第80話 従魔小屋と薬草園

 セラリーナとミニアは学園の施設を回るみたいだ。


「図書室と魔法の試射場はもう行ったから、今日は従魔小屋と薬草園に行きましょ」


 とセラリーナ。


「うん」


 従魔小屋は周りを分厚くて高い壁に囲まれている。

 警戒厳重だな。

 二重扉を入ると従魔が暮らす小屋があった。

 大半の動物はガングステン製の檻に入っている。

 その様子は猛獣を集めた動物園だな。


 ミニア達が檻の側に寄るとなぜか逃げようとして爪で檻の奥を引っかいた。


 奥の一角に、ガングステン製の建物がある。

 覗き穴が空いているので、そこから中を窺い見た。


 中では檻を挟んで戦闘が行われていた。

 いたのはブレスを吐く2メートルぐらいの白銀の狼魔獣。

 ちっこいがフェンリルみたいだ。

 相手をしているのはライナルドだった。

 ライナルドは入学式の後にミニアに喧嘩を売って来た奴だ。


「くそう、お前もか。お前も俺を認めないのか」


 一番簡単なファイヤーボールの呪文をライナルド唱えた。

 撃ちだされた火の玉はフェンリルのブレスでかき消される。

 余波がライナルドを凍りつかせて、吹き飛ばした。

 勝負になってないな。


 ミニアはティをセラリーナの肩に乗せると建物の入り口に入って行った。

 入り口には挑戦は自己責任でとある。


 ミニアが中に入るとフェンリルはキャインと情けない声を上げる。

 そして、腹を見せた。


「あと少しだったのに余計な事をしやがって。こいつもお前の従魔に加えるのか」


 疲労困憊の様子でライナルドは強がりを言った。


「興味があっただけ。従魔は間に合っている」

「ミニア、そんな危ない事しちゃ駄目」


 セラリーナが壁越しにお説教口調でミニアに言った。

 ミニアは中々立ち上がれないライナルドに肩を貸そうとするが払いのけられて、ライナルドはよろよろと建物から出た。

 ミニアが後を追うように出ると。


「助けてくれなんて言ってないから、礼は言わない」


 ライナルドはぶっきらぼうに言い放った。

 そして去って行った。




「もう、あんな真似しちゃ駄目。聞いているのミニア」

「聞いている。セラリーナ、お目当ての従魔を探さないと」


 繁殖小屋が立ち並ぶ一角に来た。


「あれじゃない」


 ミニアが指差した先にはハムスター魔獣が居る。

 大きさは30センチと小柄ながら、その動きは素早い。

 斥候にも使える魔獣だ。


「ハムステラがほしいのかい。一匹銀貨二枚だよ」


 管理人のおじさんが言った。


「ええ、頂くわ」


 セラリーナは金網で出来たゲージの前に貼られた魔法名を確認すると、隷属魔法を唱え始めた。

 隷属できたみたいだ。

 ハムステラはゲージ越しにセラリーナからヒマワリの種を貰うともしゃもしゃと食べ始めた。

 ゲージから出されたハムステラは逃げ出そうとする姿勢を見せる。

 セラリーナは素早く首根っこを掴むと抱っこした。


「あなたは、ハムトシよ」


 なんか厳つい名前だな。

 ハムトシはミニアが近寄るとセラリーナの腕の中で暴れ始めた。


「こら」


 分かったぞ。

 魔獣達の様子が変だなとは思った。

 俺の臭いがミニアについているんだ。

 だから魔獣が逃げる。

 ミニアにその事を伝言魔法で伝えると、臭い消しの魔法を実行した。


 ハムトシはミニアが近寄っても暴れなくなった。

 そう言えばタルコットに布に臭いを移させてくれと言われた事があったな。

 魔獣よけらしいが水に濡れると効果が落ちるだったか。

 結局ボツになったんだよな。




 隣接する薬草園は青々とした野草が所狭しと植わっていた。


「これ使って。物品鑑定魔道具」


 ミニアはセラリーナに物品鑑定の魔道具を渡した。


「ありがと」

「Fランク魔石から作ったから、感謝されるほどでもない」

「ミニアが作ったの」

「ううん。ドラゴン。もとい師匠」

「師匠さんは多芸なのね」

「うん。万能」


 セラリーナはご自由にお取り下さいと書かれた畑で何種類か薬草を摘んだ。

 さっそく、物品鑑定魔道具を使って、採った薬草が目当ての物か確かめていた。


 薬草園で挙動不審な人がいた。

 汚いエプロンを着けた女性だ。

 何か気視感があるな。

 立ち入り禁止の薬草畑で薬草を踏み荒らしている。


「駄目よ。そこは立ち入り禁止。看板があるでしょう」

「しまった。貴重な薬草が。教授に怒られる」


 頭を抱える女性。

 格好から察するに錬金術士だろう。


「早く出ないと更に酷くなる」


 ミニアがそう言うと女性は畑の外に出てきた。


「なんであんな事をしたのよ」

「転んで魔石を薬草畑の中にぶちまけてしまったのだ」

「魔石なら持っている。分けても良い」

「Fランク魔石で良い。十個程必要なんだ」


 ミニアが魔石を分けるとお礼を言って大急ぎで駆け出していった。

 あーあ、畑をあんなにしちゃって。

 この場にミニア達が居ると犯人にされちまうな。

 いそいで離れた方が良い。

 その時、ティの目が畑にある一枚の紙片を捉えた。

 なんだメモ書きか。

 ミニアに取るように言うと手を伸ばし紙片を掴んだ。

 掴んだ紙には呪文が書いてある。

 落とした人には悪いが、解析させてもらおう。


char magic_stone[100]; /*魔石100立方センチ*/

void main(void)

{

 int i; /*カウンター*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 for(i=0;i<100;i++){

  magic_stone[i]=magic_stone[i]|LIQUID; /*物質の液体化*/

 }

 mp=magic_make(magic_stone,sizeof(magic_stone),IMAGELIQUID); /*液体を魔法登録*/

 magic_trans(mp); /*現象に変換*/

}


 魔石の液体化魔法だ。

 ふーん、魔石を液体化して錬金術で使うのかな。

 さっきの女性がもの凄い形相でこちらに駆け寄って来た。

 ミニアがメモを持っているに気づくとひったくるように奪う。


「見た」

「うん、少しだけ」

「見たのは忘れて。お願い」

「忘れる」

「でないと恐い人が抹殺に現れるから」

「初めから覚えてない」

「よかった私が粛清されるところだった。キャラナよ」


「私はミニア。彼女はセラリーナ」

「助かった。魔石はともかく。このメモをなくしたのがばれると厄介だから」


 女性はメモを大事そうに仕舞うとまたねと言って、足早に去って行った。


「嵐のような人ね」

「うん」

「案外、万能薬を作っている一族だったりして」


 だとするとあの魔法は万能薬を作るレシピの一部なのかもな。

 そんな訳ないか。

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