第79話 学食の風景

 学食でセラリーナと待ち合わせだ。

 まだ、セラリーナは来ていないな。

 ミニアはティカップとティポットをお盆に載せてテーブルまで運んだ。


 ティポットの中にはティにあげているお茶と同じ葉が入っているのだろう。

 ティの感覚が自分と同じ匂いを感知した。

 腐った肉を食って臭くても、腐った肉の臭いは逃さない。

 スライムの七不思議だな。


 最近ではお茶の葉の匂いを嗅ぐとティはご飯の時間だと思うようだ。

 ミニアがお茶の葉をティに食わせる。

 ティがお茶の葉を消化し始めるとミニアはティカップにお茶を注いだ。


「くん、くん、この臭いは。あの臭いだ。麻薬だ」


 少し離れた所に居る男がそう呟いた。

 食堂に麻薬。

 マリファナでも吸ってる学生がいるのか。

 まさかな。


「駄目じゃないか。試験一回だけだと思って見逃したけど、今回は見逃さないぞ」


 男はミニアがお茶を飲んでいる所に来て、言い放った。

 この男に見覚えがある。

 声を掛けてきた試験官だ。

 ミニアは自分の事を言われたと気づかずにお茶を飲んでいる。


「無視か。そっちがその考えならこっちにも考えがあるぞ」

「私の事?」


 きょとんとした顔で男を見上げるミニア。


「そうだよ」

「何の事?」

「この臭いだ。リラックスさせるって言ってたけど。嗅ぐ事で知力を一定時間上げる麻薬なんだろう」


 ああ、この試験官はティの臭いが特殊な麻薬だと勘違いしたのか。


「私が飲んでいるこのお茶の事」

「えっ、お茶。そんなはずはない。上司からスライムの子はカンニングだって言われて、必死に考えたんだ」

「なんなら、お茶の葉を少し分けてあげる」

「よし、分けてくれ」


 ミニアは持っていたお茶の葉を空のポーション瓶に詰めて渡した。


「くんくん、この臭いだ。本当にお茶だったのか。まだ分からないぞ。薬学の講師をやっている友達に分析させなきゃ」

「私、ミニア。あなたは?」

「ダッセン。学園職員をやっている」


「責任取ってくれるのよね」

「何の」

「人を犯罪者扱いしたんだから、その責任」

「この麻薬が、効力がなかったらな」

「えへっ。じゃ、あなたは下僕ね」

「まだ決まった訳じゃない」

「来週になったら会いに行くから」

「くそう、ドジ踏んだか。いやはったりかも……」


 ダッセンは呟きながら去って行った。

 手口が通達されてないのかな。

 それとも報奨金を貰わなかったからそういう事になっているのか。


 ミニアが二杯目のお茶を飲もうとした時にセラリーナがやって来た。


「おまたせ」

「セラリーナも飲む?」

「あなた、そのお茶好きなのね」

「麻薬だから」

「へぇー、麻薬なんだ。こわい、こわい。何でそんな話になったの」

「学園職員がこのお茶が知力を上げる麻薬だって」

「ああ、その事」

「何か知っているの」

「私達の手口がまだ証明されてないから、手口を暴いた者に金一封だって。私も手口を何人かに聞かれたよ」

「正直に言ったのに」

「今の所、彼らが考えているのは、着信拒否魔法を何らかの手で、妨害したという事らしいわ」

「防御魔法?」

「ダメージを無効化する古代魔道具がこの学園にはあるのよね。でも着信拒否魔法を防御するのは都市伝説よ」

「都市伝説はロマン」


 二人は食事を摂りながら、会話をしている。


「魔法調薬学の講義を受けたの。ある一族に奥義があってどんな効果の薬も作れるらしいわ」

「詳しく」

「その薬はなんでもありみたい。文字通り万能薬よ。着信拒否魔法の解除の薬も作れるって。私達のカンニングにはこれが使われたってもっぱらの評判よ」

「ふーん」

「スライムの感覚共有もそれじゃないかって。特殊な工程と特殊な材料を使うらしいけど。門外不出だから、ある貴族の一族しか作れないみたい」

「なるほど」

「薬師に関係ある職員が考えているストーリーはこうね。ある亡国の姫が暗部を使ってその万能薬の製法を盗んだ。そして、カンニングに使ったって。その姫がミニアよ。建国するなんて言うからそういう噂になるんだわ。私は御付のメイドらしいわ」

「事実無根」


「そうね。でも、一般大衆はこういうストーリーが好きなのよ。こういのもあったわ。姿を見えなくする秘術があってそれがカンニングに使われたと」

「むが、むぐ」

「急いで食べるから、お茶よ」

「はぁはぁ。ありがと」


 ミニアは食べながらだと口数が少なくなるな。

 なんでも出来る薬か。

 是非、製法が知りたいな。

 門外不出だからどうにも出来ないか。

 残念だ。


 姿を消す魔法はリトワース関係の噂だな。

 暗部が欲しがる魔法だから、どの国もその存在を把握しているのだろう。

 亡国の姫と結びついてそういう噂になったのだな。


 ミニアが姫か。

 リトワースの宰相が信じそうな噂だな。

 でも、惜しいところに、かすっているな。

 リトワースの暗部は存在するし、ミニアには継承権がある。

 だから、姫といっても過言ではない。

 ミニアには聞かれたら否定するように言っておこう。

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