第18話 三人で勉強会


 夏休み前、大学では前期の試験が始まる。

この期間、図書室も埋まり、学食はレポートや過去問のコピーを広げた学生で埋まる。

俺も勉強をしたいが、空きスペースが無い。


「純君、こんな時はどうするんですか?」


 優希もあぶれてしまった。

最近昼以外の時は優希と会う事をしなくなり、お互いのクラスメイトと過ごすようにしている。

武本先輩に言われた通り、やはり同じクラスの輪にも入らなければならない。


「必要なものを手に入れたら後は自宅で勉強だな」


「そうですか……。私のテスト勉強に付き合ってもらえますか?」


「別にいいけど。家に来るか?」


「喜んでっ」


 お泊りセットも常駐しているので学校帰りに直接家に来た。

家に入り、テーブルに勉強道具を展開。

さて、やりますか。


――ピンポーン


 誰だ?

インターホンが鳴り、のぞき穴から外をうかがう。


『おれおれー』


 玄関のカギを開け、二階の大原を玄関い招き入れる。


「どうした?」


「どうせ勉強するんだろ? 俺も一緒に」


「先客がいるけどいいか?」


「彼女?」


「うん」


「俺、邪魔かな?」


「いや、真面目に勉強するから」


「邪魔だったらすぐに言ってくれよ」


 こうして三人の勉強会が始まる。

優希には俺と大原が交互に教え、なかなかいいペースで自分の勉強もできる。


「大原さん、説明がわかりやすいですね。助かりますっ」


「まーなー。こう見えても純平よりも成績いいし」


 学科が異なるし、受けている授業も違う。

だが、相対的に見て俺よりも大原の方が俺よりもできるだろう。


 すっかり夜も更け、良い時間になった。


――グゥゥゥゥ


「お、俺じゃないぞ!」


 と言う事は優希か?


「ははは、お腹すきません?」


 夕飯の時間を飛ばし、勉強に励む。

うん、学生っぽいね。


「どれ、俺がなんか適当に作るか。パスタでいいか?」


「お、純平が作ってくれるのか?」


「帰るか?」


「いえ、ご馳走になります!」


 調子の良い奴だ。


「何か手伝いますか?」


「いや、いいよ。勉強進めてても」


「では、お言葉に甘えて。大原さん、ここ教えてほしいんですけど」


「これか? これは、この公式にこれを代入して、こう解く。ほら、簡単だろ?」


「……そ、そうですね」


 優希の奴大丈夫かな?

心なしか、二人の距離が近いような気がする。

ま、気にする事無いか。


 時計の針が十二時をまわり、一度お開きになる。

大原も持参した勉強道具をまとめ、帰ろうとしている。


「大原さんは、純君と仲が良いんですか?」


「俺か? まぁ、付き合いは一年そこそこだけど、俺は親友だと思ってるよ」


「なんだ、大原はそんな風に思っていたのか?」


「純平はどう思っているか分からないけどな」


「俺だって親友だと思っているよ。だてに同じ寮から同じアパートに引っ越したりはしないさ」


「と言う事だ。俺と純平はこんな感じの仲だな」


 しばらく由紀が何かを考えている。


「あの、良かったら連絡先教えてもらえませんか?」


 ん? 珍しいな。

細村の時には聞かなかったのに。


「連絡先? 別にいいけど、純平教えてもいいよな?」


「別に」


 目の前で交換される電話番号。

互いにコールし合い、番号を登録している。

何となく、胸がチクッとした。


「どれ、そろそろ帰るよ。明日も学校だしな」


「お疲れ―、またな」


「色々とありがとうございました。また、教えてくださいね」


 優希は俺に向けるような笑顔を、大原にも向ける。

何となくイラッとした。大人げないな、俺。


 部屋に二人、散乱したテーブルを片付け、寝る準備をする。

先に優希がシャワーを浴び、次に俺が入る。


「どれ寝ますか」


「うん」


 一緒に布団に入り、手電気を消す。

暗くなった部屋に優希の温もり。


 そして、今日も優希の甘い声が部屋に響く。

結局今日もしてしまった。


――


 前期の試験が始まり、優希と大原と三人で勉強をる機会が増える。

たまには気分転換と言う事で大原の部屋に乗り込む。

俺の部屋と真逆の作り。使い勝手は同じなので、俺にとっては過ごしやすい部屋。


「二階の部屋もいいですねー。景色が違って見えます」


「そりゃそうだろ。二階だし」


「お二人さん、そろそろ部屋を漁るのはやめてくれないかな? 勉強するんだろ?」


「「はーい」」


 大原の部屋にあったはずの大人の本が消えている。

おかしいな、いつもはここにあるのに。

優希の目の前で広げて、慌てる大原の姿で笑おうと思ったが、当てが外れた。


「大原さん、ここは……」


「あー、これか。この問題はひっかけ。この先生は毎年この問題を出すから、過去問あれば絶対に解ける」


「なるほど」


 距離が近い。もしかしたら俺よりも近いんじゃないか?

まったく、二人共そんなに勉強に集中しちゃって。

俺も勉強するが、何となく集中できない。


「どれ、今日は俺が何か作るか」


「お、良いのか? できればステーキとかがいいんだけど」


「そんなものあるか! チャーハンだ、チャーハン」


「何か手伝いますか?」


「良いのか? だったら気分転換に手伝ってもらおうかなー」


 二人が台所に消える。

俺は一人部屋に残り、まだ終わっていないレポートの続きをする。


 ……効率はいいけど、何だかモヤモヤするな。

俺、嫉妬してるのか?


 頭をブンブン振り、邪念を払う。

今は、試験対策をしなければ。

単位を落としたら留年だ……。


『大原さん、お料理上手なんですね』


『まーなー。純平も結構できるだろ?』


『純君もできますけど、大原さんも上手ですよ』


『そっかー。みじん切りは得意だからな!』


『目に染みますっ。涙が……』


『ほら、だったら人参でも切ってくれ』


『はーい』


 台所の隙間から二人を覗く。

二人は肩を寄せ合い、台所に立っている。

狭い台所だ。それくらいしょうがない。

でも、俺の心には少しモヤモヤが残ってしまった。


 勉強会も終わり、帰ろうとする。


「優希、帰るぞー」


「純君、先に帰っていていいですよ。私、洗い物してから帰りますから」


「そっか、だったら風呂沸かしておくな」


「了解。すぐに帰りますね」


「つか、別にいいよ。洗い物位」


「ダメです。ご馳走になってばかりだと悪いですよ」


 大原の部屋に優希を残し、俺は自分の部屋に帰る。

さて、風呂でも入れておくかなー。

たまには一緒に入ってもいいよね?

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