第47話 蘇る記憶


「成瀬さんも来ていたんだね」


 部屋のテーブルに四人。

こんなに人が集まるのは勉強会以来だな……。


 ふと、昔の記憶がよみがえる。

また、俺の心は少し痛くなった。

忘れたくても忘れられない記憶。

出来れば封印しておきたい出来事。


 しかし、実際に起きた事であり、俺の記憶から消える事は無い。


「旅行、楽しそうですね」


 成瀬さんがちょっとうらやましそうに話してくる。


「俺も大学四年だし、就職したら忙しくなるからみんなで行けたらいいねって。雅がホテルをたまたま見つけてくれてね……」


「そう、たまたまいいホテルが格安で。今回は純平の車に乗せてもらう事になったの」


「では、その間の講師は私がしっかりと担当させてもらいますね」


 大変ありがたい。予め成瀬さんに教えておいてよかった。

ありがとうございます!


「あー、お腹すいた。早く話しを詰めて帰ろう」


「あの片岡さんも、武本さんもお腹すいていません? カレー作ったんですが……」


 ですよね! この香り、カレーですよね!


「純平、いいのか?」


「折角だからみんなでいただこうか? 成瀬さんもいいかな?」


「私は別にいいですよ」


 成瀬さんの作ってくれたカレーをみんなで食べる。

何だか変な雰囲気だし、違和感がある。


 だが、まいうー。

俺よりもおいしいカレーかもしれない。

ちょっとカレーには自信があったのに、悔しい!


「成瀬さん、このカレーおいしいですね」


「ありがとうございます。料理は昔から好きなので、それなりには作れますよ」


 あざーっす! 明日の朝もカレーにしよう!

……カレーパン。思い出す、カレーの思い出。


 朝起きたらテーブルにあったカレートースト。

今食べているカレーとは違うけど、これもカレーだ。

俺じゃない人の作ったカレー。

知っている人間の作った、レトルトじゃないカレー。


 猛烈に気持ち悪くなってきた。

今さっきまでおいしかったカレーがおいしくなくなる瞬間。


 なんでだ? 外食しても、先輩の家で食べても何も感じなかったのに。

俺はなんで気持ち悪くなっている。

だんだん涙目になってきた。出しちゃだめだ。

早く食べきらないと、折角作ってくれた成瀬さんに悪い!


「純平、そんなにおいしいの? 泣くほどおいしい?」


 違う、違うんだよ。そうじゃないんだよ!


「うん……。おいしいよっ!」


 俺は頑張って全部食べた。

確かにおいしいと思うんだけど、俺の体はどうしたんだ……。


 そして、旅行の打ち合わせは終わり、一度お開き。

打ち合わせが終わった後も二人は俺の部屋に残り、計画の続きを話してる。


 俺は成瀬さんが持ってきた資料に目を通し、これからの方針を考える。

しかし、すでに良い時間。簡単な話しかできなかった。


「今日はもう遅いので、そろそろ帰りますね」


「もうそんな時間か……」


「武ちゃん、私達もそろそろ」


「そうだね、帰ろうか」


 結構遅くなったな。


「では、お邪魔しました」


 成瀬さんは丁寧にお辞儀し、そして歩き始める。


「遅いし送っていくよ」


 帰ろうとした成瀬さんに声をかける。


「本当? 良かったね武ちゃん、純平、送ってくれるって」


 あ、そうきちゃう?


「いいのか? なんか悪いな」


「もちろん良いですよ。成瀬さんも送っていくよ」


 俺はマイハニーのエンジンをかけ、三人を乗せる。

助手席に成瀬さん、後部座席に先輩と雅。


 バックミラーに映った雅の表情。

なんでそんな悲しそうな表情するんだ?

俺、何か雅にやらかしたのか?

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