第106話 防御陣地

「ちゅーもーく。ここに陣地を作って貰うわ」


 朝食を終えた生徒にロッカルダはそう言った。


「ここの陣地は遺跡群を調査する発掘隊が利用するから、手を抜かないように」


 そう続けてロッカルダが言って設計図を広げた。

 俺が見たところ柵と門を設置するだけの簡単な陣地だ。

 ふむふむ、よし魔改造してやろう。

 ミニアに考えを伝言魔法する。


「柵を石で作りたい」

「ミニア、それはいくらなんでも無理でしょう」


 ミニアを意見をやんわりとロッカルダが否定した。


「ドラゴン的な秘術だよ。実際に試してみる」


 俺はストーンウォールを発動した。

 現れる石の壁。

 どよめく生徒達にドヤ顔を見せるミニア。


「これ、何枚出せるの」

「いくらでも」

「じゃあ柵、いえ城壁はミニアに任せて、みんなは門を作るわよ」


 俺は陣地をストーンウォールで囲って継ぎ目をブレスで溶接した。

 生徒達は魔法で木を切り乾燥させる。

 大工の息子でも居たのか門は着々と出来上がっていった。


 防御はこれでも良いが攻撃がどうだろう。

 そうだトーチカを作って通路を地下に作ろう。

 まずは通路だな。

 パイプを魔法で作る。

 そして、爪を使い溝を掘った。

 パイプを埋めて魔法で作ったトーチカを被せれば完成だ。

 ミニアが城壁の内側からパイプを通ってトーチカに現れる。

 魔法を窓から一発撃って、ご満悦になった。


「ミニアー」


 そら、ロッカルダが呼んでいるぞ。

 ミニアはパイプを使い城壁の中に戻った。

 しばらくして伝言魔法が届く。

 えーと、城壁の上から攻撃したいから、階段を作ってくれか。

 オッケー。

 今、行くよ

 翼を広げて、ふわりと飛びあがる。

 ホバーリングして城壁を越え中に着地する。

 ドラゴンが襲ってきたと勘違いして生徒がパニックだ。


「あわわわ」


 ミニアのそばにいる少年が腰を抜かして洩らしている。

 汚いな。

 こいつは確かミニアに絡んでいたエイドリクじゃないか。


「俺を食わせるつもりか」

「ごちゃごちゃとうるさいと本当に食べさせるから」


 ご期待に応えて吠えちゃうぞ。


「ガォー」


 エイドリクは転びながら逃げて行った。

 全くアホだな。

 殺気の有無ぐらい分かれよ。


 さてと仕事に掛かるか。

 階段を作るための石の板を次々に生み出して俺は積んでいった。

 きちっと揃えて積むのは苦手だ。

 少しイライラする。

 俺から殺気が漏れたのか。

 ロッカルダが剣を抜いて戦闘態勢に入る。

 よしてくれ。

 石が上手く積めないだけなんだ。

 深呼吸、深呼吸。

 ちろちろと炎が口から漏れる。

 いかんいかん。

 よし石積みを魔法に切り替えよう。


 俺はリフトの魔法を使い石の板を空中に浮かべた。

 それをミニアが手で押して微調整するという方法に切り替えた。

 これならイライラしないな。




 陣地の設営は終わり生徒はかまどを作り始めた。

 昨日、評価しきれなかった料理を暖め直して、ロッカルダが食べ始める。


「うーん、30点。ドラゴン、残飯処理を頼む」


 一口食べたロッカルダがそう言った。

 ミニアが皿を俺の所に持って来て、大きく開いた口の中に料理を落とす。

 うん、確かに30点だ。

 塩加減が良くないし、ハーブも効き過ぎだ。

 残飯処理は色んな料理が味わえるので文句はないが。


「ドラゴンは本当に反乱しないのだろうな」


 ロッカルダはミニアに念を押した。


「さっきは上手く石が積めなくてイライラしたみたい」

「私も石積みするドラゴンなんて初めて見た。やはり適材適所ということか。人間も無茶な仕事を振られるとイライラするからね」

「ウィザは賢い」

「そうよね。パイプを埋めているところも見たけど、賢いなんてものじゃないわ。幼児ぐらいの頭脳はありそうね」

「もっと賢い」

「まさかな。人間より賢いなんて事はないだろう」

「分からない。限界は試せないから」

「ドラゴンの限界を試すなんて、やめてよ」

「しない」

「それを聞いて一安心だわ」


 話はいいから次の料理を食わせろ。

 ミニアに俺の意志が伝わったのか、次の余った料理が舌に落とされた。

 今度のは美味いな80点だな。


「はぁー、明日の事を考えると気が重い。何人か死人が出るのだろうな」


 ロッカルダがそう呟いたのが聞こえた。

 何が待ち受けているのかな。

 夜中に起こされて退却の訓練はないな。

 冒険者ギルドではない。

 たぶん魔獣がらみだな。

 一戦交えるって事なのだろう。


「ミニア、もしもの時は頼む。ドラゴンだけが頼りだ」

「何の事」

「この陣地の最後の仕上げだ」


 なんとなく分かった。

 魔獣をおびき寄せて陣地の性能を試すって事だろう。

 そうに違いない。

 生徒同士の模擬戦なんていう甘いことは言わないだろう。


 なんにしても、ベヒーモスクラスが来たら生徒では手が余るだろうな。

 ロッカルダがどれだけ強いのか分からないが、彼女の手にも余るだろう。

 ベヒーモスの十体ぐらいなら、どんと来いだ。

 俺に任せとけ。

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