蟲花の皇姫と護衛呪術師─魔王城の人質になる姫様についていきます─
ののの。
prologue
メノス帝国第十九代ユガレスダ・カーシャ皇帝──聖杖さまがから聖帝の号を冠されたほどの敬虔な帝王だった。
それがいけなかったのだろう。
天寵を失った国は容易く、堕ちた。
天より落ちてきた、女天使リラ──を、体調が急変し、単に天蓋とも称される中空の網に翼をひっかけて、ぼろぼろと羽根を落としながら、落ちてきた彼女は甚く衰弱していた。
透明な白膚は瑞々しい茘枝の果肉のごとく、今にも手折れそうな華奢な肢体に清流のこどく流るるは、練絹の光沢を帯びた爪の先ほどの女郎花色を混ぜたような雪白の御髪。
麗しの真白き両翼は力無く折り畳まれ、無惨に抜け落ちる羽根は真珠の光沢を放って、ハラハラと茘枝のごとき白膚の痩せた背中に落ちていく。
類い希なる佳人であった。
その無惨な姿を晒す天人に皇帝は劣情を隠しもせず、手篭めにして
女天使リラは人間の穢れた欲望を受けて、とうとう孕んでしまう。
黄金の鳥籠の内の女天使の惨状を御覧じた天上の方々は、彼女を見せしめとして罰を授け、皇帝は堕ち、国土と御璽は天寵を失ってしまう。
天上の祝福に満ちた国土も天寵を失っては恐るるに足らず。
いと昏き妖魔の帝王は、かつて聖帝と冠された男の治めたメノス十三王国を、その魔に満つる領土の末席として列した。
今にも、その服従の証として皇帝の娘御が捧げられようとしている。
第六皇姫クローディア──女天使リラと狂帝ユガレスダ・カーシャの娘であり、メノス帝国第一の絶佳だ。
クローディアが産まれた時、皆が噂した。
これぞ天上の祟りに他ならぬ。
恐ろしかったのだ。
娘は母親の腹を自ら破って産まれた。
その時、茘枝の白膚が内側から破られ、臓物が散り、血に塗れた真紅の内蔵がてらてらと覗いた。
その中央──真紅に染まり内蔵に塗れた大穴から、頭から赤黒い血を被った赤ん坊が産まれた。
容姿は天人の面影が色濃く見え、けれども、その真珠の如き白膚の背中には骨の形に名残が僅かにあったのみで、真白き両翼は生えていない。
娘はクローディアと名付けられた。
その出自から災禍の賜物であると忌み嫌われるとともに、尊い天上の佳人の血の流れる身を疵付けることに、天上の祟りを畏れた人々は、誰一人として彼女を触らなかった。
それだからといって、ああも猟奇的な趣味を身に付けることはあるまいに、とセイは思うのだ。
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