第四話 夕黄の忠告はさりげなく





《クリスタルを完全防衛したクラスには報酬を与えまーす! また次回もよろしくね!》




 妖精の声をきっかけに、周りが混沌と化した。


 あるところでは悲鳴が上がり気絶した者がいて、死んでいないことに泣いている者がいた。

 おそらく青組とは違って攻略法も何もないまま死んでしまった新入生がいたのだろう。恐怖で叫んだ生徒に対して訝し気な目で叱る教員と、カオスというしかない状況があった。


 在校生はいつものことだという態度で座っている。

 新入生を落ち着かせるためにか、それとも早く終わらせたいからか。


 壇上に上がった鏡夜がマイクを手に口を開いた。



「新入生代表、神無月鏡夜。此度は私たちにとって思い出となるべき入学式ですので騒ぎたくなる気持ちもありましょう。では――――」



 あいつすげえ。

 このカオスを一言でまとめて挨拶に移りやがった。


 しかも聞き流すだなんてことを許さないというかのような凛とした声で、綺麗な顔を全面的に活かした微笑を浮かべながらも。

 体育館に響く声に呆然となった生徒たちがいた。あれは夢だったのかと思っている人もいて、次第にだが妖精の声がする前の入学式の空気へ変わってきた。


 ほっと安堵しつつも、これからのことを考えて頭を抱えたい気持ちになった。



(今日一日は何とかいけたけど……)



 ああ、次もまた問題なくクリアできるかは分からない。

 鏡夜には本当に頑張ってもらわないといけない。



「……ん?」



 スカートのポケットにある違和感に気が付く。

 先生たちにバレないようこっそり取り出してみて、それがゲーム通りのものであることに苦笑した。


 手の平より小さな瓶。

 中はキラキラと半透明なオレンジ色の液体が入っている。

 俺が最初から持っていたわけじゃない。この世界において常識とは異なった液体。

 青組全員に配られたであろうものだ。


 先ほど妖精が言っていた報酬。ある意味これから先の命綱の一つ。



(幸運の瓶か……)



 ゲームの説明であった、境界線の完全修復の際に発生するらしいこの世の起源たる代物。

 クリスタル結晶から発生した余分なものを液状化させて作り上げられたとも言うべき存在だ。


 これはゲームの中でも存在していた。

 クリスタル防衛が成功した際の報酬としてもらい受けるアイテムだからだ。


 これさえあれば、あの境界線の世界で死んで幸運値が下がり一日不運になったとしても幸運の瓶に入った液体を飲めば元の状態へ回復することが出来る。


 幸運の瓶は救済措置の一つ。

 分かりやすく考えれば、ステータス回復のための薬。

 体力を満タンにするために必要不可欠なものだ。


 それが、ゲームで説明された救済アイテム。


 例えば、クリスタルを化け物に奪われ食われるとはすなわち生命力を食われるということに等しいだろう。

 そうして何度も奪われ続ければ、当然死に近づいていく。


 だがしかし、あの世界で死ぬことは自身の生命力だけを下げる行為となるだけだからあまり気にしなくてもいいと言えるだろう。幸運の瓶さえあれば元に戻るし。

 まあ、死に過ぎることによって起きたバッドエンドは複数あるからあまり多用はできないが……。


 とりあえず、チュートリアルはなんとか無事に終わった。

 でもまだ化け物との戦いは終わらない。


 これからが本番なのだから。



(……問題は明日。スカートの下に短パンぐらいは着ないとやばいな)


 次は


 いや、その前に鏡夜と話をしなくてはならない。

 挨拶が終わり自分の席へ帰ってきた鏡夜が一度だけこちらを見たあと、意味深に微笑んできたように見えた。



・・・



 ふと思ったことがある。

 廊下で夕赤主人公に優しく話しかけてくれた時のように。困っていたら助けてくれると言ったように、夕青以外の主人公に手を借りることはできるだろうかと。


 そう思ってやってきたのは、夕赤ではなく――――夕黄主人公の場所。


 あそこには絶対に裏切らず味方してくれる神様がいると知っているからだ。

 まあ元福の神である白兎が鏡夜に依存しているように、夕黄主人公に執着する神様といったところだが……。


(それにしても雰囲気違うな……)


 青組は一応いつも通りの緩い空気が流れている。

 赤組は何故か殺気に満ちていて―――そうして、黄組は恐怖に怯えて震えているように見えた。


 扉の外から覗いてみるだけでも誰かが俺を見てビビる。

 それに苦笑しながらも話しかけようとするのだが……。



「あのー……星空天さんっていますか?」


「ひっ」


「いやあの。私何もしませんから――――」


「いやだ。あの化け物が……俺が……あああああああっ!!!」



 教室から逃げるように立ち去った生徒にこちらがビビる。

 黄組って大丈夫なのか?

 防衛戦に成功したから生きているんだろ? いや死んでも不幸になるだけだから……あっ、そういっている間に逃げた生徒が派手にすっ転んだ。でもってまた怯えて逃げてる……。


(あれ、夕青より夕黄の方がやばい?)


 まあ黄組のメインである夕黄のゲームは、最大の特徴はホラーに特化させたお話でもある。

 ぶっちゃけて言えば夕青は謎。夕赤は戦闘、そして夕黄が恐怖をテーマにされている。


 だから恐怖を感じるのは仕方ないかもしれないが……。それにしてはなんか酷いような……。



「俺になんか用っすか?」


「うわっ。びっくりした!?」 



 背後から突然話しかけられたため身体をびくつかせた俺に対し、その男――――夕黄の主人公である星空天は苦笑してきた。



「あの……星空君?」


「そうっすよ。ああ、まず単刀直入に言うっすね」


「えっ」


っすよ。まあ手遅れになったらまたこっち来てほしいっすね……」


「っ――――つまり、今は来ない方がいいってこと?」



 ごくりと息を呑んで彼を見た。

 彼の言葉は、嘘じゃなければ全部正しいからだ。


 夕黄の主人公こと、星空天ほしぞらあめ

 夕青の二年生の時に転入してくるあの子と同じく隣町に位置する五色町の寺生まれだが、こちらの方が実は優秀であった。しかし漫画のように式神やら何やらを使えるわけじゃない。


 ただ受け流しているだけだ。

 俺には分からないが、視線などで幽霊に興味を持たれないようなやり方を防衛戦の初日に編み出し実践しているのだ。


 だからこそ、夕黄の主人公は鏡夜とは別ベクトルで対照的な人間だった。


 鏡夜が常識や理論的方面で頭脳に特化しているとしたら、天は非常識や超常現象方面での直感に優れた人だ。

 動物のように直感が鋭く、それに従って生きているようなもの。


 恐怖をどう克服すべきか。

 幽霊が見えた場合は、どう対処すべきか。

 不運とは、どうやり過ごすべきか。


 常識的に当てはめてやるのではない、その直感によって生き延びることに成功していく……というのが、ゲームでのシナリオである。

 その直感はある意味、星空に執着する神によって生まれた力であり、『天啓』であった。


 ホラー的な要素をふんだんに叩き込んでいることと、主人公自体が直感に鋭いため、夕青の鏡夜のように簡単に死ぬわけじゃない。

 しかし下手な行動をすれば幽霊に身体を奪われるか鏡夜のバッドエンドのように連れ去られる危険性があるため、死亡フラグは程々にあると言えるだろう。


 そんな直感に優れた彼はただ、首を横に振った。



「とりあえず一度死んでからこっちに来てくださいっす」


「一度死んでからこっち来てくださいってなに!?」


「そのままの意味っすよー。だって君、俺が協力することってなんもないし!」


「いや何っ!? えええ妖精さん何やったんだっ!?」



 彼はただ笑って「まだ手遅れじゃないんで」と言ってきた。

 その意味が良く分からなかった。



「詳しく説明してくれよ! 俺死にたくないのに!」


「だから無理っすよー! 今は自分を信じてやってみてほしいっす! その方がいいって直感が言ってるんで!」


「さっきとは言っていることが真逆なんですがっ!?」



 グダグダとしていたら――――。



「紅葉さん。できれば裏庭に来てほしいんだけど、ちょっといいかな?」


「あれ、きょ……神無月くん、もう帰ったんじゃなかったの?」


「ちょっといろいろ用事があってね……それよりいいかな。いいよね?」


「アッハイ」



 爽やかな表情を浮かべつつ目が笑っていない鏡夜が、何やら紙の束を持って俺の腕を掴んできたのだった。



「あっ、でもその……星空君に……」


「ほしぞらくん?」


「あっ、自分どうでもいいんで気にしないでくださいっす。あんたとはまた会うでしょうし」



 ひらひらと手の平を振りながらも勝手に去っていった夕黄主人公の背中に恨みを込めて睨んだ。



(なんか意味深なこと言って行きやがったし。協力してくれねえし!!)





 裏庭へとやってきた俺たちの空気は重かった。

 ぶつぶつと不機嫌な俺に対して、鏡夜もまた不機嫌そうな顔だったからだ。



 バサバサっと投げ捨てる勢いで地面に向かってばらまいた紙にどうしたのだろうかと鏡夜を見た。

 インターネットの記事か何かが印刷されているように見えたが、それらを鏡夜は冷めた目で一瞥し、その後俺を見てくる。


 こいつ、猫かぶるのやめたのか?



「あ、の……?」


「夕日丘高等学校の事件についてまとめたものだ。ここにあるのは20枚程度だが、調べた限りじゃまだまだ闇があるようだな」


「えっ、いつの間に調べたんだよ!?」


「全部終わってからすぐにだ。パソコンが置いてある情報室で印刷したんだよ」



 拾い上げてみた紙の1枚には、確かに過去ここの生徒が不幸な事故に遭って死亡したニュースについてまとめられていた。

 名前も年齢も、いつ亡くなったのかについても。


 こいつやるとなったら行動が早い。さすが主人公。



「あらゆる情報はあらゆる面で効果的に使うことが出来る。それで調べた結果、お前が妄言ではなく本当のことを言っているのだと心の底から理解が出来た」



 鏡夜は言葉を続ける。

 ものすごく棘のある雰囲気を醸し出しながらも、氷のように冷めた目で……。



「ゲームとして知っていたといった言葉自体が嘘だとするならば、例えば卒業生にお前の身内がいてその情報を知っていたならと思ったんだ。もしかしたら身内に被害者がいたから知っていて俺に話したんじゃないかと、ゲームについては嘘なんじゃないかとな」


「あー、うん……」


「結果はゼロ。噂も何もなく、卒業者が身内に話したという内容もない。妖精が何かを仕掛けているのだと判断した。例えば卒業生の記憶を抹消するとか、学校の外ではあの世界について話すことや記載することが出来ないとな」


 お手上げだというように鏡夜が肩をすくめる。それに俺はただ苦笑をした。



「うん。実際にやっているからね……」


「ああ。それに学校内で死亡者数が多いくせに騒ぎにならないのはおかしいから、何かやっているだろうとは思っていた」



 にっこりと笑った鏡夜が空を見上げた。

 何を考えているのか分からず、ただ空から俺へと視線を戻す頃にはその表情は真顔へと変化していた。



「嘘だと思いたかった」



 獲物を見るような目で、逃げ出すことは許さないというような声で言う。



「お前は俺のことを生まれる前から知っていたといったな?」


「う、うん」


「全部を知っていると、そういう意味で捉えていいんだな?」


「……うん」



 鏡夜の目が細まる。

 敵意をむき出しにして、知られたくない過去を知っているかもしれないという俺に対して……。



「俺が忘れてはならないあの過去を、知ってるというんだな」



 鏡夜のトラウマ。

 小学校の頃に起きた、心の底から信じていたはずの親友に裏切られた過去のこと。

 優秀過ぎる頭脳に嫉妬した親友によって嵌められて、鏡夜の全てを否定したあの――――。


 ……あの?


 いや違う。

 確かに知ってはいる。その状況も、鏡夜が絶望したという表情も知っている。

 なのになぜか――――その親友の顔が浮かばないのだ。名前が思い出せないのだ。



「あの……ごめん訂正する。俺は全部を知らない。でも君の一部分は知っているよ」


「……そうか」



 それでもだと、鏡夜は言葉を続ける。



「俺に対して同情するか、それとも失望するか?」


「ううん、しないよ」



 確か、いじめにも発展したあれのせいで、鏡夜は猫をかぶるようになったのがゲーム設定だったか。

 人を信じることが難しく、一人で生きていこうとする。


 だからこそ夕青はギスギスゲームと化したのだから。


 鏡夜が俺を警戒するならば、俺はそのままでもいいと受け入れる。

 ただ俺がやりたいことだけを、信じてもらえればいいと思い口を開いた。



「無条件で裏切らないって言葉を信じられないならこう言うよ――――俺はただ生き残って平和に穏便に暮らしたいから、鏡夜を利用していきたいって思う。鏡夜がいるから生き残れる。だから裏切らない」


「はぁ?」



 馬鹿にしたような目で俺を見た鏡夜に対して怒りも何もない。

 ただあるのは焦り。


 鏡夜が俺を敵だと思うことだけは避けたいという。それだけの思い。



「鏡夜がいないと、俺は生きていけないから」



 その言葉に、彼は一瞬動きを止めた。



「鏡夜のためにではなくて、俺のために鏡夜を裏切らない」


「俺が……俺の知恵が必要だから、裏切らないと?」


「そう考えてくれていい。だから信じろとは言わない。俺は俺で勝手にお前を信じて動く。俺をお前にとって都合のいい道具。ただの人形だと思って接すればいい」



 俺を普通のクラスメイトだと思うよりは、その方が楽だろう。

 そういった意味を、どう受け取ったのだろうか。


 気が付いたら彼は、身体を震わせていた。



「馬鹿じゃないのか」



 わなわなと歪ませた口元が喉を震わせる。まるで泣いているかのようだ。

 どうしたのだろうかと首を傾けた。


 だって鏡夜は人を信じない。

 人ではないから、白兎に好意を持った。

 猫かぶりで性根を見せない、そういうキャラクター。


 そう分かっているからこそ、分かりやすい変化に理解ができないでいた。


 ただ彼は俺を睨みつけて……でもすぐに視線を逸らして。

 何かを言おうとして口を開くけれど、すぐに閉じた様子がおかしかった。


 なんだか動揺しているようだった。――――あの神無月鏡夜が?



「……あの、鏡夜?」


「うるさい。お前が言ったんだ。俺の道具になるんだと。ならその通りに動け。お前は今から俺の道具となれ」


「お、おう」



 それでいいんだと、彼は頷く。

 ようやく冷静になれたのだろう。いつものツンとした雰囲気で俺を見てくる。


 そうして鏡夜は、ポケットからあるものを取り出して見せた。



「これが何なのかについて話せ」



 見せてきたのは、あの幸運の瓶だった。

 どうやら鏡夜も気づいたみたいだが、それが何なのか分かっていない様子。


 ゲームでは一応アイテム欄に名前と説明が表示されるんだけれど……そういえばここ現実だから説明も何もないよな……。



(でも、話していいのか? だってあの星空が微妙なこと言ってきたのに……)



 素直に話すのか戸惑いつつも、しかし鏡夜が話せと言ってきたのだし仕方がないかと口を開く。

 だって俺にとっては嘘を言ってはいない。


 ――――俺の記憶は正しく、その情報に嘘偽りは全くないはずだから。



 そう思っていると、鏡夜がまた言葉を紡ぐ。



「この報酬について全部確認したよ。青組は生徒全員が持っていた。赤組と黄色組を確認したが、赤組はあって黄組にはなかった。つまりこれは……あの時言い捨てていった、妖精の報酬ということか?」



 鏡夜の言った内容に驚く部分があった。

 だって、黄組にはなかったということは――――すなわち、防衛戦で負けたということだ。

 

 だから黄組の生徒たちはあんなに恐怖の色を浮かべていたのか?


 というか、あの直観力に長けた星空がクリスタルを奪わせた?

 あれ、どういうことだ……。



「紅葉」



 鋭い目で、別のことを考えるなと言外に言う。

 それに俺はハッと我に返った。



「あっ……えっと。うんそういうこと。これはあのクリスタルの力の余った部分。いわゆる生命力の液体でもあり、幸運値を上げるアイテムでもあるんだ。

 これを飲んだら幸運が上がるから、例えば今ここで飲んだとしたら必ず何かラッキーなことが起きるよ。無くしたものが見つかったとかそういう感じでね」



 思考を切り替えて鏡夜の話を聞くことに専念する。

 考え込むように一瞬口を閉ざしたが、鏡夜は質問を続ける。



「……ゲームでは何に使われていた?」


「クリスタルの防衛失敗を連続で起こした時や死に過ぎた時に使うステータス回復のためのもの。生命力や幸運が下がるとあの世の住人達に連れていかれる可能性が高くなるから……」


「……いくつか聞きたいことが出来たから後で覚えてろ。とにかくこれは回復のための道具。それも生命力のものということだな」


「う、うん。それと全部話すのでお手柔らかにお願いします……」



 瓶を見ている鏡夜は何かを考えているように見えた。

 太陽の光に照らされたそれはキラキラと光っていてとても綺麗で、そのままインテリアとして使いたくなるように感じた。


 回復アイテムとして重要だから保持した方がいいと口を開こうとした瞬間だった。



「これを囮に使うことはできるか?」


「えっ、はい!?」



 呆然と彼を見てしまった。

 しかし鏡夜はそれが正しいと思っているようだ。


 何を言っているんだこの主人公。

 当たり前のような顔をして、何を言うんだよこいつ!?



「これはいわば液体となったクリスタルの結晶そのものなんだろう? ならこれを利用して化け物共を引き付ける囮に利用できないかと聞いているんだ」


「いやその発想はなかったわ」



 幸運の瓶のシステムは、いわば最後の救済措置。

 リセットしなくてはならない状況下にのみ発動する、究極のアイテムに他ならない。

 序盤でもらえるのだってある意味罠のようなもの。難易度が上がるにつれてもらうことすら困難になるんだ。

 

 それを、囮として使う――――それはつまり、前世で夕青ゲームをしたプレイヤーにとっては己の命をドブに投げ捨てるのと同じこと。

 


「なあ鏡夜、それどういう意味なのか分かっているわけ? 何にどうやって使うのかは分からないけれど……それは命に等しいものなんだぜ?」


「それがどうした。俺たちの命はこの小さな瓶の中に入った液体か? 使わず大切に保管するより、次の戦いに向けて何かしらに使えるか試した方が身のためだ」


「うぐ……」



 これは多分、ゲームをやりこんだ俺と現実を見通している鏡夜との認識の差なのだろう。

 でも大丈夫なのだろうか。



「もしもそれを意味なく無駄に使ったらどうするんだよ。もう貰えないかもしれないんだぞ」


「そうなったらその時に考えよう」



 うむむ。無駄に効率的で潔いなこいつ……。


 いやでもおかしい。 

 普通死ぬ目に遭って、今度は確実に殺されるかもしれないって時に絶対に助かるって分かるなら誰しも縋りたくなるってもんだろう。


 俺は万が一を考えると怖い。

 俺の知識はこのゲーム全てを覚えているわけじゃないんだ。鏡夜の頭があっても、絶対に助かるという可能性はないんだ。


 だから誰もが手放さないのが普通のはずの希少なアイテムをどうでもいい化け物相手に使うとか……。

 思わずジト目で鏡夜を見たが、彼は涼しげな顔をしながら鼻で笑ってきたのだった。


 その目はなんだか懐かしく感じて……。


 ああそういえばと、星空の話を思い出す。



「……あのさ。俺の情報が間違っている可能性もあるんだぞ」


「その時はその時だ。しかしあの時お前の情報を信じた結果全員が生き残ったんだ」


「だから瓶についての話も信じるって?」



 俺の問いかけに対して、鏡夜は自信満々に頷いた。



「本当のことを言っていると思い込んだ狂人だったら、その時にお前を罵ってやろう」



 まあ最初からそんな思い込みの激しい馬鹿はいないがなと、鏡夜は言った。




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