第六十七話 気にかかること






 目覚めた時からずっと、気になっていたことがある。


 妖精は言っていたのだ。自分の言っている言葉に嘘はないと。

 ただ矛盾している部分がたくさん存在していたというだけ。



 元々が異なる世界から連れてこられたということも含めて、妖精は言っていたじゃないか。



 が、その全ての記憶を持っていた。それが、夕日丘夕陽と言う名の女の子。妖精にそっくりな顔をした女の子がこの世界へ転生してきたこと。やりたいことがあるからと言って、妖精────あの時は、妖精はと言っていた。つまり複数人であるということ。この時点で妖精自身が眠っている本体と一部が別になっているからそう表現した可能性もある。そこはまあ気にしないでおこう。

 次にその女の子が喰われることを選んだと言った。それが最初だと。そこで妖精は別世界を知ったのだと。



 でも、それだと矛盾する部分が存在する。


 妖精は言っていたのだ。《私と契約を最初に交わしたのは夕陽と言う名の女の子でした。けど……》と。

 じゃあなぜ食べることが出来た?

 それは、直接会っていたという意味にならないのか?


 その後に妖精は言っていたじゃないか。《私は夕陽のおかげで彼女と縁がある人をこちらへ招き入れることが出来ました。ホラーゲームをやっているから……あと、いろいろと夕陽がやってくれたおかげか、縁がある人は何人も入れて遊ぶことが出来ました》ということも。

 つまり夕陽という女性は生きている可能性があるのだ。食われた人とは別に二人いて、────おそらくは、ゲームがあった世界にいた方が契約した方の夕陽であり、ゲームの知識を知り転生した方が別世界の夕陽……だろうか?

 縁がある人をこちらへ招き入れることが出来ましたという部分はおそらく俺たちの事を示すのであれば、喰われた方の夕陽の可能性がある。


 ああいや、そもそも妖精の言動だけで判断するのは難しい。これは自分の想像に過ぎないのだから……。


 それに、夕陽が二人いると考えてしまうと、妖精が話した世界とやらは四つほど存在することになる。

 まず最初に妖精が封印されたという世界。

 そして元々ゲームがあった世界。

 次に今俺たちがいる────自分たちでゲームを作り上げて、前世の記憶通りに模倣し売り出したこの世界。


 そして、妖精が自分の内側で魂を集め、夕青ゲームを作り上げて繰り返し行った悪夢の世界である。


 四つも多くあると混乱するんだが、とにかく今は想定し考えた方がいい。



(話している順番の時系列が違うだけならいいんだが……)



 夕陽が食われ、別世界にいた夕陽に出会い契約した。

 そうして縁を辿り自分たちを集め、ゲームを開始した……。そこで逃げたのが冬乃と呼ばれる少女であって、白兎じゃなかった。あの時は混乱していたせいで白兎と考えてしまったが……。


 それ以外にも妖精は矛盾したことを話した。

 妖精は元の世界へ返してあげると言っていた。しかし彼女はその前に言っていたのだ。《神無月鏡夜はまだ死んでいません。でまだ生きています。他の皆さんも……私が魂を握っているだけで、まだ生きてはいるんですよ》ということ。

 元の世界ではなく、向こう側の世界とわざわざ別の名称を使って言った。無意識のうちなのか、それともたまたまそう言ってしまったのか分からないが……。


 他の皆の魂を握ると言っていたが、それは俺と同じように目覚めた海里夏たちのことか。それとも行方不明の秋音たちのことか。


 俺より後に解放されたとは考えにくい。

 ならば────。いや、本当は考えたくないが……。


 物事には必ずと言っていいほどの理由が存在するはずなんだ。

 もちろんサイコパスやら愉快犯やらといったように、無自覚にやらかす奴もなかにはいるが……。


 それでもだ。

 妖精は一貫していた。夕青ゲームを己の内側で再現し遊び倒した。

 そうしてゲームマスターになりつつ、元の世界から夕青などのゲームをプレイした人間たちの魂を引き寄せた。


 妖精は自由になりたいと言っていた。

 それだけのために、動いていたんじゃないのか。


 様々な人生を送ってきたような記憶が頭の中にある。

 幼少期に前世の記憶を思い出した時のこと。合わせ鏡をして、秋音を妖精に会わせてしまったこと。

 幼い頃に地下へみんなと行った記憶。

 秋音だけ共に、紫の手鏡で騒動を起こしたこと。


 そうして、白兎と出会ったという記憶────は、あまり覚えていないが、きっとあるはずだ。



 そんな複数の人生を繰り返し妖精の中で行ってきたのか。

 壊れることのない玩具だからと遊んでいたのか。そうして飽きたからと俺を放り投げた?


 いいや、違う。

 何かをやろうとしていたのだ。おそらくは────。


 俺達をぐちゃぐちゃに混ぜて、魂を入れ替えていたのは何故か。

 妖精は言っていた。自由になりたいのだと。


 まるで実験を繰り返すかのように。何度も何度もゲームをリセットするようにやっていって、それで何かが分かったから俺を元の世界と呼んだ場所へ送り出したんじゃないのか。

 何か手ごたえを感じたからここへ放り込んだんじゃ……。


 何を理由に俺を送り出したのか。

 冬乃だけが目的か?


 ────海里夏は、俺に向かって思い出せと言った。

 それは、何故か。



「……元の世界、向こう側の世界。あとは、妖精が封印された世界……か?」



 紫色の手鏡がヒントになるかどうかは分からないが、とにかく秋満に会う必要がある。

 ゲームキャラクターにされてしまった以上、あいつがこれからもずっと妖精の手に堕ちず無事でいられる可能性は低い。それに記憶を思い出す手掛かりにもなりそうだったから。


 正直に言えば、俺の思い出さなければならない記憶の中にどこかへ行ってしまった冬乃の居場所があるとは思えない。

 それならば妖精が頭の中を探って確認したはずだ。


 思い出さなければならないのはそれとはまた別じゃないのか。

 



「まるでいたちごっこだな……」




 この元の世界もまた、妖精が作り上げた悪夢の世界じゃないことだけを祈ろう。

 




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