転生先はロボットパイロットでした~玩具惑星ゲルタルダー

さはらさと

第1話 猫ケージの中で

 雪野晶虎は15歳で死んだ。餓死である。8歳から猫用ケージに閉じ込められて育った。やれることといえば、実父が作った携帯ゲーム『玩具惑星ゲルタルダー』だけであった。学校の教師や児童相談所の人が来るたび、彼はトランクに入れられてどこかに運ばれた。

 母の浮気がわかって父は自殺した。その後母は浮気相手と再婚した。義父と母は晶虎をいじめ抜いた。学校でもいじめ抜かれた。彼は引きこもったが、義父と母は彼が布団にいることを許さなかった。

「お前はうるさいから猫のケージに入っていろ」

 そういうわけで、彼は8歳からケージの中で育った。引っ越しにつぐ引っ越しで、晶虎が不登校児であることは忘れ去られた。義父と母は晶虎をいたぶることには天賦の才があった。食事は毎日1食。残飯でもありがたい限りだった。排泄物は垂れ流し。ケージは風呂に置かれ、水をかけられて『掃除』をされた。この時ついに携帯ゲーム機は壊れた。しかし、晶虎にはどうでもよかった。

 もはや彼は自分の脳内で完璧にゲルタルダーをプレイすることができたからだ。3歳からずっとそればかりやっていたから、すべてのアイテム、すべてのマップを暗記していた。敵がどう動くか、自分がどう動くかまですべて知っている。

 彼はずっと脳内でゲームのシミュレーターをして遊んだ。脳内だけは、彼の味方だった。

 ずっと正座をしているので、足は萎縮して歩けなくなった。腕もずっと縛られていて、動かせなくなった。それでも、晶虎は脳内でずっとゲームを続けていた。

 父の財産を使い果たし、母と義父は金に困るようになった。晶虎への虐待は更に激しくなった。タバコの火を押し付けられるなど日常茶飯事だった。

「女だったら売れるのになあ」

 そうまでいわれたこともある。

 8月の朝だった。ヒグラシが物悲しい声で鳴いて暁を告げていた。晶虎は脳内で『暁の嵐』というゲルタルダーのボーナスマップをやっていた。最後に食事をしたのがいつか思い出せない。彼は日常的にオムツを当てられ、ケージの中でかがむような姿勢を取らされていたが、目をあけることもできなかった。それなのに、白い光が見えた。星のようなエフェクトだ、彼はそう思った。


 --はじめまして。私はゲルダ。玩具惑星ゲルタルダーの管理者です。あなたを、迎えに来ました。




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