第161話 七不思議
七不思議も後二つ。
今日の七不思議は燃える机。
机が突然燃え始めたのだろうか。
教室を見渡したが焦げ跡一つ見つからない。
この教室は魔法生物学。
火を使う講義ではない。
「どうしたもんだろね」
「誰か通りかかるのを待つのがいいかもしれませんね」
「そうだな。手がかりなしじゃあ」
おっ、おあつらえ向きに男子生徒がこちらにやってきた。
あのくたびれた姿は酒が怖かった男子生徒じゃないか。
「よう、久しぶり」
「その節はお世話になりました」
「燃える机の噂を聞いてやって来たんだが、何か知らないか」
「役に立ちたいのはやまやまですが、あいにくと知りませんね」
「ところでなんで教室に」
「忘れ物したんですよ。命より大事な水をアルコールに変える魔道具」
魔道具という時に頬を赤らめる生徒。
「くんくん、ロマンスの匂い」
「セラリーナな鋭いな。この生徒が相談に来たんだよ。先輩と飲む酒が怖いってな。それでアルコールを消す魔道具を作ってやったが、先輩のコップから無理やり飲ませられて撃沈したんだ」
「酷い」
「そうだろ。それで俺も可哀そうになって水をアルコールに変える魔道具を作った。攻撃にでたんだな」
「なんかロマンスじゃない」
「ここからだよ。酔い潰した先輩とこの生徒は良い仲になったという訳だ。もちろん先輩は女性だ」
「先輩は前から好きだったんじゃないかしら。だから頻繁に酒に誘った」
「ありがちな話だ。酔いつぶれて心のタガが外れたって事か。そうだ、あんまり彼女を酔い潰すなよ」
「しませんよ。あれから彼女には魔道具は使ってません。アルコールを消す魔道具は大活躍してますけど。アルコールを作る魔道具は別の使い方で活躍してます」
「それは作った者として興味があるな」
「アルコールの純度を高めると腐りにくい事が分かったんです」
「ああ、殺菌効果ね」
「この教室は魔法生物学です。標本を作るのに使うのですよ」
「アルコール漬けにするのか。なるほどね」
なんだ。
普通の使い方だな。
待てよ。
消毒用アルコールは売れないかな。
需要はあるはずだ。
水をアルコールに変える魔道具を量産する事を考えよう。
「こうやって。使います」
水筒からコップに水を注ぎ何度も魔道具を動作させる。
何度もする事で純度を高めているんだな。
俺は分かっちゃった。
俺の位置からコップをみるとゆらゆらと湯気が立って燃えているように見える。
アルコールが蒸発しているんだな。
きっと、それを机の中に忘れたんじゃないかな。
それで机が燃えているように見えたのか。
「きっとそれだ」
「何が」
「机の中にアルコールを忘れたって事さ」
「そういえば忘れた事もありましたね」
「ほら見ろ」
謎が解けた。
男子生徒と別れて最後の謎に向かった。
そこは使われていない教室で、壊れた机などが乱雑に積まれていた。
怪奇現象が起きそうな雰囲気だな。
「ここの謎は纏わりつく視線だったな」
「ええ」
「視線なんて感じないが」
「でもなんとなく怖いわ」
「視線を感じるのか」
「そうね。見られている感じはあるわね」
「ふーん。何も感じないな」
ヒントがないとな。
ふと、気が付いた。
セラリーナがいなくなっていた。
あれ、怖くなって引き上げたのかな。
俺は建国クラブの部室に行くとセラリーナが居るじゃないか。
「何も言わずに帰ったから、少し心配したぞ」
「何の事」
「七不思議最後の謎だよ」
「えっ、七不思議って」
「ここ一週間、一緒に謎を解いたじゃないか」
「会っていませんけど」
怪奇現象発生か。
釈然としない。
どの謎も怪奇現象とは無縁だった。
俺はあの教室に戻って調べ始めた。
まず、おかしい事に気づいた。
埃がない。
使っていない教室なら埃が積もっているはずだ。
誰かがこの教室を使っている。
誰だ。
そんなのは分かり切った事だ。
俺は姿隠し破りの魔法具を発動した。
送られてきた魔法名はどれも元リトワース、現ミレニアム王国の暗部の物だった。
俺はからくりが見えた。
暗部がいたずらしたんじゃないだろうか。
偽物のセラリーナを仕立てて。
教室で急に消えたのは姿隠しの魔法を使ったからだ。
いっぱい食わされたよ。
通りで七不思議が俺に関係するのが多いはずだ。
例外は鏡の件とタイマーだけだ。
鏡は暗部があのからくりを知って冷やかしたのだろう。
鏡の組み合わせだけだと使えた品物じゃないからな。
タイマーはなんだろ。
同じものが作れるのか俺に挑戦したのか。
結局、暗部が出した謎が解けるか試したんだな。
そうに違いない。
「ありがと。楽しめたよ」
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