第八話
「早く弁当食べようぜ。俺、お腹減りすぎて死にそう」
俺は、呟きながら弁当の包みを開く。
「あ、あの、お弁当作ってきたんだ。食べてもらってもいいかな?」
一城さんは、綺麗な包みに包まれた弁当箱を渡してくる。
「え、マジですか?ありがたくいただきます」
動揺のあまりまた敬語になってしまう。
学校のアイドルである一城さんの手作り弁当、それはまさしくS級のレアアイテム並だろう。
「うわ~、美味しそう」
素直な感想を溢してしまう。
弁当を開けると、色とりどりの具材がバランスよく入っていた。
見るからに美味しそうなお弁当である。
「いただきます」
俺は、数ある具材の中から卵焼きを最初に食べる物に決め口に運ぶ。
「・・・・・・」
卵焼きを噛んだ瞬間、言葉を失った。
旨さのあまりにではない、物凄く不味かったからである。
見た目からは味を想像できなかったこともありダメージはデカイ。
何度か飛びそうになる意識を気合いで留めながら飲み込む。
「どうかな?」
彼女は、心配そうに尋ねる。
「美味しいよ。作ってきてくれてありがとう」
俺は、込み上げて来る吐き気に耐えながら告げる。
「良かった~、食べてくれてありがとうね」
一城さんは不安で揺れていた表情を笑顔に変え喜ぶ。
これ、残せないな・・・・・・
その後、三人で会話をしようと試みるも気まずさのあまり何も喋れず、地獄のような時間が過ぎ、なんとか弁当を食べ終わった。
後半、俺の味覚は一城さんの手作り弁当によって完全に破壊されていたが・・・
まだ食べ終わっていない二人へと視線を向けると、ある物に気づいた。
「なぁ、唯、その弁当どうするんだ?」
俺は、手の付けられていない女子の物にしては大きい弁当箱へについて問いかける。
彼女は既に手の付けられていないものより小さい弁当を食べていたからだ。
「え、えーと、これ?これね、間違ってお父さんの分も持って来ちゃったんだよね」
彼女は、言いながら自分の背中の方へと弁当を隠すように移動させる。
「もしよかったら、もらってもいいか?」
俺は、言いながら弁当に手を伸ばし、返事をもらう前に蓋を開ける。
「ちょ、ちょっと・・・・・・」
「別にいいだろ?お前、二つも食べる気なのか?太るぞ」
「う、うるさいな~。そんなに言うなら食べればいいじゃん、バカ」
彼女の許可をいただいたところで具材を口へと放り込む。
「うーん、旨い」
俺は、破壊された味覚が回復していくのを感じながら弁当を味わう。
昨日や朝のこともあり、彼女がこの弁当を自分の為に作ってくれたのには気づいていた。
唯が一城さんが弁当を作って来たことを知り、遠慮して渡すのを止めたことも。
「あ、ありがとう・・・・・・」
唯は小声で呟く。
「こっちの台詞だよ、ありがとうな」
俺が唯の弁当を食べ終わるのと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「二人とも、ありがとうな」
俺は、二人の感謝を告げる。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「余った弁当食べてくれてありがとうね」
用事があると言い先に二人に帰ってもらう。
二人は、それぞれ返事を返し教室へと向かっていく。
俺は、二人の姿を見送った後、教室ではなく、トイレへと駆け込んだ。
この日、俺が授業に復活することはなかった・・・・・・
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