第30話 諜報訓練

 今日はなんと諜報訓練。

 酒場での噂話を集めるって課題だ。

 ミニアはお子様だから、当然酒場には入れない。

 認識阻害を使うのもありだが斥候の三人に魔法を盗んだ事がばれると厄介そうだ。

 あの三人なんか訳ありみたいだから、進んで巻き込まれるのもな。


 当然の事ながら俺が酒場の外で耳を澄まして噂話を聞く。

 それを伝言魔法でミニアに伝えてメモに書き取るって寸法だ。


 酒場の外に俺が居座るための理由が、腹が一杯で動けないだ。

 俺は腹に空気を吸い込み膨らませる。

 ぽっこりした腹は妊娠したみたいだ。

 そういえばもうかなり経つけど彼女どうしたかな。

 教習が終わったら伝言魔法で連絡とってみよう。




「角にある洗濯屋の奥さん浮気したんだってな」

「へぇー、相手は」

「相手は大店の若旦那らしい」


 他愛ない話だな。

 他の話も似たり寄ったりだ。

 小一時間ほど情報収集する。

 ある商人の男がこんな事を言い出した。


「ブライシー騎士団が暗躍しているってよ。国境の街で見た奴がいるらしい」

「そいつは大事だ。戦争になるとなれば物資が上がるな。急いで買い付けないと」


 背中でその会話をメモするミニアが歯軋りした。

 俺は何事かと首を曲げてミニアを見た。

 ミニアは殺気走った目で酒場の方を睨んでいる。


「どうした」


 俺は魔法で文字を空中に浮かべる。


「ブライシー騎士団。仇」

「因縁のある奴なのか」

「村。焼かれた」


 どうやら、ミニアが住んでいた村を焼かれたらしい。

 その時ミニアの両親も死んだのだろな。

 その後、奴隷狩りに捕まって奴隷になった。

 そんなストーリーだろう。


 ミニアは復讐したいのだろうな。

 ミニアが危なくなる事は防がなくてはならない。

 危険にならない程度で頑張るとするか。

 だが、滅ぼした村の生き残りが居ると知られたら、向こうから襲い掛かってくる事も考えられる。

 先手必勝だな。

 殲滅確定だな。




 酒場から噂をしていた商人が出て行く。

 おれは魔法名鑑定の魔法を行使した。

 人探しの魔法は貰った魔法にある。


 イメージはこんなだ。


void main(void)

{

 system("cd 場所"); /*情報を得るための場所指定*/

 system("dir > 魔法名"); /*情報を得る*/

}


 場所が分からないと探し出せない欠陥魔法だが。

 大通りに場所を指定してこれを使うと道路に面した場所の情報が得られる。

 ちなみに有効範囲だが視界の範囲が有効範囲らしい。

 建物も部屋別の魔法を掛けなくてはならない。

 普通なら虱潰しって事なんだろうな。


 だが魔法にはループという概念がある。

 大規模探索魔法が存在する。


void main(void)

{

 TEL *tp; /*伝言魔法定義*/

 tp=topen("魔法名"); /*回線を開く*/

 system("cd 場所"); /*場所を変える*/

 man_search(tp); /*人を探す魔法*/

 tclose(tp); /*閉じる*/

}


 それがこれだ。

 値段はなんと金貨千枚。

 ベヒーモスの代金で貰った魔法の中にあった。


 自分なりに『mansearch』の中身を想像してみる。


void man_search(TEL *tpo)

{

 TEL *tpi; /*伝言魔法定義。まずはその場所の情報を得るために入力の定義*/

 int i; /*カウンター*/

 char s[256]; /*読み込み用の領域*/

 char cmdname[259]="cd "; /*場所を変える時の頭の部分*/

 system("dir > temp); /*その場所の情報を得る*/

 tpi=topen("temp"); /*仮回線を開く*/

 while(tgets(s,256,tpi)!= NULL){ /*得た情報の一行*/

  if(s[0]=='<' && s[1]=='D' && s[2]=='I' && s[3]=='R' && s[4]=='>'){ /*先頭を場所かどうかチェック*/

   /*データが場所なら、場所を変えるために場所名をコピー*/

   i=0; /*カウンター初期化*/

   while(s[i+5]!='\0'){ /*一行の終わりまでループ。6文字目から始まる*/

    cmdname[i+3]=s[i+5]; /*一文字ずつコピー*/

    i++; /*カウンターを増やす*/

   }

   cmdname[i+3]='\0' /*終わりの印を入れる*/

   system(cmdname); /*コピーした場所名に変更*/

   mansearch(tpo); /*コピーした場所を人探しする*/

  }

  else{

   tprintf(tpo,"%s\n",s); /*データが人なら出力*/

  }

 }

}


 とまあこんな具合だ。

 実際はもっと細かいエラー処理とか。

 『temp』を領域にコピーするとか色々ある。

 『temp』は再帰呼び出しに対応していなからな。

 再帰呼び出しってのは自分から自分を呼び出す事だ。

 これもバグの温床だな。

 普通は何階層までオッケーとか制限をつける。

 出力する時に場所の情報を付け加える事も必要だ。

 他にも色々あるが大まかにはこんなもんだろう。


 目的の魔法名だけ探すっても出来そうだがさらに複雑になる。

 余談だな。


 大規模探索魔法を使うと商人の魔法名と場所がイメージされた。

 ふむ、オルカッタ商会の二階か。

 ミニアが場所を尋ねると大通りに面している。

 良かった細い道だと俺が通れないからな。



 俺は腹を膨らまして商会の前に居座る。

 ミニアが道行く人にすみませんと声をかける。


 耳を澄ますとちょうど商人が騎士団の話をしているところだった。


「物騒だね。敵国の騎士団がまたなんでこの国で」

「さあ、工作活動じゃないか。あの騎士団名前は騎士団だし身分もその通りなんだが実態は盗賊団だ」

「荒事専門って訳か」

「荒事というより汚れ役さ」


 ふむふむ。

 かなり外道そうな連中だな。


「見かけたって言っても下っ端がうろうろしてただけだろう。戦争は飛躍しすぎじゃないか」

「いや、汚れ役が出てきたって事になると戦争は近いよ。商人の勘だ」

「しかし、下っ端も間抜けだね。紋章の入った短剣を落とすとは」

「あそこは実態が盗賊団だから、迂闊な奴がいたんだろう」


 それから話には有益な情報は出なかった。


 ギルドに顔を出して酒場での噂話を提出する。

 教官はぺらぺらと紙をめくり良くやったと言った。

 酒場の客にギルドの人間が居たらしい。

 そいつの話の情報が取れていれば合格なんだとか。

 俺達は教習の結果よりブライシー騎士団の話が気になった。

 大急ぎで家まで戻る。


「ミニアはブライシー騎士団をどれだけ知っている」

「殆んど。知らない。紋章。ネズミ。村で。連中の盾。見た」


 酷い紋章があったものだ。

 ネズミとはな。

 ドラゴンとかグリフォンとか獅子とか色々あるだろう。

 敵国でも嫌われているのかもな。

 つけ込む隙があれば良いけど。


「という事は最近になって調べたのか」

「うん。冒険者。なってから」


 じゃあ殆んど分からないのも同然だな。


「ミニアは引き続き情報を集めろ。俺もなるべく耳を澄ますようにする」

「頑張る」


 冒険者の情報収集力ではたかが知れている。

 何か考えないとな。

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