第108話 腰抜け
壁の穴が塞がれて陣地が着々と修理される。
俺は陣地の外で一人それを見ていた。
ゴーレムでも出して遊ぶか。
それとも腹ごなしに少し運動するか。
ドラゴンは餌を腹いっぱい食うと普通は動かない。
本能に逆らうなんて理性で獣性を押さえ込んだような気がして好きだ。
下らない事を考えないで魔法について考えるか。
その時、泣きながら腰抜けもといエイドリクが俺に寄って来た。
「ドラゴンよ。俺をすっぱり食ってくれ」
陣地の外に一人出ていると思ったら自棄になっているだけか。
しょうがない。
俺はゴーレムをアイテムボックスから出した。
「なんだ。話なら聞くぞ」
「ゴーレムが勝手に出て来て喋ってる。まさか、ドラゴンが操っているなんてないよね」
「あー、ミニアの師匠だ」
「あのじゃじゃ馬の師匠ですか」
「ホムンだ。お前の名前はミニアから聞いている」
「そうだ。ドラゴンに命令して俺を食うように言ってくれよ」
「そんな事できる訳ないだろう。普通に殺人だ。ドラゴンの罪はミニアの罪になるんだぞ」
「くそう、思い通りにならない。何もかもだ」
「自棄になった理由を話せ」
「取り巻きに見捨てられたんだ。それ以前に勉強が上手く行かない。友達も出来ない。何もかもが上手く行かないんだ」
「それはお前の性格に難があるんじゃないか」
「今更、性格なんて直せない」
「俺もそんな事は出来ない。できるのは魔法を直す事だけだ」
「魔法、直せるの!?」
「そんなに大声ださなくても」
「直せるか。直せないのか。どっちだ?」
呪文を贈るのは親愛の証だったな。
これは修理だから、セーフなのか。
興味があるからセーフだと思っておこう。
「直せるよ。呪文を言えば分かる」
「絶対だな。行くぞ。ソクチス・キスチヒニカンガヌワワワワムレ・
ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
ニミカ・ニレ・
モチキニソ・けモセレ・
モセほモチキニソろモチノイゆキスチヒニカンネトニツイラハゆキスチヒニカンよネニモチキイイミイスキンよレ・
ハラスゆニほヌレニねヌワワワワレニれれよが・
キスチヒニカンガワムほキスチヒニカンガワムれキスチヒニカンガニムレ・
キスチヒニカンガニムほワレ・む・む・
モチキニソろカスチミトゆモセよレ・む」
「なるほどな」
「どうだ直せるか」
ふむ。イメージはこんなだろう。
char gravity[10000]; /*重力*/
void main(void)
{
int i; /*カウンター*/
MAGIC *mp; /*魔法定義*/
mp=magic_make(gravity,sizeof(gravity),IMAGEENERGY); /*重力を魔法として登録*/
for(i=1;i<10000;i++){
gravity[0]=gravity[0]+gravity[i]; /*重力一万倍*/
gravity[i]=0;
}
}
magic_trans(mp); /*現象に変換*/
}
いわゆるブラックホール魔法だ。
まあ、本物のブラックホールは十数億倍だったはずだから、それと比べるべくもない。
でも魔法ならこの辺りが妥当だろう。
この魔法の問題点は重力を圧縮しすぎた所だな。
魔法での『char』の扱いがいくらプログラムとは違うとはいえ無茶だ。
プログラムだと重力に1が入っていれば127倍した所でオーバーフローしてしまう。
だから、直すとしたら。
char gravity[100]; /*重力*/
void main(void)
{
int i; /*カウンター*/
MAGIC *mp; /*魔法定義*/
mp=magic_make(gravity,sizeof(gravity),IMAGEENERGY); /*重力を魔法として登録*/
for(i=1;i<100;i++){
gravity[0]=gravity[0]+gravity[i]; /*重力百倍*/
gravity[i]=0;
}
}
magic_trans(mp); /*現象に変換*/
time_wait(60000); /*十分待つ*/
}
これで大丈夫なはずだ。
でも、こんなのじゃ面白くないんだよ。
よしこうだ。
long gravity; /*重力*/
char gravity2[10000]; /*重力*/
void main(void)
{
int i; /*カウンター*/
MAGIC *mp; /*魔法定義*/
mp=magic_make(&gravity,sizeof(long),IMAGEENERGY); /*重力を魔法として登録*/
for(i=0;i<10000;i++){
gravity=gravity+gravity2[i]; /*重力一万倍*/
gravity2[i]=0;
}
}
magic_trans(mp); /*現象に変換*/
time_wait(60000); /*十分待つ*/
}
重力一万倍の魔法をエイドリクに教えてやった。
森の奥からドスンドスンと重たい足音がする。
この音はオーガだな。
「あわわわ」
「何慌てているんだ。ただのオーガだぞ。さっきの呪文を唱えろよ」
オーガはエイドリクを餌と認定したようだ。
だが、ドラゴンが居るので餌の取り合いになるとでも思ったのだろう。
にらみ合いに発展した。
「リラミキ・キスチヒニカンレ・
ひっ、助けて。
ソクチス・キスチヒニカンフガヌワワワワムレ・
ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
誰か。
ニミカ・ニレ・
モチキニソ・けモセレ・
うわぁ。
モセほモチキニソろモチノイゆおキスチヒニカンネトニツイラハゆリラミキよネニモチキイイミイスキンよレ・
ハラスゆニほワレニねヌワワワワレニれれよが
キスチヒニカンほキスチヒニカンれキスチヒニカンフガニムレ・
くそう。
キスチヒニカンフガニムほワレ・む・む・
モチキニソろカスチミトゆモセよレ・
カニモイろテチニカゆオワワワワよレ・む」
エイドリクはつっかえながらも紙を読みながら詠唱をやりきった。
呪文に一般の会話を折り混ぜても発動するのだな。
魔法語はイントネーションが独特なので成立するのだろう。
オーガの胸元辺りを中心に魔法が風を吸い込む。
重力一万倍にオーガは吸い寄せられバキバキと音を立てて折り畳まれた。
「何、ほうけているんだ。やっつけたぞ。感想はどうだ」
「大きな力を持てば恐いことなど無くなると思っていた。でも実際はもっと恐くなった。結局大きな力にも大きな力なりの苦労があるんだな。才能も一緒か」
「よく分からないが納得できたならそれで良い」
ところで、いつになったら陣地の修復は終わるのだろう。
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