隕石
森田さんが掴んだ情報。
不可解な事件が起こってる事を桜庭さんから聞かされる。
私には何の事かは分からないけど、気になってた事はある。
優子さんが言ってたチンピラ同士の争いだ。
初めて聞いたのが去年の夏休み。
あれからも目立つ程じゃないにしても右肩上がりにはなってる。
不可解な事件に輓近の魔術師、そしてチンピラの争いが繋がりを持ってるかどうかは分からない。
だけど規模が大きいって事は、それだけ人が動くって事なんじゃないか。
それに何の関わりがあるって言われたら何も答えられない。
「誰が動いたら。どこが、誰が動くのかを見ているのかもしれないわね」
桜庭さんがモニターから目を逸らさず呟く。
「一見すると不可解だけれど。1つだけ言える事は、その事実に対して動くモノがいるって事」
漠然としてはいるけど、真理ではある。
「大犯罪を実行する為の大掛かりな下準備」
……そんな事、本当に可能なのだろうか。
大きな地域で?
出来る訳が無い。
「不可能な理由を作る事は簡単よ。けれどそれを可能にする方法が本当にあったら」
桜庭さんの目は真剣そのものだった。
「取り返しのつかない事になるわ」
……そうかもしれない。
現に魔術師の行動を予測して、不審と思われる車を発見する事なんて普通は出来ない。
それを可能にする方法がここにはある。
それが私だけって思い上がってたのかもしれない。
「さっきの言葉は翔太君の言葉よ。覚えておきなさい」
由佳さんは翔太さんのものです。
全ての準備を整えた。
この瞬間の為に。
罪人の目覚めを待つ。
何も分からない状態のまま、一瞬で意識と命が吹き飛ぶ。
文字通りの断罪を。
「輓近の魔術師か?」
振り下ろそうとしたステッキを止め、ゆっくりと振り返る。
犯罪を実行する時に、1つだけ忠告を受けた。
その人物なのか。
直感で分かる。
スーツではない、ただの2人の学生にしか見えない。
貴方が吉野翔太?
服装は違うけど、目撃された画像と同じ女だろう。
全身黒の魔術師は、ただのスーツ姿でここにいる。
あどけなさがありながらも、月光に反射した眼光は犯罪者そのもの。
しかもただの犯罪者じゃない。
犯罪だと微塵も思わず実行してる顔。
「どうしてここだと?」
女はこれ以上無い程悦ぶ。
「貴女の行動、全てを事件から推測した」
女は嬉々とした表情を崩さない。
何だ?
映像を見た限りだと、目的を冷徹に実行してた。
「それだけでここに来るには不十分」
少なくとも俺にはそう見えた。
なのに、何故俺達がここに来た事を悦ぶ?
「貴女を」
言葉を続ける由佳を遮る。
……この女の狙い。
「たまたまここに旅行には来てない筈」
推測が確信に変わる。
根拠は充分。
嬉々とした女に一言言い放つ。
てめーの思惑は終わりだ。
女は嗤ってた。
あたしの言葉を翔太が遮る。
その意味は分かんなかったけど、翔太は真っ直ぐに女を見てる。
「種を蒔いてこっちの動きを見てガラス張りにする……って所だな?」
「どうしてここに来ると分かった?」
「それが一番知りたい情報って事か」
全く噛み合わない会話が飛び交う。
「私は魔術師だ。一振りで唱えて終わり」
「なら俺達が来た事に動じてないで、直ぐにでも唱えて終わらせれば良い筈」
そんな会話の中に伺える攻防。
「黒の御使いか?」
「そんな組織は知らない」
「黒の御使いが組織なんて一言も言ってない」
「明らかに人の名前では無い」
どっちが先に口を滑らせるか。
後ろにある犯罪者と、あたし達の持ってるPC。
PCが犯罪者に知られれば。
ハッキングなんてされてしまえば。
嫌な事しか想像できない。
あたし達の持ってる武器は、同時にリスクでもあるのだ。
「俺からの証言が重要って事か」
「リアルタイムで探さない限り不可能」
「例えば盗聴器で俺達の会話を聞いてる奴がいるなら俺の証言が重要だな」
女が一瞬だけ表情を崩す。
気を失ってた男の人が目を覚ます。
「タイムアップ」
女は心の底から悦び、ステッキを天井に振り上げる。
そして一言だけ。
ただ囁いた。
メテオ。
天井から大きな何かが左右に開く。
色は分からないけど、金属?
月明かりに照らされた女の嗤い顔に心の底から嫌悪を抱く。
そして見上げた光景に、言葉が出なくなる。
「な……!」
炎を纏った巨大な岩が幾つもここをめがけて降って来る。
言葉より先に体が動く。
女は素早くあたし達の間をすり抜け、どこかに消える。
「クソ!」
翔太に遅れ、2人で被害者を立たせ、出口へ急ぐ。
出口に急ぎながら天井を見上げる。
隕石らしきものは極限まで大きくなり。
天井が爆散した。
あの時の事が蘇る。
だけど気持ちは全然違ってた。
これ位の事で死んでたまるか。
沸々と沸き起こる。
犯罪者に対しての反骨心。
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