていうのもちょっと不味いからね。ここだけは譲って欲しいかな」


 怪しいものを見るような目で見ていた私に、軽く頬を掻いた男の人は苦笑いを浮かべてる。


「……わかりました」


 ため息混じりで、結局私の方が折れた。ここで少しでも揉め事になったら絶対に面倒な事になるに決まってるし、あまり男の人と話したくなかった。

 静かに席に着くと、興味深そうな目に晒される。あの人のせいで変な注目を浴びてしまったみたい。


 ……あぁ、嫌だなぁ……なんてうんざりしながらひたすら平静を装って、入学式が始まるのを待つ事にした――


 ――


 生徒が全員集まって、入学式が始まると、教師の挨拶が始まって、最後に学長の話が始まった。


「皆さん。まずは入学おめでとうございます。こうして皆さんと出会えて、私――アウグス・メナズスは嬉しく思います」


 白髪混じりの金髪が、ちょっと年を感じさせるアウグス学長の話に、ちょっとうんざりするような雰囲気が立ち込めてきた。ここまでずっと座ったままで先生たちの話を聞いてたからもう限界が来そうだったからね。


「皆さんも疲れているでしょうから、伝えたい事だけ話すとしましょう。この学園は貴族・平民問わず学べる施設であり、生活をする上でそれらの立場を使ってはならない『決まり』が存在します。決して親や自らの地位を使って、他人を貶めたり、蔑ろにしたりしてはいけません。貴方の隣人は、同じように学ぶともがらなのですから」


 アウグス学長は少し目を閉じた後、ゆっくりと私達の顔を見渡すように眺めて……一度頭を下げた。


「これで私の話は終わりです。皆さん、明日から頑張ってください」


 にこやかに笑ったアウグス学長が帰っていって――それで入学式は終わった。なんだか、最後の方だったからか、すごく印象に残ったかも。


 ――平民も貴族も、ここでは同じともがら……ね。


 言ってることは立派だと思う。だけど、それを実行するのは難しい。どんなに言い繕っても貴族と平民。分かり合う事なんて出来ないもの。


 ……さて、入学式が終わった後は、クラスに行って自己紹介して帰るって感じかな。私のクラスは――


「……そこのお前! よくも僕にぶつかったな!」


 思った通り、早速揉め事が起こったみたいだ。生徒のほとんどが移動したことを良い事に、好き放題やってるみたい。声の方に視線を向けてみると、狼が人型のように二足歩行した姿をした狼人族の男の子と、取り巻きが二人。人型に動物の耳と尻尾が生えた獣人族の小さな女の子を囲んでた。

 うんざりするような光景。さっき入学式が終わったっていうのに……浮かれた馬鹿ってのは、いつの世の中もこういうのはいるって事だろう。

 誰も助けに来ないのを知ってるのか、取り巻きの子が女の子の頭を掴むように押さえて、無理やり謝らせようとしてるのが見えた。


「ちょっと、待ちなさい!」


 そんな光景を見て、我慢できなくなった私は、大声を出して苛立たしい足取りで彼らの方に歩いていく。胡乱うろんなまなざしを向けてくる男の子たちの顔が、余計に腹立たしい。私の目の前で、弱者を甚振る真似は絶対にさせない。

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