第二十九話 捏造と真実の書物








 インターネットに繋いで欲しいと、妖精がそう言った。その方がより面白くなりますよと。

 だから私はその通りに従った。何か新しいものが見れるかもしれないという好奇心。

 たかがゲームなのだから、もしかしたら複数のプレイヤーで何か出来るようになる仕掛けか何か施されているかもしれないと。


 ゲームをし始めて徹夜をした日だった。

 疲れて思考があまりにもぶっ飛んでいたようだった。


 ネットを通じて妖精は――――。




・・・







 フユノ神社。

 しかしそう呼ばれているのは――――廃れてしまったせいで読みにくくなった文字を見た子供がそう読んだのが最初だったらしい。

 数十年前からそう呼ばれているらしく、神社を知っている近所に住む子供たちもそういう名前で呼んでいる。


 町の歴史を見ればわかる。

 図書館で調べてみた中にあった、本来の名前は……。



「夕日丘神社と呼ばれたあそこは、本来は福の神を奉る場所ではないらしいな」


「……急に何?」


「紅葉が言っていたんだ。フユノ神社は福の神様がいた場所。でも今は廃れて神様のことを忘れてしまっているから、元福の神なんだと……でも実際の記録とは違っていた」



 海里は訝し気な顔で俺を見た。

 しかし俺の言葉を否定しないということは、つまりそう言うことなんだろう。



「詳しい年代は不明だが、かつて大昔――――夕日丘は山々に囲われた村だった。人々の行き交いはあったが、災害に見舞われた年があり、貧しい家族が多かったそうだ」


「…………」


「そしてその村ではとある神がいると信じられていた。その神は人々にいくつかの命を差し出せと命じてきた。そうすればそれを対価にして何かを差し上げようと言った。毎年人々は神に命を差し出した。そして福はもたらされた」



 両親に頼み数百もの文献を調べ、学校でもいくつか話を聞かせてもらった。

 嘘でしかないものもあった。

 根拠もない話だってあった。


 しかしこれだけは、いくつもの本に出てきた内容だった。


 これはそのうちの一つ。

 古びた本から出てきた昔話だ。

 誰も知らない、夕日丘の記録だった。


 普通ならそれはただの物語か何かとして扱われていただろう。


 所々解釈やら話が捏造されている部分やらがあったため、本来の話とは少し違うだろうが――――。



「ある年月に人間が神に対して命を差し出すことを止めた。差し出す命さえないほど貧しすぎたんだ。そうして神は怒り、何かが起きた。夕日丘は山が崩れて全てが土の中へ埋まった――――そして丘が出来た。

 しかしその土地に新しく住んだ人々の命をいくつか奪うようになった。人々は神の怒りだと考え神社で奉ることにした。これが夕日丘の大昔に伝わる話の一つだ」


「……ふん、何の面白みもない話だね」


「でも否定はしないんだな」


「否定も何もする必要がないっての……今から向かっている場所分かってるわけ?」



 ジト目で俺を見ているが、それを気にせず歩き続ける。


 そうしてようやくたどり着いた神社で――――海里が急に俺の腕を引っ張った。

 また引き留めようとしてきたのかと思ったが、視線が俺の方を向いていないことに気づく。ただ何かに警戒しているようで、それが何なのかわからなくて前を見た。



 その先にいた人物に顔が引き攣った。



「さ、くら……ざか?」



 泥の化け物に殺されたはずの桜坂が、神社に顔を向けていて――――俺たちに後ろ姿を見せたまま突っ立っていたのだ。





・・・




 恐怖という感情はなくなっていた。


 ただひたすら、このままではだめだと気づいた。

 いくつかの感情が消えてなくなる。

 今は一つしか考えていられなかった。


 やらなければやられる。

 殺さなければ、こちらが殺される。


 逃げることすら不可能だ。

 生命への危機感。死が一歩こちらへ近づいているような感覚。


 無理だと悟った。

 これ以上抵抗しても意味がないと悟った。



 そうして四散したのは――――己の視界だった。己の身体だった。

 痛覚は死んでいた。


 いや、実際死んだのだと理解できた。




『ああ死んだのね。なら私の……。そうだ、あなたに選択させてあげましょう。貴方はどうしたい? どうなりたい? 何が欲しい? 代償は何をくれるの?』




 その声は、妖精のそれと違って――――。





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