月の満ち欠け
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第1話 第一夜:新月(しんげつ)
「なぁ、なんかオモロい話ない〜?」
私の
「えー?なんかって何?」
「なんでもええけど」
「アンタが聞きたないような事とかでもええんか?(笑)」
「なんやそれ(笑)」
「聞きたい?(笑)」
「聞きたないわ、あほ。そんなんよりオマエの子供のころの話で俺の知らん事とか、なんかないん?」
急に聞かれてもなー。パッと思いつかんわ。なんかあったかな……?
えーと、幼稚園くらいまではあんま覚えてへんな。
小学校や中学校のころやったら、学年が上がる
学年上がったら、最初の席はたいがい出席簿順やから、私は一番後ろかその前やった。
「しゃあないな。ほんならとりあえず一番前に来るか?」
小学校中学年の頃にはもう
せやけど
たまたま隣の席になった子がクラスの人気者の男子やったりでもしたら、女子から無視されたり持ち
中学入ったら人気の男子だけとちゃうくて、イケメンの先生の事でも色々いじってくるのには
せやけど高校生にもなったら、黒板が見えても見えんでも、私もそんなんもうどうでも良うなってた。席なんて別にどこでも一緒やし、見えても見えんでも(悪いという点で)成績変わらんし(笑)
それに高校生のころ言うたら、そら全部が全部ていうわけやないけど、割とみんな勉強そっちのけで、誰と誰が付き
まあそうはいうても?私にも好きな相手くらいおったけど。
おったけど、それが恋なんかなんなんか……。あのころはなんやようわからんかったなぁ。
家が近所の一個上。小学校も中学校も高校も、部活も一緒の腐れ縁。
別に同じ高校に行こうと思てた訳やなかったけど、たまたま同じ高校に進学して、部活もアイツに誘われてなんとなく入った。
家が近いから学校行く時もよく一緒になったし、帰りも遅なったら送ってもろたり。
ほんでもいつも一緒におったわりに、付き合うとかではなくて。
なんやアイツとは兄妹みたいな関係がずっと続いてたし、続くと思っとった。
そのうち二人ともお互い恋人が出来たり、別れたり、また別の人と付き
どっちもがフリーの時も、二人だけで遊んだりしてたけど、それだけ。遊ぶだけ。
少なくとも私の方はちょっとは期待しててんけどな。アイツの方はどない思てたかは知らん。結局アイツとはタイミングが合わんかったんか、一度も付き合う事はなかった。
その後社会人になって何年かたって、家が近いのにアイツからわざわざハガキが届いた。
「Just Married」て書いてあった。相手は私も知っている人やった。
──私、なんも聞いてへんし!──
結婚する事もそうやけど、相手がその女やったって事がショックやった。
加えて、前もってなんも言うてくれへんかった事が、一番ショックやった……。
……その約一年後、私も結婚した。
もちろんこっちからも「結婚しました」って、ハガキを送りつけたった。
ほんならアイツのヨメが対抗するみたいにして「新しく家族が増えました」ってハガキを送りつけてきよった。せやからこっちも子供が産まれた時には、幸せアピール全開のハガキを作って送りつけたった。
暗に敵対心やったと思う。意地になってたところもある。
アイツとは学生時代はあんだけ毎日一緒におったのになー、結婚したら(当然やけど)いっこも会う事なくなってしもて…………
…………んやったよなーとか、グダグダと思い出しとったらなんや知らん、ちょっと腹立ってきた。
ほんでそこから四半世紀くらい?
今。
齢五十を目の前にした私のベッドの中では、その『家が近所で一個上の幼なじみのアイツ』が裸同然でスマホいじりながら、私がなんかオモロい事言うのん待ってるっていう(笑)
ほんでその横には同じく裸同然で、なに喋ろうか?て昔の事思い出しながらちょっと腹立ててる私がおるっていう(笑)
おかしいな。なんでこんな事になってんのん?(苦笑)
「だいたいな、私かてアンタの事で知らん事いっぱいあるやん?」
「せやなぁ(笑)」
「『せやなぁ』て……、あんなぁ……」
「うん?」
私の顔、覗き込んできよる。
あかん。ズルい!こういう時だけ真面目な顔して、優しい目ぇして見つめてきよるねん!
「あんな?女は『灰になるまで』とか、よぉ言うやん?でもな?実際問題、男は60でも70でも奥さんが若かったら子供が出来るワケやろ?」
「まぁなぁ。って、なんの話やねん。さっきの俺の質問どこ行ってん?(笑)」
「……」
「……なんや、どないしたん?」
こんな時だけ、そーっと優しく頭をなでてくる。やっぱズルい。
「……なんやな?アンタに聞かれて色々昔の事思い出してしもてん。ほんならな?私はこの先どんだけ頑張っても、もうアンタの子供は産まれへんねんやろなーって思たらな?……いや、今さら出来ても困んねんけど」
「どっちやねん(笑)」
「……悔しいねん。なんや知らんけど、負けたみたいでめっちゃ悔しいねん……」
知らん間に涙がぼろばろこぼれてきた。目の前がいびつなレンズに覆われたみたいに歪んでしもて、なんか自分だけが溺れてるみたいに息が苦しなってきた。
耐えられんようになって、手のひらで顔を覆った。
「こんなん勝ち負けやないって頭ではわかってんねんけどな?アンタの元ヨメに、アンタの子供の事では一生勝たれへんねんなーとか考えだしたらな?なんか悔しなって、こう、胸がきゅーってなって……」
「……でもソレ言うたら、俺かてオマエとオマエの元ダンナの子供の事考えると複雑な気持ちになるねんで?」
アイツはちょっとむくれた顔して私の鼻をつまんだ。
それを手で払って、ついでに涙も拭いた。
「元ダンナて(笑)私とダンナは死別やねんから、バツイチのアンタと一緒にせんといて?(笑)アンタはヨメに愛想尽かされての離婚やけど、私はダンナに先立たれた未亡人やねんから、アンタと一緒ちゃうやん(笑)」
「……未亡人て……言い方が、なんかエロいな?」
息が耳元にかかってくる。鼻息荒い荒い(苦笑)
「何でそっちのスイッチ入るん?!(笑)」
「さぁ?(笑)」
「今日はアカン!もう無理!もう寝る!」
私はぐいっと身体を押し退けて、背中を向けて寝た。
そしたら「残念やな〜」と少しだけ笑ろて、潜り込んで後ろから抱きついてきた。
そこに私がもぞもぞと寝返りを打って抱き合う形になった。
枕元には二人分の眼鏡が並んでる。
若かったら……かもしれんけど、歳も歳やし?今はそれなりに落ち着いた関係?……やしな。
まあそういう、あんまり余計な気ぃ使わんでも
……知らんけど(笑)
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