第四章 家族
第52話 二人で見る花火
楽しかった旅行も終わり、普通の日常に戻る。
仕事と家の往復する毎日。
あんなにいた講師たちは徐々に人数を減らし、俺が代理で出る事が多くなった。
今日も代理で他の店舗に行き、終わったら所属店に戻り、打ち合わせ。
毎日残業しても、追いつかない仕事に段々疲れが出てくる。
「片岡さん、最近疲れていませんか?」
成瀬さんも俺が持っていたコマに出てもらう事が多くなり、彼女も忙しい。
早く人の補充をしてもらわないとギブしそう。
「だいじょーぶ! 若さでカバー!」
「無理、しないでくださいね……」
彼女の優しい言葉に涙が出そうです。
それに引き替え……。
「片岡君! これ、組み込みと設定お願い!」
鬼! 昨日も同じセリフ聞きましたよ!
「分かりました! 任せてください!」
「と言う訳で、先に帰っててください」
「私も手伝いますか?」
「いや、大丈夫。早く帰って休んで。ここで成瀬さんに倒られたら、もっと大変だからさ」
彼女を先に帰し、俺も仕事に戻る。
疲れた、眠い、腹減った。
――
そんな日々を繰り返し、気が付いたら大学の文化祭。
世間はすっかり秋になっていたようだ。
この日は仕事を早めに終わらせ、大学の文化祭に顔を出す。
去年は実行委員として参加したが、今年はお客さんだ。
「大学の文化祭って楽しそうですよね」
今日は成瀬さんと一緒に大学を見て回る。
焼きそば買って、トン汁食べて、綿菓子を食べる。
そして、ステージを見て楽しんだ。
たまには息抜きしないとね。
俺のいたサークルを遠目から見る。
昔のメンバーが今でもいた。
何となく声をかけようと思ったがやめる。
俺のいる場所はここではない、もう別の場所なんだ。
優希も北川、それに雅もサークルの出している店で売り子中のようだ。
女子は黒いメイドっぽい服に白いエプロン。うん、可愛いね。
そして、男たちはなぜか全員黒スーツ。何だか嫌な記憶がよみがえる。
少し離れた所に、例の男が座っており、優希をずっと眺めている。
なんだ、あいつまだいたのか。
しかし、俺の心は揺れ動く事は無い。
もう、過去の事だ。
気が付くとすっかりと日が暮れ、辺りは暗くなる。
そろそろ花火の時間ですね。
ステージから少し離れた芝生に成瀬さんと行き、かき氷片手に空を眺める。
去年は一人で見た花火。今年は同僚と一緒だ。
――ヒューン ドォーン
大きな花火が揚がる。
夏ではなく秋の花火。なかなかいいよね。
「綺麗ですね」
「そうだな、毎年恒例の花火だし、気合も入っているんだろ」
二人で見る花火はとても綺麗だけど、何となく寂しい。
なんでだろうか。
「さて、花火も終わったし帰ろうか」
「あの、今から片岡さんの家に遊びに行ってもいいですか?」
「別にいいけど、じゃぁ屋台の残り物でも買って行きますか」
「はいっ」
二人で安くなった残り物を買いあさり、自宅に帰る。
ちょっとした飲み物も買い込み、二人で飲んだ。
そして……。
「片岡さん! 足りませんよ! もっと飲んでくださいよ!」
「いや、俺はもういいよ。それより、成瀬さん飲みすぎじゃ?」
彼女の前に空になった缶が二本。
たったこれしか飲んでいないのにすっかり出来上がっている。
「まだ、だいじょーぶ! たこ焼きおしひーですね!」
すっかりヘロヘロじゃないか。
「あの、帰れるの?」
「……帰りませんにょ! 明日は午後からなので、泊めてください!」
……まじすか?
「送っていくよ」
「二人共アルコール入ってますよ、残念!」
「もしかして……」
「もしかします!」
まずい。どうしよう……。
こんなとき、救世主が来てくれれば!
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