第七十二話 きせい
並行世界での出来事が見れたとしても、それで何かが変わるわけではない。
ただ見るだけだ。鏡から飛び出ることが不可能なように、私は夕陽のやっていることを眺めているだけ。
彼女がゲームを現実世界へ持ち込むことができずただプレイしているように、自分もその光景を見ていることしかできない。
話しかけても気づかず。
手を伸ばしても届かない遠い場所。遠い世界。
白兎を全て食べることが出来なかったから、その力をうまく得られなかったのだと分かった。
でも、このまま何もできず見ているだけでいいのだろうか。
私はやりたいことがある。
この世界から飛び出したい。あの憎い生き物に対し、その身体をぐちゃぐちゃにしてやって、尊厳を破壊して、心をへし折って、死にたいと懇願するまで何度も何度も苦しい目に遭わせてやりたい。そうして玩具にして散々弄んでからごみを捨てるように放り投げたいのだ。殺してやりたいのだ。
だから私は諦めなかった。
手を伸ばさなくてもやれることはある。
直接は会えなくても、画面を通してなら────。そうよ、画面ならば私にも出来ることはある。
だって私はユウヒ。
そう、妖精ユウヒになるために生まれてきたようなものだと思っているから!
────なら、私の口調も変えなければならない。
妖精のように、少し馬鹿にするような感じで話そう。憎しみを忘れず、殺してやりたいという気持ちを隠しつつも、愛らしい妖精ちゃんを目指そうじゃないか。
彼女に直接ではない、ただ画面に向かって手を伸ばして届いた場所。
そこから彼女に契約をと迫る。それは、魂を結びつけるための行い。
魂をいっぱい食べてきたせいか、それとも白兎の半分の魂から力を得ることが出来たせいだろうか。
この長い間食べてきた魂をいろいろぐちゃぐちゃにしていたら分かった力であった。
外にいる人であっても、縁を結べばこちらへ手繰り寄せることができる。
世界が違っていても、鏡越し────画面越しであれば可能だ。
だから私は契約を行ってもらう。
夕陽の魂をこちらへ引き寄せることは出来ると思う。でもそれはきっと、彼女を殺す行為だ。
肉体が死んで魂を引き寄せてもきっとそのまま私が手にすることは難しい。
でも縁を結んでいるから────だからきっと、彼女は生まれ変わる。その時に私が殺してやればいいんだ。
私が気づくのは夕陽が生まれ変わって赤ん坊ぐらいかな。それとも幼少期? 胎児の可能性もあるかな。
生まれ変わった彼女を私が、食べればいい。
ゲーム世界の知識を手に入れればきっと出来ることが増える。
この肉体が腐る前にすぐ食べてしまえば、きっと別世界でも肉体は使える。
「初めまして夕陽ちゃん。突然ですけど貴女にはこれから私のいる世界に来てもらいますよぉー? そこでかくれんぼをしましょう! 私が鬼で、貴女は隠れる人ですよぉ!」
恐ろしい程うまくいった。
彼女は必死に逃げていたけれど、もう意味がない。
あの子は犠牲になった。でもそれは私にとって美味しい存在。
私にとって、必要な知識。
そして、別世界の肉体も手に入れることが出来た。
魂がたくさん増えたおかげでやれることもある。
夕陽の肉体に私の魂を入れて、そうして別の夕青世界────ネット世界へと私の魂の一部が飛ぶようにした。
それがあまりにも膨大過ぎてしまい、食べてしまったはずの魂はすっからかんになった。
白兎以外のほぼ全てを吸収し私の一部としたというのにだ。
だから私はまた魂を吸収しないといけない。
肉体を操っているのは私。
それを操作するのは私。
中身は私が食べたからと────そういうのって、寄生虫って言うんでしたっけ?
ちょっと胸糞悪いけれど、でもどうでもいいことだ。
魂は集まる。
並行世界からゲームを通してたくさんの人たちが餌となり、私が食らう。
やがて夕青ゲームは呪われたものと畏れられ、ゲーム自体が消えてしまったけれど、それならば別の並行世界へ飛べばいい。
私という存在がいて、夕青というゲームがあるならば私はまた画面越しに同じことを繰り返して縁を結び、魂を手繰り寄せてこちら側の世界へ引き寄せ、転生させて────釣り糸を引っ張り上げるようにそのままかっ食らうのだ。
遠くに転生しても関係ない。
別世界という概念が無くなれば私に距離なんて関係ない。
だって縁はそういうものだ。契約とは、そういうものだ。
ゲームで学んだこと、白兎から学んだことが私を生かす。
手を取り合う行為は家族、姉妹になるものだと。そういった白兎は私が食べた。
だから、家族というのはつまり私の餌になるということ。
画面越しとはいえ手を取り合ったのだから、私の一部になってもいいということでしょう。
それにしても面白い。
並行世界というだけあってか、夕青ゲームの物語もそれだけ多く異なる。大体は全く同じホラーゲームのシステムだというのに、エンディングが違う時があるのだ。
もちろんそれ以外にも────夕陽という存在が男であったり女であったり、もしくは老人や子供とまあ老若男女それぞれ違う。
見た目については、もしも私自身が子供になった姿や大人になった姿であったらといろいろ想像できて楽しかったけれど。
────いつの間にか白兎が冬乃という名前で巫女をやっていたらしい。
私がいろいろと食べていることに気づいたらしく、封印を強化してきた。
それが理解できたのは白兎が死んだあと。
私の目の前まで来た彼女は年を取り老けた顔で────とっても疲れたような顔でそう断言し実行したのだ。
ああ、その時はまだ魂を食らっていた最中だったし、もう白兎なんてどうでもよかった。
夕青というゲームの素晴らしさに気づいたから、たくさん集めた魂を使って何かできないかと実験していた最中だったから。
この世界から出るために白兎の身体が必要だけれど、私は並行世界へは画面越しから飛ぶことは出来てもこの世界では無理だ。だって封印がそれを邪魔するから。
私は相変わらず、外へ出ることができない。
並行世界で得た肉体も何もすることなく死んでいった。やるべきことはもうない。
ああ、気づかなかった自分が悪かったんだろう。
画面越しまで縁を結ぶのに長い時間をかけていたから気づかなかったのだ。
慢心していた。たくさん食べた魂を消化し、私の力にしていったせいで、私が封印されているこの世界で足掻いていればと────。
私は魂が引き寄せられなくなった。
もう二度と食らうことができない。
残りあと一つだったのに。
並行世界の夕陽の存在があって食べようとしたのに、それが無駄になった。
封印される前に手繰り寄せたから、きっと転生が出来たはずだ。
私との縁も結ばれていた。なのにそれを取り逃がした。封印が強化されたせいで縁もぶつ切りになった。
ああ……あぁ……あああああああふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな!!!!
呪いあれ。苦しんでしまえ。
私はただ自由になりたかっただけだ!!
私を苦しめる奴らを呪っただけ。
私は被害者だろう。私は呪い返しをしただけだ。
何故私をここまで嫌うのか!!
だって私は、あの妖精のように自由に生きていたかっただけ。
それなのに何故、白兎がそれを否定するの?
「あーあ、つまらないなぁー」
数多もの魂を弄び、私の中でゲーム世界を作り上げ、そこに適当な魂を配置し遊ぶようになった。
食べることが出来なくなってしまったなら、やることがない。
何もできない。今はいつの時代だろう。
────鏡越し、遠くから子供たちの声が聞こえた。
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