第124話 火力の調整

「今日は呪文翻訳学の三回目です。火力の調整についてやります」


 ミニアが呪文を黒板に書き始める。

 あのメイリーンは授業に来ていた。

 どういうつもりなんだろう。

 怪しい動きはしていないから、放置だな。


 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・ソクチス・ラスコニカガフワワワムレ・モチキニソ・けモセレ・モセほハニスイろコチリリろモチノイゆエよレ・モチキニソろトカスチニキクカゆモセネラスコニカネトニツイラハゆラスコニカよよレ・モチキニソろモラヒイゆモセネラスコニカネトニツイラハゆラスコニカよよレ・む』と書いた。


 続いてミニアが黒板に翻訳した呪文を書き始めた。


 『返答期待しない 主よ(注文数受け取る、注文受ける)

{

 軌道データ『ラスコニカ』が挨拶;

 魔法『モセ』が挨拶;


 モセ=火、玉、作る(威力5);

 魔法、直線(モセ,軌道データ,軌道データの長さ);

 魔法、動かす(モセ,軌道データ,軌道データの長さ);

}』と書いた。


「『ゆエよ』という所が威力を指定している所です。『ワヌフアウエオヤユヨ』が0から9になってます」


 ミニアがもったいぶって一拍置く。


「従って呪文の『ゆエよ』を『ゆアフワよ』とすれば四倍の大きさの火球になります。分かりましたか」


 ミニアが教室の真ん中に道を作る用に指図した。

 俺は教室の端に立ちアンチマジックを発動する。

 呪文を唱え始めるミニア。


「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・ハニスイろコチリリアフワゆよレ・む」


 四倍の大きさのファイヤーボールが発射されて、ゴーレムの体表で消えた。

 このライブラリに追加した魔法のイメージはこうだ。


void fire_ball320(void)

{

 char orbit[2000]; /*軌道データ*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/


 mp=fire_ball_make(320); /*魔力320で火の玉を作る*/

 magic_straight(mp,orbit,sizeof(orbit)); /*真っ直ぐの軌道データを入れる*/

 magic_move(mp,orbit,sizeof(orbit)); /*火の玉を動かす*/

}


 でメインはこう。


void main(void)

{

 fire_ball320();

}


「おい、今の魔法は魔力コストいくつだ」

「10+20+320で350だな」

「魔道具の実現は難しいな」

「ということは本当に短縮詠唱しているというのか」


 ガヤガヤとざわめきが起こる。


「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・ハニスイろコチリリアフワゆよレ・む」


 ミニアの真似をして生徒が呪文を唱える。

 もちろんライブラリに追加されていないので発動はしない。


「なぜだ。なんで俺には出来ない」


 またもざわめきが起こる。


「静かに」


 ミニアが教壇を叩く。


「秘術を簡単にできたら、秘術ではありません。全ては研鑽の結果です。例えば、今の魔法が魔道具によるものだとしても、Sランクを超える魔石を用意する必要があります。その魔石を用意する方法も私は知っています」


 またもざわめきが起こる。


「方法は一つではありません。常に探求するのです。停滞はいけません」


 ミニアの授業が終わった。


「先生、究極に短い呪文はなんですか」


 男子生徒の一人が質問してきた。


「『ニミカ・モチニミゆヒラニシよ・が・ハゆよレ・む』だと思うわ」

「でも発動しない」

「教室を空けないといけないから、修練場に行きましょ」


 修練場に場所を移して課外授業が始まった。

 的を前にしてミニアが呪文を唱える。


「ニミカ・モチニミゆヒラニシよ・が・ハゆよレ・む」


 普通の大きさのファイヤーボールが的に当たる。

 ライブラリのイメージはこうだ。


void f(void)

{

 fire_ball_test();

}


 でメインはこう。


int main(void)

{

 f();

}


「教室ではできなかったのは何故ですか」

「準備がいるのよ」

「どのくらい修行すればできますか」

「まず石を積んでは崩すような意味の無い事を、何万回も繰り返す必要があるわね」

「具体的な方法は」

「それは秘密よ。これでも沢山答えたほう」


「短縮詠唱を教えるつもりはないのですか」

「ないわね。ひとつ言っておくわ。その先には無詠唱という物も存在する」

「えっ、そんな物が」


 ミニアよ。

 喋り過ぎだ。

 ぽろっと喋りそうでひやひやする。


 ミニアの様子を見るに俺の功績を自慢したいのだろうな。


 ミニアが授業を受けに行ったので二階の窓から中庭のベンチをぼんやりと眺める。

 あの質問をしていた男子生徒がベンチに座った。

 誰かと待ち合わせかな。

 ガールフレンドだったりして。

 青春だな。


 現れたのはメイリーンだった。

 何やら男子生徒が話す事をメイリーンはメモに取っている。

 最後に皮の小袋を男子生徒に渡すと去って行った。

 何なんだろ。

 気になるが、男子生徒に尋ねてもはぐらかされそうだ。

 暗部にメイリーンを監視するよう頼むか。

 それが良いかもな。

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