第137話 クレーター

 初めに偵察の為にその場所を飛んだ俺は感嘆の声を上げた。

 クレーターじゃないか。

 でかいな。

 前世のひとつの都市がすっぽり入りそうだ。

 仕事で行った事のある八王子盆地ぐらいかな。

 低空飛行するが、大きな魔獣の姿はない。

 ここがドラゴンの産卵場所に適さないのが良く分かる。

 なにせ動物が兎ぐらいしかいないのだ。

 ドラゴンが成長したら、この獲物の小ささでは、いくら食べても満腹にならないだろう。


 クレーターの中に建国クラブの面々を降ろす。


「最初に偵察したところでは危険な生物はいないと思う。だが、慎重にな」

「強敵がいないのでは来た甲斐がないな」

「脳筋はこれだから」


「さあ、喋ってないで探索しよう」


 鳥がさえずり兎がたまに顔を出す、至って長閑な風景だ。

 普通の森の中と変わりない。

 異世界の森ではなくて前世の森だ。


「交通の便が悪いのが問題でげす」

「それは俺も考えた。ドラゴンで周りを囲んでいる山脈をなんとか掘れないかな」

「無理だと思うげすな」

「それは後々考えるとするか」


「ここに建国グラブの秘密基地を建設する事を宣言する」


 ミニアがそんな事を言った。

 みんなの反応は好きにすればというものだった。


 見慣れない樹が密集している所に差しかかった。

 樹には人間の頭程の花が沢山咲いている。


 綺麗だなと何となく思った。

 その花が一斉に牙を剥き出し襲ってきた。

 まさかの食虫植物。

 いや食獣植物というべきだろう。


 ミニアが魔法で火を放つ。

 火達磨になる食獣植物。

 こいつら弱いな。

 ドラゴンが出るまでもない。

 皆も魔法で火を放ち始める。

 ほどなくして食獣植物は退治された。


「兎の数が少ないから、何かあるとは思っていたが。こんなのがいるとはな」

「綺麗な花だから、持って帰りたいと思ったのに」


 セラリーナが少しがっくりときた様子で言った。

 それから、食獣植物を倒しながら俺達は中心部を目指した。


 空から見て分かっている事だが、中心部は湖になっている。

 都市を作るのに水の心配をしなくていいのは高ポイントなんだけどな。


 数時間で中心部に到達した。

 水の中に何かひそんでいないだろうな。

 心配になって、ゴーレムとドラゴンで水中を探索する。


 んっ、中心に何かあるぞ。

 1メールほどの何かが見えていた。

 形はまるで爆弾だ。

 クレータを作る要因となった爆弾かな。

 爆発が既に起こっているとしたら、もう爆発しないだろう。

 掘り起こすとと全長は2メートルほどあるのが分かった。

 俺は爆弾を岸に引き上げた。


「これ何」

「たぶん古代王国の兵器だな」


 俺はミニアの問いに答えた。


「動くのなら一財産ね。解析したいわ」


 ヴィナがそう言った。


「ちっちっち。ミニアにお任せ」


 ミニアが指を振る。

 そして鞄からサークレットを出して装備した。

 光るミニア。

 そして、爆弾の側面がぱかっと開いた。

 ミニアが触ると側面が元通り閉じる。


「みんな離れて」


 メンバーが離れると爆弾はバラバラになって壊れた。


「ひどい、解析したかったのに」

「兵器は壊すように言われているの」

「誰に?」


 ミニアは答えないが、俺には分かった。

 たぶん門番に言われたのだろう。


「都市一つ壊滅させる兵器なんて物は世に出さない方がいいに決まっている。諦めるんだな」

「師匠ひどい」

「師匠?」


「ミニアには言ってなかったな。ヴィナを弟子にした。仲良くな」

「よろしくね。妹」

「と、と、年下の少女が姉」

「姉の言う事は絶対。分かった」


 ミニア、マウントを取るのが好きだな。

 改めないと人から嫌われるぞ。

 あとで忠告しておこう。


「そうだ。門番だよ。門番にトンネル掘ってもらえばいい」

「こんど聞いてみる」

「よし、ここを首都にしよう。ミニアもいいか」

「うん」


 遂に建国する地が決まった。

 リトワースの人間を移住させないとな。

 ここは守るに固く攻めずらい。

 天然の城砦だ。

 みんな気にいってくれるだろう。


 それに攻めるのは俺がいる。

 戦争になったらドラゴンで攻めれば問題なしだな。

 リトワースの宰相にここを首都にする事を伝えよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る