第40話 意地悪19(仲間2?)
トントントントン。
台所に包丁の切る音が響き渡る。俺はいつも通り朝早めに起きて、雨宮と自分の弁当の準備をしていた。弁当に詰めるおかずなににするべきか。1つはハンバーグとして、ほかはなににするかな。卵焼きはありだな。あとはほうれん草の炒め物とかか?他には…。
「っ!?」
やってしまった。考えごとをしていたら包丁で指を切ってしまったようだ。
人差し指の先から血がつぅっと流れ出る。慌てて血を水で流し、止血する。
久しぶりに指を切ったな。待てよ?この怪我をした指を見れば、私のせいで先輩の指を傷つけてしまったと思い、雨宮は弁当を作ってもらったことを申し訳なく思うはず。
偶然でさえ意地悪に利用してしまうとは、もしかして俺は天才か?たまたま起きたことであったが、思わぬ意地悪を思いつきほくそ笑む。意地悪といえば、このあとハンバーグを微妙な味にしないとな…。
微妙な味を食べて顔を歪める雨宮。その姿が心に浮かび上がる。
モヤァ…。
ん?なんだこの言い難い嫌な気持ちには。胸にチクリとした痛みが走る。それと同時に告白してきたときの泣きそうな雨宮の顔が思い出された。
あの時みたいなことにはならないと思うが、やはり雨宮は笑っていた方がいいな…。そんな想いが胸中を渦巻く。
そうか!東雲に教えられた時は意地悪の楽しさで思い浮かばなかったが、全力を尽くして弁当美味しくして、雨宮に女子力の差を見せつけてやる方が雨宮にダメージを与えられるはずだ。
きっとこのことが頭の中で引っかかっていたのだな。ふぅ、スッキリした。意地悪を修正したことで胸のモヤつきがなくなり、料理に集中できるようになった。
東雲の意地悪はなかなかだったがやはり俺にはまだ及ばないようだな。そんなことを考えながら、心晴れ晴れと弁当作りを進めていくのだった。
★★★
登校すると早速東雲が話しかけてきた。
「おはよう、神崎くん。準備の方は完璧かい?」
「ああ、ばっちりだ。あと悪いが意地悪の作戦の方は少し変えさせてもらった」
そう言って、変えた意地悪の作戦説明していく。
「なるほどね、確かにそれはいいと思うけれど、なぜ変えたんだい?」
「東雲の作戦だと雨宮は悲しい顔をしてしまうだろ?それがどうしても引っかかってな。やはり雨宮には笑っていて欲しいからこういう作戦にしたんだ。それに東雲の作戦の場合、食べた瞬間の一回きりだろ?だが俺の作戦だと食べている間は、ずっと俺の女子力の高さを意識し続けないとならない。それだけ多くの時間雨宮はダメージを受け続けるというわけだ」
「あー、そういうことね。いい作戦だと思うよ。それにしても本当に君は雨宮さんのことが嫌いなのかい?」
クスクスと可笑しそうに笑う東雲。
「嫌いだと昨日も言っただろ。さっきからなんでそんなに笑ってる?何かおかしいこと言ったか?」
「なんでもないよ。本当に神崎くんが面白くてね。昼休みが楽しみだよ」
訝しげな目で東雲を見るが、東雲は笑って誤魔化して理由を話すことはなかった。
昼休み、いつも通り雨宮が現れた。
ん?誰だ?
雨宮が教室に入ってくるとそれについて来るように、もう1人見たことない人物も教室に入ってきた。とことことこちらに2人で駆け寄ってくる。
「せ〜んぱい!」
「おう、弁当は作ってきたぞ。それよりそっちの人は誰だ?」
「初めまして、神崎先輩。私は晴川華っていいますわ。えりの友達で、今日神崎先輩とご飯一緒に食べるって話を聞いてついてきましたの」
ぺろっと舌を出して笑う晴川。
「そうか、悪いけど俺は知らない奴と一緒というのは苦手なんだ。遠慮してもらえないか?」
話す程度ならいいが、一緒に食べるとなると話は別だ。
「ほら、華!先輩は嫌がるって言ったじゃないですか!」
「まあまあ、落ち着いて、えり」
ここにくるまで反対していたらしい雨宮をなだめながら、晴川が俺の耳元に顔を近づけて囁く。
「私を教室に帰しちゃっていいんですか、神崎先輩?弁当一緒にいさせてくれたら神崎先輩の意地悪手伝いますよ?」
晴川は少し低めの声で、驚愕の言葉を口にした。
「なんでそれを知ってる!?」
思わず声を上げて晴川を見る。晴川はニヤリと口元を歪めていた。晴川が俺の質問に答えようと口を開くが、それより先に雨宮が割り込んできた。
「ちょっと華!?そんなに先輩に近づかないでください!先輩に何を言ったんですか!?」
雨宮が慌てて晴川の肩を掴み、俺から遠ざける。頬を膨らませ怒っているようだ。
「ごめんって。取ったりしないから安心して?私彼氏いるし。ちょっとした取引よ」
「え!?華に彼氏がいたんですか!?」
「ええ、言ってなかったかしら?」
俺の質問そっちのけで2人で会話を進めている。さっき言われたことが気になり、もう一度聞こうとしたその時だった。
「やぁ、神崎くん。それに雨宮さんに華も」
東雲が俺たちの間に入ってきた。
「ちょうどいいところに来たわね。えり、こっちが私の彼氏の東雲直人よ」
は?俺は驚きのあまり固まった。
「初めまして、雨宮さん。僕は東雲直人です。一応、華の彼氏です」
「は、初めまして!私、雨宮えりといいます。華とはとても親しくさせてもらっています。よろしくお願いします!」
どこか緊張した面持ちでぺこりと礼をする雨宮。
「うん、こちらこそよろしく」
「おい、東雲!ちょっとこっちに来い」
2人の挨拶が終わるのと同時に、俺は東雲の肩を掴み、雨宮と晴川から離れ小声で話しかける。
「どういうことだよ?」
「どういうことというのは?」
「とぼけるな。お前が晴川に俺の意地悪の話をしたんだろうが」
俺は意地悪の話を東雲以外にしていない。しかも東雲と晴川は繋がっていたのだから疑う余地もない。
「ああ、そういうことですか。もちろん華に話したのは僕です」
「なに、勝手に話しているんだよ」
「勝手に話したのは謝ります。ですか考えてみてください。協力者は多い方が意地悪は捗るというものです。ましてや華は雨宮さんの親友。これを利用しない手はないでしょう?」
そう言って東雲はニヤリと笑みを浮かべる。確かにそうだ。雨宮に意地悪を仕掛けるというのならこれほど心強い相手はいない。
東雲に言われて、俺がどれだけ強力な協力者を手に入れたのか理解する。
「ちっ、仕方ないな。晴川は確かに利用できそうだし、認めてやるがほかの奴には絶対話すなよ?」
「はい、わかりました」
くくく、まさか東雲が新しい協力者を連れてくるとは。しかも雨宮の親友。これは嫌われるのは秒読みに違いない!
2人での相談を終え、雨宮達の元へ戻る。2人もなにかを話していたのか、雨宮の顔が明るい。
「いいだろう、晴川も一緒に食べるぞ」
「え、先輩!?」
「さすが、神崎先輩。分かっていますね」
俺が初対面の人を受け入れたのが意外だったのだろう、雨宮は目を大きく丸くして驚いている。なに驚いているんだ。お前のせいだぞ。東雲で慣れたし1人も2人ももう変わらない。
「それでご飯どこで食べるんだ?」
「それなら、屋上がいいんじゃないかな。人も少ないし、4人で食べるのに十分な広さもあるしね」
「私はいいと思います!」
「特に反対する理由もないし、俺も構わない」
こうして俺たちは屋上へと移動し始めた。
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