第160話 返事をする黒板

 今日の七不思議は返事をする黒板。

 その教室は誰もいなくて静まりかえっていた。

 教室に夕日が差し込む。

 見つめあう俺とセラリーナ。


「何にも起きないんだが」

「そうね。何が駄目なのかしら」


 問題の黒板の前に立つ事、一時間。

 何も不思議現象は起きなかった。

 ちぇ、収穫なしかよ。


「何してるんだい」


 男子生徒が通りかかって俺達に話し掛けた。


「返事をする黒板があるっていうから見物にきた」

「ああ、あれね。先生の自慢の魔道具さ」


 いきなり謎が解けた。

 まあ、現実はこんなものだな。


「どういう仕組みなんだ」

「黒板の後ろに魔道具が隠してあるんだよ」


 なるほどな。


「あったわ。これじゃない」


 セラリーナが黒板の後ろからチョーク箱ほどの魔道具を探し出した。


「これに触ると、作動するんだ。あれっ、おかしいな。魔力切れかな」


 セラリーナが魔道具に魔力を注ぎ、元の位置にセットした。


「見てろよ」


 魔道具がある位置の黒板を生徒が叩く。

 承りましたと魔道具が声を発する。


「これでどうなるんだ」

「時間が来ると知らせるんだ」

「ああ、タイマーの魔道具ね」


「そうそう、授業時間がばっちりって訳」


 そう言って生徒はもう一度、黒板を叩く。

 停止しましたの音声。

 なるほどね。

 知らない生徒が間違って作動させ、これを聞いて怪奇現象だと思った訳か。


 そう言えば前に目覚まし魔法っていうのを作ったな。

 それきり放っておいた。

 あの時は伝言魔法と組み合わせたのだったな。


 待てよ。

 キッチンタイマーの魔道具が簡単に作れるな。

 イメージは。


void main(void)

{

 time_wait(18000); /*三分待つ*/

 speak("時間です"); /*音声を流す*/

}


 呪文屋のアルバイトをして売れる魔法が分かってきた。

 便利、魔力コスト低い、詠唱短いのが売れる。

 これこれ、こういう魔法が売れるのよ。

 詠唱にしてみる。


 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・カニモイろテチニカゆヌユワワワよレ・トセイチノゆふ時間ですふよレ・む』だな。

 魔力コストも10だし、詠唱も短い。

 三分タイマー魔法。

 魔道具で作るにしてもくず魔石で作れるから、内職にもってこいだ。

 いい発想を与えてもらった。

 エンジニアって凝った物をやたらと作りたがる。

 開発職あるあるだ。

 単純で使い勝手がいいほうが売れるという事を忘れがちだ。

 また、タルコットが喜ぶな。


 よし、この生徒にボーナスを支給してやろう。


「魔道具の発想を与えてもらった見返りに金貨10枚を支給しよう」

「やった。儲けた。可愛い子がいるので声を掛けたけど、勇気を出して良かった」

「可愛いだなんて」




 俺達はタルコットの店まで行った。


「画期的な商品を開発したぞ。金よこせ」


 俺は呪文を書いた紙をタルコットに突き付けて言った。


「またいきなりですね」

「名付けてキッチンタイマー魔法だ。三分を計る。詠唱も47文字と短い。大ヒット間違いなしだ」

「詠唱を変えれば時間も変えられるのでしょうね」

「ああ、解決済みだ。呪文の『ヌユワワワ』の所を変更すれば問題ない」

「ふむ、とりあえず手付として金貨30枚ですな。あとは一つ売れるごとにお金を払いましょう。他の呪文屋に売る時は金貨10枚ほどですかね。個人に売るには一つ売れるごとに銅貨1枚ほどでしょうか」

「ああ、それでいい。よし、三人で手付を10枚ずつ分けるとするか」


「七不思議最高ですね。これで買いたかったお洋服が買えます」

「俺、魔法研究者になる。魔法ってこんなに儲かるんだ」

「おう、頑張れよ」


 俺ってもしかして前世の知識を活かしてない。

 ドラゴンって記憶力は優れているけど発想力は普通だな。

 何かきっかけがないと商品が開発できない。

 まあ、いいさ。

 ドラゴンにとって時間は無限にあるような物だ。

 のんびりと開発していくさ。

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