第105話 課外授業の課題

 翌朝。

 夜中の魔獣が吠える声が恐ろしかったのか、目の下に隈が出来ている生徒が沢山いる。

 おい、お前らひ弱すぎだぞ。

 俺がいると弱い魔獣は来るのを避ける。

 オーガみたいな血の気の多い奴は例外だがな。

 安心だと言っても信じないのだろう。


「はーい、ちゅもーく。朝食が終わったら狩りに出てもらいます」

「狩りの成果で点数が決まるんですね」


 ロッカルダの言葉に生徒の一人が答えた。


「いいえ、狩った獲物から何か作って下さい。それで点数を決めます。料理を作る生徒が毎年いますが、それだと得点は低いと言っておきます」

「ええー、そんな」


 ロッカルダの言葉に女生徒が落胆の声を上げた。

 なるほどな、ミニアは魔道具を作るのだろうな。

 楽勝な課題だ。

 俺が手伝わなくても平気だな。

 一応、身体に匂い消し魔法を掛けておく。

 これで準備は万端だ。


 朝食を終えた生徒達がグループを組み森に入って行く。

 オーガみたいな強敵が現れたらどうするんだろう。


「全員生きて帰れればいいわね」


 そうロッカルダが呟いたのが耳に入った。

 おーう、死ぬ事が前提の試験か。

 厳しいのか厳しくないのか。

 冒険者になったり軍に入ったりする人間にとってはこのぐらい出来ないと勤まらないのは分かる。

 研究者はどうなんだろう。

 遺跡調査などは死と隣り合わせだから、これでもまだぬるいのかもな。


「おい、お前。ドラゴンを寄越せ」

「お断り」

「なにっ。子爵家嫡男、エイドリク・ヴァガレッドに向ってなんたる言い草」

「「「そうだ、そうだ」」」


 ミニアにエイドリクと取り巻きが絡んでいる。

 あいつ死んだな。


「こっちは王位継承権。言うなれば王女。何か文句でも」


 そう言ってミニアは腰に差したシャイニングブルグを叩いた。

 おや、乱闘はしないのか。

 ミニアも大人になったものだ。


「ぐぬぬ。覚えて居ろよ」


 エイドリクは捨て台詞を吐いて去って行った。


「お前、王女だったんだな。そんな風には見えないけど」


 ライナルドがそばに来て言った。


「余計なお世話」

「俺と課題で勝負だ」


「はいはい。ウィザ、お願い」


 俺に着けた鞍にはミニアとセラリーナの他に初顔の女の子二人が乗り込んでいた。

 彼女達は友達なんだろう。


「ミニア、ありがとう」

「ありがとね」

「どういたしまして」


「これなら魔獣に襲われる心配はないから安心よ」

「ほんとほんと。一時期はどうなる事かと。誘ってもらって良かったわ」


 お嬢様方、出発しますよ。

 話していると舌を噛みますぜ。


 俺は獲物追跡用の足音がしない歩き方で狩を始めた。

 しばらく歩きレーダー魔法を発動する。

 前方左に何かいるな。

 俺はなるべく音を立てない様に近づいた。


 猪の魔獣が樹の根をかじっている。


「きゃあ、きゃあ魔獣よ」

「ほんとだ。凄い鼻息」


 これまでの隠密行動が無駄になった。

 まあ良いか。

 ミニアは素早く鞍から降りると、魔獣に駆け寄り剣を一閃。

 首を切り裂いた。

 血しぶきを避けるために飛び退き。

 辺りを警戒し始めるミニア。

 冒険者稼業が板についているな。


「ミニアさすがね。私の親友だわ」

「初めて魔獣を倒すのを見た」

「すごすぎ。朝食が喉まで出かかった」


「解体手伝って」

「「「はーい」」」


 慣れない手つきで三人は解体に掛かる。

 ミニアは魔石を取ると三人に任すようだ。

 初めての解体は四時間にも及んだ。

 彼女らは血と汗で疲労困憊。

 俺は洗浄魔法を掛けてやった。

 休みたいようなので、敷物をアイテムボックスから出してやる。

 ミニアがお茶を淹れて、雑談が始まった。


「解体って疲れるのね」

「流石に初解体で3メートルはないよ」

「全部解体できなかったじゃない」

「いいのよ。残りはドラゴンが丸呑みしたんだから」

「ミニアは偉いわね、解体も出来て。ミニアの指導がなかったら、右往左往していたわ」

「ほんと、ほんと。ミニアさまさまだわ」

「ところで課題は何を作るか決まった」

「私は魔道具」

「私はぬいぐるみ」

「私は料理かな」

「私も料理かな」


 そろそろ、次の目標に行きまっせ。

 四人が鞍に乗ったのを見て俺はレーダー魔法を発動した。

 ただし、今度は高さが地面すれすれでだ。


 すぐに反応があった。

 そこに行くと、角の生えた兎がいる。

 これなら三人でもいけるだろ。

 蛇に睨まれた蛙、いやドラゴンに睨まれた兎状態。


「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ・む」


 友達の一人が魔法を発動させた。

 ファイヤーボールが兎に向って飛んで行く。

 兎は硬直から解け一目散に逃げ出した。


「あーん、逃げられた。悔しい」

「誘導弾を撃たないと」


 ミニアがそう指摘する。


「呪文唱えている時に逃げられるかと思って」

「そういう時は魔道具」

「高いのよね。Bランクから上の魔石を使った魔道具は」


 Cランクの魔石は銀貨十枚だが、Bランクの魔石は金貨だ。

 Cランクが一万円でBランクが十万円ってところだろう。

 その分、魔獣が強いらしい。

 俺にとってはAランクまではFランクとたいして変わりない。

 今は合成魔石も作れるから、特に倒す魔獣にこだわりはないな。


「Cランクでも誘導弾は作れる」

「本当? 今度教えて」

「うん、教える」


 その後兎を幾つか狩って、狩は終わった。

 野営地に戻るとほとんどの生徒はがっくりと肩を落としていた。

 獲物が獲れなかったらしい。

 怪我した生徒はいたが、死んだ生徒は居ないみたいだ。

 オーガの縄張りにそんな強い奴はいないはずだから、心配もしてなかったが。


「ミニア、素晴らしいわ。光量無段階の調節機能つき魔道具なんて、とてもいいわ」


 ロッカルダがミニアの魔道具をほめる。

 この魔道具はタルコットの所に卸しているのと同じ奴だ。

 ちなみに、嘘をついて店売りの魔道具などを提出すると、帰ってから嘘発見魔法で見破られる。

 学園のカンニング対策はなかなか厳しい。


「ライナルド君の牙を魔法で加工したペーパーナイフはなかなか良いですね」

「教授、ミニアとどっちが良いですか」

「そうね同点に見えるわ。詳しく知りたいのなら持ち帰って他の教授の採点を待つのね」

「くそう、同点か。次は負けない」


 明日の課題は何だろな。

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