第83話 悩みと新たな学問

 魔法古代史の授業にミニアは出ている。

 感覚共有したティもとうぜん一緒だ。


 授業が終わったらミニアに講師を捕まえるように言った。

 古代王国の滅亡の理由に興味があったからだ。


「ちょっと知りたい」


 そう言ってミニアは講師を捕まえた。


「なんだね。講義についての質問なら、時間内にしたまえ」

「古代王国の読めない魔法語は、私なら読める」

「主席入学だから何でも出来ると」

「問題ない資料を見せて」

「よろしい。写しなら丁度良いのがある」


 講師の後をについて教員室に入った。

 引き出しから紙を出してきてミニアに手渡す。


 どれどれ。

 それには『モナイニトンラナミラ・クニモニカトナテラ・トクニカトナカイニスナ・ンチカトナクチ・モニミミチ・ノラスラトチスイカチ』とある。

 翻訳すると『無詠唱の秘密を知る奴は皆、殺された』だ。


 何が起こったんだ。

 無詠唱という事はコンパイルのことだよな。

 皆、殺されたのか。

 道理でこの時代にその知識が伝えられて居ないはずだ。


「何か分かったか」

「愚痴が書いてあった」

「ふん、いいかげんな事を。期待した俺が愚かだったな。もう行っていいぞ」


 この感じでは再び資料を見せてもらえる事はないだろう。

 正直に無詠唱の話をすると、どんな事態を引き起こすのかも分からない。

 ミニアに頼んで誤魔化してもらったが正解だったかもな。




 近接魔法学の授業を受けたので、今、ミニア達はシャワールームに居て魔法で体を洗っている。

 ティはベンチで一人留守番だ。


 おっ、ライナルドが近づいて来る。

 ティに何かしたら、許さないぞ。

 その時は一っ飛びして、ブレスで丸焼きだ。

 ライナルドは何もせずどかっとスライムの隣に腰を下ろした。


「はぁ、何で上手く行かないんだ。スライムよ、聞いてくれ」


 悩みか。

 おじさんが聞いてやろう。


「俺は貴族の三男で兄貴といつも比較されてきた。剣では一番上の兄貴に勝てず。勉強では二番目の兄貴に勝てない。俺は二番の星の下に生まれてきたんだ」


 それで、魔法学園でトップをとろうと言うのか。

 俺を越えるのは無理じゃないかな。

 剣もミニアに勝てないだろう。


「何か一つで良いんだ。突出した物がほしい。一番がほしいんだ」


 頑張るんだな。

 何か向いている事が見つかるさ。


「俺って駄目なのかな。一生負け犬なのか」


 俺はティにお茶の香りを漂わせるように伝言魔法で指示した。

 最近、ティと開発した技で、体内にあるお茶の成分を少し排出する事で香りを出す。


「良い匂いだ。リラックスできる。愚痴を聞いてくれて、ありがとう」


 ライナルドはそういうと去って行った。




 これからミニアはタルコットに会いに行く予定になっている。

 監視せねば。

 いつも通りにティが肩に乗って、ミニアは魔法都市の大通りを歩く。

 タルコットは大通りの一角に二坪ぐらいの店舗を構えていた。

 ちっちゃいが、商売相手は商人だから問題ないらしい。

 俺なんかは侮られるんじゃないかと思うんだが、そうでもないらしい。


「こんにちは」

「これは、これは、ミニア様。今日はどのような御用で」

「新商品もってきた」


 まずはお休みタイマー付き送風機をミニアが見せる。


「これは良いですな。ただ、タイマーと風量の機能が別だと、もっと嬉しいのですが」

「ドラゴン的な努力で、なんとかする」

「そうですか。お次は火の魔道具ですか」


 三段階の火力調整付きのコンロ魔道具を見せる。


「どう」

「火力の段階はもっとあった方がいいですな」


 駄目か。

 スライドスイッチがないと火力の調整は難しい。

 要検討だな。


 最後にカウンターの魔道具を見せる。


「ふむ、ふむ、シンプルなのが良いですな。先ほどの魔道具はCランク魔石でしたが、これはFランク。子供の小遣いでも買えます。用途は限られますが、なかなかいいのでは。反物の在庫を数えるのにうってつけです」


 倉庫の中を行ったり来たりしながら数を調べるのに使うのか。

 元紡績商人らしい言葉だな。


 送風機はスイッチが沢山か。

 これはなんとかなりそうだな。

 コンロはスライドスイッチか。

 これは魔法をもっと沢山集めないと解決しない。


「約束の魔道具、三千個」

「ありがとうございます。魔法電卓みたいなヒット商品が生まれれば良いのですが、やはり難しいのでしょうな」

「ドラゴン的な頑張りに期待」

「商品開発も良いですが。どうですかな。ここは一つ、大々的に事を起こしては」


 さりげなく物騒な事をミニアに吹き込むなよ。


「わかった。今までない学問を起こす」

「して、方策は」

「もちろんある。名付けて魔法翻訳学」


 そう言うとミニアは紙に書き始めた。


返答期待しない 主よ(注文うけない)

{

 火、玉、試験();

}


 ふむふむ、下のC言語を言語化したのか。


void main(void)

{

 fire_ball_test();

}


 『main』が『主よ』になっている所が笑わせる。

 まるで祝詞じゃないか。

 でも、中々面白い。

 こうすれば、とっつきが良くなるかもな。

 宗教問題も祝詞の現代語訳って事で異端とはぎりぎり言われないだろう。

 これをミニアが学問にするのか。

 ミニアにはエディタで散々Cのプログラムを見せて解説しているからな。

 俺も協力してやれるし、いいんじゃないか。


「ファイヤーボールの呪文を翻訳したのですね」

「渾身の出来」

「学問を広める時は言って下さい。きっとお力になれるでしょう」


 教授になる算段もついたし、まずは講師だな。

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