初めての温泉旅行・前日譚-Side:かな-
かなが大学の廊下を歩いていると、何故か天井に張り付いている
「東雲先生、何してるんですか?」
「ぅわっ……‼」
その瞬間、天井に張り付いていた東雲先生が落ちてきた――が、危なげなく綺麗に地面に着地する。
その様子を見ながら、やっぱり東雲先生は運動神経がいいんだなぁとかぼんやり考えていると、
「み、宮本さんっ⁉ な、何で……、気付いて……?」
東雲先生が少しおびえた様子で話しかけてきた。
「え~っと……、あっ! オーラ! オーラですっ! なんかこう、見つけてほしくないオーラが出てました!」
かなは昔からそういうことには敏感なほうだった。特に殺気ならば、絶対に気づく自信がある。
「……そういうときは、見つけないでほしいんだけど……」
「でも、何でまたそんなところに?」
何となく察しはついているが、あえて聞いてみる。
「……敬介から逃げてる……」
「あぁ、山川先生ですね。確かに東雲先生のこと探しているみたいでした!」
やはり山川先生から逃げているようだった。
東雲先生が敬介と呼ぶ山川先生は、東雲先生の幼馴染らしく、仲が良いと思うのだが、何故かいつもことあるごとに山川先生から逃げているような気がする。
確かに、いつもニコニコと優しい笑顔を浮かべている山川先生だが、東雲先生に対してだけはちょっと態度が違うような気がしなくもない。
「だっ、黙っといて! お願い……‼」
「……いいですよ。そのかわり……」
「へっ……?」
かなは必至で懇願してくる東雲先生を見ながら、とあることを思いついた。
◇◆◇◉◇◆◇
「わぁ、すごーい! やっぱり、素敵ですね! 先生の写真」
「そ、そう……かな?」
かなが思いついたこと、それは東雲先生が撮った写真を見せてもらうことだった。
東雲先生は大学で事務員として働いているかたわら、かなが所属している古典武術研究会、略して
だが、元々シャイな性格なのか、写真をたくさん撮っているはずなのになかなか写真を見せてもらえず、見たことがあるのは顧問である山川先生が
だから、東雲先生が他にどんな写真を撮っているのかずっと気になっていたのだ。
「はいっ! なんていうか、こう、自然な感じがいいですよね。カメラ目線じゃないっていうか……」
「……いや、まぁ、それは盗撮みたいなものだからなんだけど……」
東雲先生が気まずそうに目をそらす。
「でも、先生の撮る写真はなんだかあったかいです。まるで、あったかいところを切り取ったような感じで……」
そう、東雲先生は盗撮と言うけれど、これらの写真の中には全部、気取らないありのままのみんなが写っている気がして、それがとても自然で、優しくて温かい。
「……だから私、先生の写真、大好きです‼」
「っ……!……あ、ありがと……」
そう言うと、東雲先生は真っ赤な顔になって
(うーん、何だか山川先生が、東雲先生を構い倒したくなる気持ち、ちょっとわかったかも……?)
多分山川先生は、可愛さ余って憎さ百倍的なあれなんだろうなぁ、と考えることにした。
「だから、先生もたまには一緒に写りましょうね! みんなで撮ればきっと素敵な写真になりますよっ‼」
「……う、ん。そう、だね。そうかも」
その顔を見て思わずかなも笑顔になる。
やっぱり、東雲先生は笑顔のほうが可愛い。
「はいっ‼ ……あっ! 向こうから山川先生がっ!」
前方からもはや隠す気のない殺気が迫ってくる。
「う、うそ……! じゃ、じゃあ、俺はこれで……」
言いながら、先生は見せていたカメラを素早く回収し、何故かまた天井を
「はい! お気をつけて! ……また、写真見せて下さいね?」
かながそう言うと、東雲先生はまたあの可愛らしい笑顔で答えてくれた。
「……うん。そうだね。またね……」
(――いつか、東雲先生がみんなと気軽に話せる日が来るといいなぁ)
そんなことを考えながら、ものすごい形相をした山川先生の東雲先生を追いかけていく背中を見送る。
「あれ? そう言えば、何で追いかけられてたんだろう?」
その疑問に答えてくれる人はもちろん誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます