第51話 親友とは


 酔いながらゲームをするってすごいですね。

先輩にそんな願望があるなんて初めて知りましたよ。

夜も更け、さすがに眠くなってくる。


「明日の朝ごはん、八時だよ。そろそろ寝る?」


「酒がなーい! つまみもなーい! 寝ますか!」


「純平、少し飲みすぎじゃ?」


「先輩だってそうじゃないですか! さっきから上半身裸ですよ!」


「熱いんだからしょうがないだろ? さ、寝ようか」


 言葉はいつも通りなのに、見た感じ相当酔っている先輩。

みんなで歯を磨き、布団の潜り込む。

三つ並んだお布団。


 俺は窓際の布団で一人寝に着く。

が、寝れない。気持ちが高ぶって寝つけない。


 ふと隣で寝ている二人の方を覗いてみる。


「だめ、聞こえちゃうよ」


「大丈夫、純平はもう寝てるよ」


「ダメだって……。今日は我慢してよっ」


 って事もなく、先輩はすでにいびきをかいて寝ている。

早いな、もう寝たのか。


 雅も目を閉じており、寝息が聞こえる。

なかなか可愛い寝顔ですね。


 二人を横目に一人部屋を出る。

ロビーにある自販機でお酒を一本購入。

そのまま良い景色の見えるソファーに座り、一人景色を眺める。


 外は真っ暗で何も見えない。月が明るく照らしているはずなのに、風景は見えない。

ま、周りは山ばっかりだし、見えなくて当然か。


 ロビーのうす暗い明かりだけが俺を照らしている。

誰もいないロビー、昼間来た時とは随分違うんだな。


 隣に誰かが座った。


「それ、私にも」


 俺の手から飲みかけお酒が奪われた。

グイっと飲む雅。何してるんですか?


「んぐっ、まずい……。なにこれ?」


「ウィスキーの水割り。部屋ではカクテルと日本酒が多かったから」


「何でこんなもの飲んでるの?」


「あー、店でよく飲んでた。単価が高いからいい収入だったんだけどね」


「そっか、おいしい?」


「まぁまぁかな。一人の時は良く飲んでるよ」


「おいしいならいいよ。純平、もう過去にこだわってない?」


 雅の言う過去。

それはきっと、優希の事であり、ホスト時代の事だろう。

結果として、俺は大学を辞め、今は契約社員。


 俺は雅や武本先輩とは違う人生を歩む。

学歴も収入も人との付き合い方も全てが違うだろう。

だが、今の俺はそれでもいいと思っている。


「忘れる事は無いけど、俺はちゃんと自分を見てるよ。悪いな、心配かけて」


「武ちゃんの卒業前、みんなで遊びに行こうかって話しにしてるんだけど。本当はね……」


 俺は雅の口元に指をあてる。


「言わなくていいよ。何となくわかるから」


「そっか。純平は私の良き理解者だね」


「雅も俺の事、良くわかってるな。何か飲む? 顔に飲みたいって書いてあるぞ」


「よくお分かりで」


 誰もいないロビー。

月を見ながら二人でソファーに座る。

もし、先輩が就職して、雅もついて行ったら、俺はまた一人になるのか。

ま、それも人生。一人でも大丈夫だろ。


「雅は就職活動するのか?」


「そろそろ考えるよ」


「何か考えてるの?」


「まだ特には。あ、でも一つだけ条件があるかな?」


「条件」


「うん。今の所から通える範囲。遠くに行くとか絶対に嫌だしね」


「……先輩が遠くに行ったら?」


「……」


 回答が無い。

雅は何を考えているんだ?

遠距離恋愛できないって事なのかな?


「まだ二人共決まってないし、これからだよね」


「そうだね。まだ先の話だもんね」


 少し悲しそうな表情で外を見る雅。

何を考えてるんだろうか。


「そろそろ寝ようか」


「寝ますか! 明日も運転頑張るぞー!」


「期待してるよっ」


 腕に絡んでくる雅。

昔からこいつはこんな感じだ。


 男と女の間に友情はあるのか?

その答えは恐らく『ある』だろう。


 恋関係にならない男女。

好きな所も嫌いも所も全部知って、今も昔も知る。

そして、お互いの事を理解し合う。

それが親友ってやつだ。


 俺は親友の為ならこの先もやっていけそうな気がする。

だけど、親友と思っていた奴が裏切る事もある。

それでも、俺は雅を、雅だけは信じてもいいような気がする。



【後書き】

第三章完結です。


腐った主人公は徐々に普通の生活を取り戻していきます。

心に闇を持ったまま、人を信用しないまま。


だけど人は一人では生きていけない。

何を信じ、何を求め、何を行い、何の為に生きるのか。


それはきっと本人にしか分からないと思います。


これを読んでいる読者様。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

多くの作品の中から当作品を選んでいただき、そしてここまで読んでいただけた事に感謝いたします。是非、最終話までお付き合いください。


次章、ついに最終章となります。(多分

主人公がどうなるのか。

ご期待ください。


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