第8話 かわいい社長
心が曇天模様の月曜日、ちょっと残業して帰路に着く。何度目かのLIN□を開くと、藤田くんからの通知がある。一週間経って、流石に連絡して来た。
[白沢さん、ごめんなさい]
って、書いてある。
[調子に乗ってすみませんでした]
と、続いて……
[直接、謝らせてもらう時間もらえませんか]
と。
ブロックしてるから、こっちが幾ら読んでも藤田くんの方に私の既読が着く事は無い。物凄いズルい事をしてる罪悪感に苛まれる。
今なら、ブロックを解除すれば既読がつくし、こちらから返信も出来る。なのに、私にはその勇気がない。ブロックするときにあった躊躇の無さは何だったのかと思うほど。
調子に乗ってたのは自分で、こんな自分じゃとても社内の藤田くんとマトモな仲には戻れない。藤田くんに酔って絡んでまたがって「わんわん言え〜」って命令した最悪なキャラだよ。覚醒したわけじゃない……はず。あれはもう、何かに取り憑かれてたという事で……人生の汚点。
私なんか終わってるよ!
藤田くんの記憶から消えたい!
そしてその週の土曜日の夜、月曜日から通知が途絶えていた藤田くんから電話の着信が来た。これで、私がブロックしている事に気が付かれてしまい、私のタイムラインが見れなくなっていたと、藤田くんから再びコメントが来た。
最後は[ごめんなさい]と締め括られて、私はなんだか泣けた。
傷心した月曜日の朝、出勤タイムの会社のエントランスで外出前の社長とバッタリ。テンションを営業に切り替える。
「まどかくん」
「社長〜! おはようございます」
私は社長とちょっと仲良し。本来なら気楽にお目通り敵う立場ではない。社の闇ルールのおかげで社長から直接金一封いただき、社内噂話の雑談タイムを二回もしている。
男性としては少し背が低いけどガッチリとした体格のおじさん。例えばサウナでタオル一枚で座っていても、あ、この人は只者ではないなって分かる感じ。
「まどかくん、そろそろ何か無い? 」
「はい、実はとびっきりのネタがありますよ。そろそろかも知れないのでお待ちください」
「それは楽しみだなぁ〜! ところで、まどかくんの本人はそろそろ何か無いか? おっと……これはセクハラだったかな……」
社長の声が心配そうに細くなって、相変わらず腹黒いのに気が良い人なんだ。
「すみません、何にも無いんです。本当はそろそろ欲しいところなんですけど」
笑顔で社長の心配を跳ね返す。まさか二週間で二回も失恋してるなんて痛いなんてもんじゃ無いんだけど。ん? 二回?
「まどかくん、今一番きれいになってるのになぁ〜。本当は何かあるんじゃ無いの? 」
ヒソヒソ話の社長。社長、ありがとう。
「社長、そこはオフレコでお願いしまーす」
と、私は調子を合わせるけど、もう社内カップルリサーチからは引退する。最後に綾香さんと要くんは、頃合いを見てカマをかけてみようと思う。綾香さんの年齢からするとスピード婚はあり得る。要くんは早婚タイプと私は見ている。
こういう事は快活に頭が回転してしまう。ちょっと気が晴れた。社長との談笑を終わらせてお別れし、振り返ると目の前に藤田くんが立ってた。
——うっそ!
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