リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路
赤城 努
第1話 リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路
各異世界を管理する天界に、背中に白い翼をつけた女神こと女神Aがいました。
名も知らないどこかの世界から、見ず知らずの青少年を自身が担当する異世界に召喚して、我が物顔でのさばる
無論、
「これでクソビッチな先輩どもからアゴで使われなくなるわっ! ザマァ見なさいっ!」
これは、上司の大女神から拝命された瞬間に上がった女神Aの心の叫びです。
女神に昇格させた上司の大女神は、内心ダダ漏れの絶叫に、多少の不安と後悔を抱きながらも、「今後の働き次第でさらに昇格し、二つ名も授けられますよ」と、たしなめるように励ますと、励まされた女神Aは、さっそく担当の異世界へ赴き、職務に精励しました。
羨望して止まなかった職業なだけあって、女神としての仕事内容は元より、上手かつ手っ取り早くこなせる秘訣まで、一字一句間違いなく熟知していました。
そして、どこかの世界から手頃な青少年を適当に転移召喚した女神Aは、天界の神殿に召喚したその対象に、まくし立てるような勢いで勇者の使命と概略の説明を手早く済ませると、有無を言わさずに冬空が広がる異世界の王都の広場に放り捨てて、その上空へと飛び去って行きました。
つい一分前まで、現実世界の渋谷で婚約者とデートしていたIT企業の
魔王軍の侵略からこの異世界を守り、討伐する存在として召喚させた勇者の存在を、女神Aからさっそく告げられた王都の異世界住人たちが、身分や種族を問わず、手厚くもてなした結果でした。
リア充とはいえ、やはり把握と理解に時間がかかったリア充Aは、ようやく事態を呑み込むと、
「完全に人選ミスじゃねェかァッ!!」
天をも貫く声で憤慨し、元の世界への送還を、チートキャラよりも強く要望しました。
リア充Aからすれば迷惑でしかない異世界転移でした。
現実世界に不満足な負け組が召喚されるべき異世界転移なのに、本当に迷惑以外の何者でもありませんでした。
だが、リア充Aを召喚した張本人たる女神Aは、やはり今の声が届かなかったのか、担当であるはずの異世界へ戻る気配はなく、連絡手段もないので、どうしようもありませんでした。仕方なく、王都の王族をはじめ、異世界の住人たちに自身の事情や要望を片っ端から伝え回りましたが、誰一人聞く耳を持たず、それどころか、「早く魔王を倒して」の一点張りで これもどうしようもなく、無償で与えられた豪華な屋敷の中で途方に暮れました。
無償な上に豪華な屋敷とはいえ、電子機器もネットもないので、機械文明が発達した現実世界の人間からすれば、原始人さながらな環境に、リア充Aのストレスはマッハで蓄積し、現代社会の勝ち組として最適化されたはずのリア充Aの精神は、次第に
一方、ある日からずっと屋敷にひきこもったまま、何もしなくなった勇者ことリア充Aに、王都の異世界住人たちは、次第に不信を募らせ、魔王討伐を急かすようになりました。だが、いくら屋敷の扉を叩きながら急かしても、勇者ことリア充Aの
それでも、なにひとつ
「~~ああ、わかったよォ。~~やってやるっ! やってやるともォッ!!」
血走った両眼と意を決した表情と口調で宣言して。
その宣言に、異世界住人たちは狂喜乱舞し、勇者ことリア充Aからの積極的な協力要請に、大喜びで応じました。
ついに魔王討伐の決心がついたと思って。
その証拠に、勇者はひきこもる前と違い、入念な準備を始めました。
その精励ぶりを傍観していたこの異世界の住人たちは、今までの驕慢な勇者たちとは何味も違うその姿に、深く感銘を受けました。前任者たる女神Bは、使い捨てのごとく何百人もの勇者を一人ずつ召喚しては、その都度行方も消息も不明になり、期待もその都度打ち砕かれていたので、今回ばかりは否応がなく期待が膨らみました。
そして、入念な準備を終えた勇者は、自身が選りすぐった異世界の仲間たちとともに、魔王を討伐すべく、旅立ちました。
王都の異世界住人たちは、勇者に率いられた誇らしげな
「――さて、もうそろそろ終わったかな♪」
念願の女神になれた女神Aは、その内容にふさわしい仕事を天界で満喫していましたが、そろそろ進捗状況を確認しないと、上司の大女神から、自身の管理能力や責任感に疑念を抱くようになって来たので、仕方なく久しぶりに担当の異世界へ舞い戻りました。
だが、その状況は、ありえない角度で予想の斜め上を行っていました。
王都が魔王軍に八割方蹂躙されていたのです。
自身が責任をもって受け持っている異世界自体も、ほぼ同様の割合で、阿鼻叫喚の地獄絵図が、女神Aの眼下で展開されていました。
「!???????????????????????????????????」
完全にパルプンテ状態と化した女神Aは、魔王軍の侵略が九割ほど完了したところで、誰よりも自身の眼を疑う光景を目撃しました。
勇者と魔王が、占拠した王城の一番高い塔で、互いに交差させた腕でグラスをあおっている光景を。
両者は眼下で繰り広げられている阿鼻叫喚の地獄絵図を
その足元には、城主たる国王の遺体が、ボロ雑巾よりも無残な姿で転がっていました。
両者の近くまで舞い降りた女神Aは、当然のごとく怒り狂い、
「なに勇者が魔王の異世界侵略の片棒を大きく担いでいるのよォッ!?」
と、勇者を激しく難詰しましたが、その怒声で女神Aの存在に気づいた勇者ことリア充Aは、そんなくだらない難詰の羅列をガン無視したまま、手短に、かつ大声で要求しました。
「オレを元の世界へ返せェッ!!」
望んでもない異世界に召喚され、なりたくもない勇者にならされたリア充Aは、当人の承諾もなく召喚した女神Aと、魔王討伐を強要した異世界住人どもに、渾身の復讐を果たすべく、この異世界の侵略を企む魔王と手を組み、その軍団を率いて王都へ戻ってきたのでした。
むろん、魔王相手に
自力で約束した
このリア充Aの行為を、魔王はとても気に入りました。ぶっちゃけ、本物の悪魔よりも悪魔的な行為だと感じたので、侵略同盟の締結に、なんの抵抗感もありませんでした。そして魔王は、リア充Aがもたらした情報や知識を元に、配下の悪魔たちに、異世界侵略を効率よく実施するよう、異世界の隅々まで散開させたのでした。
「――さァ、さっさとオレを元の世界へ返せェッ!! でないと、魔王軍の侵略は止まらないぞォッ!!」
一方、リア充Aの主目的は、むろん、復讐ではなく、現実世界への送還でした。可能なら自力で帰還したかったのでしたが、この異世界の魔法にはその類のそれがないため、送還が可能な当人である女神Aに、その交渉テーブルをつかせる意味も兼ねて、この計画を企図したのでした。一見、異世界住人たちには魔王討伐の準備にしか見えないフリをしていたのも、その一環でした。
魔王に送還してもらうという選択も、あるにはありましたが、それを選択するには、リア充Aの怒りと憎悪は、宇宙よりもはるかに巨大過ぎでした。
計画の全貌を聞かされた女神Aは、
「――ほぉ~らァ。モタモタしてっと、罪のない異世界住人たちがどんどん悪魔たちに殺されていくぞォ~ッ」
リア充Aが挑発にしか聴こえない口調でその光景を指し示しました。リア充Aからすれば、女神Aともども罪しかない連中を、脅迫の材料としてとことん使いつぶす行為に、罪悪感など素粒子のカケラもありませんでした。もはや、勇者としての使命や人道を説いてもムダだと悟った女神Aは、ついに決断――もとい、観念しました。
リア充Aの要求を呑むことに。
業務命令違反の件は、神に祈る思いで発覚しないことを祈って。
対象たる自身に祈るなど、リア充Aからすれば、滑稽な
「――ふん。これからは相手の承諾を得てから異世界に召喚するんだな」
それが、女神Aの転移術で、元の世界へ送還する前に残したリア充Aの置きセリフでした。
とりあえず安堵した女神Aでしたが、それは一瞬すら続きませんでした。
魔王軍の侵略が引き続き実行されていたからでした。
「
約束は破るためにあるとしか考えないのが、悪魔の悪魔たる所以なのに……。
女神Aは愕然となりました。
1+1の足し算よりも簡単な、初歩中の初歩である悪魔の行動原理を失念してしまっていた自身の迂闊さを。
そんな女神Aに、魔王は面倒くさそうな口調と表情で、配下の悪魔たちに女神Aの処分を命令しました。それを耳にした女神Aは、残りわずかとなった異世界住人の生存者たちを、そんなに多くない使命感や責任感ごと置き去りにして、一目散に飛んで逃げました。しかし、待ち伏せと先回りと追尾をしていた配下の悪魔たちに、前後と上下と左右の六方を立体的に塞がれると、地上よりも無残な
「――ふっ。恐ろしいヤツだ。あの他称勇者は」
黒い太陽みたいに集まっている配下の悪魔たちが、逃げ場を失った女神Aを袋叩きにしているそれを背後に、塔から地上を見下ろした魔王は、ワインを転がすように動かしながら、最後の一人となった異世界住人の生存者が、女神Aのようになぶり殺しにされる様子を、息絶えるまで見届けました。
――こうして、異世界は魔王軍に滅ぼされました。
〈終わり〉
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