第11話 P子さんからの報告。

「という訳で、ツアーについて来てくれないですかねえ?」


 そうP子さんが訊ねたら、彼女のバイト先のビデオ屋にに遊びに来ていた「海野もくず」嬢と「桜」嬢はいいっすよー、と陽気に答えたらしい。

 さてこの二人はLUCKYSTARというバンドを組んでいる。その名の由来は、「幸運の星」=「そう簡単に引き留めてはおけないもの」らしい。

 らしい、というのは、どうやらこの名前は、このバンドを結成した初代のメンバーがつけたものらしく、そのメンバーが脱退して行方知れずの現在、その正確な由来など探しようがないからである。

 では変えてしまえばいいではないか、と言う者もなくはないが、どうもそういったことに頭を使うのは、現在のメンバーはあまり好きではないらしい。

 まあ覚えやすいし、別に悪くない名だし、その名で知られているようだからいいんじゃないの?というのが現在のメンバーの共通した見解らしい。

 さてこのLUCKYSTARというバンドはヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの四人編成である。

 ちなみにこの、一見大人しそうな「桜」という名(しかも本名である)の奴は、異様に低いダミ声を持つヴォーカルである。声だけ聞くと男ではないかと言われるのだが、会ってみると確かに(大柄であるのは事実だが)女性体型だったりするので、大抵の奴がびっくりする。

 一方、「海野もくず」という救いもへったくれも無い呼び名(本名は静香とかいう)を持つ女はベーシストである。これもまた実にごつい女で、P子さんがHISAKAに「どういう奴か」を説明した時の文句を引用すると、「大股広げて法被を着てさらしを巻いて、お祭りの時真っ赤な馬鹿でかいうちわでおみこしをあおいでいるような」女である。

 二人とも身長180センチはあろうか。PH7も長身の女が揃ったバンドだと思うけれど、彼女達はそれに輪をかける。

 後二人メンバーがいるのだが、その二人も、180ならずとも、170は確実に越えているらしい。

 「よくそんなのが揃いましたねえ」とさすがにP子さんも呆れた顔をしたらしい。

 それでライヴ時には、色抜きまくった髪をがんがんに立てているから、一体どのくらいになってしまうのだろう?

 しかも、明らかに「スリム」ではない。何処でどう鍛えたのか、実に腕やら脚やらに筋肉がついている。中学の伸び盛りに運動部にいたら、めきめき筋肉と身長がついてきてしまったのだという。

 高校に行って、…ドロップアウトした後も、その体格は、普通の女の子のバイトより、力仕事を要求され、結局そのついた筋肉が贅肉に変わる余裕がなかったのだという。

 そういう二人であるから、TEARと時々貧乏対決をしてしまうようなところもあった。

 二十歳近い現在、彼女達もまた、家を出ている。どうやら親もそういう彼女達に心配はそうしなかったらしい。

 何でもそれぞれに同居人がいるらしいが、P子さんはそこまでは聞いていないと言う。だがいずれにせよ貧乏であることには変わらない。

 だが貧乏暮らしとは、その時期を抜け出してから、その時のことを自慢(?)し合うには実に楽しいのだが、その当事者の時に下手にそれをし合うと、ああここまでは行けるか、と他人のフリ見て、自らの貧乏のテクニックに磨きをかけてしまう羽目に陥るから要注意なのだと言う。


 悪いがあたしにはよく判らない。


「あ、でも途中少し抜けていいですかね」


 ややだるそうに、ダミ声がP子さんに訊ねた。


「用でもあるんですかね?」

「いやあの、ウチのバンドの方のライヴもあるんですわぁ」


 ややにやけ気味に言うもくず嬢に、おおそうか、とP子さんはぽんと手を叩く。


「そーうですか。それだったらワタシも見たいしなあ… あんた達の音、ワタシは好きですし。とは言えども、まあリーダー殿がどう言うか、ですがねえ」

「HISAKAさん次第ですか?」

「そ。御大次第。ワタシは所詮ただのギター弾き~」


 P子さんは珍しくひらひらと手振りつきの鼻歌まじりである。だがそこではぐらかす訳ではない。


「ああ、でも人手は欲しいですしねえ… 今現在動かせる連中、居ることは居るけれど、学生連中は期間的に駄目だし、自分のバンドある奴も居るし… やっぱりもう一人二人誰か足が自由な奴、いませんかね? あんた達、誰か心当たりありませんかね? 女で。野郎は今いーし。十分居るし。別にあんた達ほどたくましい女でなくていーですから」

「P子さん… たくましいって…」


 別に自覚が無い訳ではないが、もくず嬢はやや苦笑いを返す。


「あんた達自分のことたくましいと思ったことないんですかね?」


 P子さんは相変わらず真っ赤なままの髪を、うるさそうにかき上げる。

 どうやらその馬鹿馬鹿しい程の赤さがP子さんは妙に気に入ってるらしい。かと言って、自分で色が落ちたから染め直そうとか思わない所はP子さんなのだが。


「そ、そりゃなくはないですけど」

「じゃあ文句はないでしょうに… 心あたり…」

「一人くらいはあたしゃいますがね」

「あたしもいますわ。いちお、両方別々に当たってみよおな」

「うん」


 たくましい女達はうなづきあう。


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