第16章 ゴーレムのドラゴン

第93話 古代王国の滅亡理由

 ゴーレムが出来てから、ミニアとは別行動を取る事が多い。

 ゴーレムは魔法古代史の授業の授業に出ていた。


「えー、『モラナシチモイシチ・モチマンナナテチ・モラナ・トラノラモチシイノニカイスナ』という文章が遺跡から見つかっています。意味は分からないですが、ロマンですね。いつか全てが解読できる日が来るといいですね」


 翻訳してみる『もう駄目だ魔獣はそこまで来ている』かな。

 これだけだと古代王国は魔獣に滅ぼされたという見方もできる。

 しかし、断片だけだとな。


「先生、これらをまとめた本なんてのはないですか」


 俺は文字をティに出させた。


「えっと君は?」

「ティです」

「感心だね。後で図書室にある魔法古代史関連の目録を渡そう。取りにくると良い」


 パソコンがないから手作業で探すとなると手間がかかる。

 図書室の本全てを暗記しているようなスーパー司書はいない。

 む、魔道具でデーターベースを構築できないかな。

 少し考えてみる。

 出来るがデータ入力が面倒だな。

 エディターが出来ればそれの応用で検索機能をつけるだけだ。

 それにはセーブとロードの部分が難しい。

 魔力に記録すると時間が経つと散ってしまう。

 魔石に刻み込めればな。

 魔道具は魔石に魔法を刻み込んでいるのだから、原理的には可能のはずだ。

 それらしい、魔法がないかタルコットに探すよう伝えておくとするか。


 講義は終わりゴーレムで目録を受け取った。

 胸に開いている二つの覗き穴から目録を見る。


 『古代王国、謎の文章』、この本が俺の目的に一番ぴったりな気がする。

 さっそく図書室でお目当ての本を探す。

 見つけたがゴーレムでは手に取る事はできない。

 そんな複雑な動作はプログラムしてない。

 仕方ないのでミニアを呼ぶ。


「ウィザ、呼んだ」

「本を借りてほしい」


 ゴーレムを動かし指で本を指し示した。


「なになに、『古代王国の生活』で良いの」

「違う右隣だ」

「『古代王国、謎の文章』、これ」

「おお、それだ」

「背中の収納に入れとくね」




 俺はゴーレムを豆腐ハウスに帰ってこさせた。

 そして、ワクワクしながらミニアを待つ。

 ミニアは現れると、嫌な顔もしないで本のページを一枚一枚めくり俺に見せてくれた。

 うーん、ゴーレムが作れたんだから、頑張ればマニュピュレーターも作れそうだ。

 それよりも魔法語の翻訳だな。

 隆盛期の遺跡から発掘された文章は『ラナノラノナスイノニ・クンチノナマンナナクチソクニミイミ・ノニツラノナミニンラスナ・ソクニトクニノニミラ・ノチノラニノラモニキチ・クチマニモチカトナカチ』だな。

 意味は『王国暦 118年 貴族による知識の囲い込みが始まった』だと思う。


 続きを読む。

 貴族は一般大衆から魔法の知識を奪い取り自分だけの物にしたようだ。

 そして、貴族の知識も偏っていって、攻撃専門だとか治療専門だとかに分かれたというような事が書いてあった。


 なんとなく落ちが見えたな。

 知識を独占したのは良いけど、伝承が上手くいかなかったのだと思う。

 親子だからと言って100%信用できるものでもない。

 たぶん、ぎりぎりまで伝承を控えて、伝承する前に死んでしまうケースが多発したんだろう。

 それと知識の漏洩を防ぐために近親結婚を繰り返して、愚物ばかり生まれたという記載も衰退期の文章にあった。

 コンパイルの知識が失われた事が滅亡のきっかけになったようだ。

 これで魔道具の生産性もぐっと落ちて国が分裂。

 最後に残った知識の砦の王家も滅亡したと。


 滅亡期から出土した文章は『ソクニトクニノニテラ・シラノナトイミトナスナモラミラミニ・ミラスラニチスイ』だ。

 『知識を独占する者に呪いあれ』という意味だな。

 人を殺すような知識は秘匿するにしても、物づくりの基本の知識は公開すべきだと思う。


 よし決めた。

 プログラムの知識を残そう。

 この世界の人間に理解は出来ないかもしれないが、出来るだけ残す。


 古代王国の滅亡の理由はあっけなかったな。

 人を信用できない事が滅亡の引き金になるとは。

 民衆から魔法の知識を取り上げたのはテロや暴動を恐れたのだと思う。

 その後が良くなかったな。

 大学でも作って貴族や優秀な平民を学ばせれば良かったんだ。

 血族による知識の伝承なんて、ちょっと考えれば途絶える事が分かりそうだな。

 人をあっけなく死に追いやる事もできる技術だったのも拍車をかけたのだと思う。


「何か分かった?」

「あー、人の信頼は大切だな。古代王国の滅亡理由は疑心暗鬼だ」

「友達が信用できなくなったって事」

「友達どころか。親兄弟もな」

「悲しいね」

「ミニアは建国するつもりだろうから、言っておく。秘密ってのはない方が良い。王家の秘密なんて厄介の元だ」

「なんとなく分かる。何時ばれるのかびくびくしていると、楽しくないもんね」

「そうだな」


 俺は魔法で人の暮らしを豊かにする技術を伝えていこう。

 後々は便利な魔道具の呪文は公開すべきだな。

 どうせ国民に作らせる事になるんだ。

 開発者の特権として今は暴利を貪ってもバチはあたらないと思う。


 愚痴に紛れて幾つか呪文も隠れていた。

 便利道具でも開発するか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る