生配信17 耐久いくぞ!

「はい、お待たせ」


「お待たせ。帰ってきたよぉ!」


 休憩時間が終わり、配信を始める。


『マジでか⁉︎』

『本当に配信するんだ』

『マジでありがみ』

『楽しみ』


 この時間に配信することはないので、なんか新鮮。


 いつも昼配信終わりの時間帯は、寝てるか買い物に行ってるかの2択。ベッドやスーパーの中でもなく、モニターを前にしているには、人生で初めてじゃないだろうか。


 ………人生で初めては盛ったな、うん。多分、忘れているだけで、Twitterとか調べ物をした時とか座っていると思う。


 まあ、そんな事は置いといて、この耐久配信について説明をしていく。


「配信タイトルにも書いた通り、耐久配信をするつもりです」


 俺の配信タイトルには、『4人で吊らせずに脱出! DbD耐久配信』と書かれている。


「ってか、タイトルに書いてあることが全てです。メンバーは俺と絵茶さん「はい、元気です!」よく返事ができました。あと2人来る予定です。その4人で誰も吊られずに脱出できたら終了となり、配信を終えることができます」


 終えられなかったら、配信は続き、24時間経とうが48時間経とうが続ける。


「あとの2人はちょっと時間が掛かるそうなので1、2回は俺と絵茶さん「はい、元気です!」だけで回していきたいと思います」


「無視ですか」と不満そうな絵茶さんを無視して、1回目のマッチに潜り込む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1マッチ目


「絵茶さん! 助けて! トラバサミに引っかかった!」


 キラーの設置型トラップに引っかかり、助けを求めるも、発電機の修理に勤しみ絵茶さんは、


「自分で解除できるんで、解除してください」


 と、助けるよりも修理を優先する。


 この1マッチ目は俺と野良さんが吊られてしまい、逃げれたのは絵茶さんと野良さんの2人のみ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2マッチ目


「おら、ざあまみろ! 板のお味はいかがですか? 痛い、痛いですか? 私を追いかけるからそうなるんだよ、ボケ!」


 キラーと#追いかけっこ__チェイス__#をしている絵茶さん。どうやら、キラーに板をぶつけることができ、キラーをスタンさせる。


 キラーの敵視が絵茶さんに向いている間に、俺は発電機の修理。


「ブラック絵茶が出てきたな」


『口が悪いが、それがいい』

『キラーよ、変わってくれ!』

『俺も罵られたい』

『ずるいいいいいいいいいい!』


 うん、どうやら今回のリスナーさん達はドMらしい。俺はそんな気質はないので、キラーに同情をする。


「おら、窓枠飛び越えてこいよ! いつまで経っても、私を吊ることなんて出来ねぇぞ! 来いって、来いよ」


 この2マッチ目は、なんとか逃げ切ることができた。しかし、キラーのヘイトを貰いすぎた絵茶さんは、地下へと吊るされ、そして、


「キャンプか? はっ! 私1人に時間かけ過ぎなんだよ。無抵抗の人間にしか強く出れないのか? キラーならキラーらしく、全員を吊る努力しろ!」


 キャンプされる。逃げれたのは俺と野良さん2人。


 相当キラーも頭に来ていたんだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2回ほどマッチを回し、そろそろ声をかけた2人がやってくる時間。


『で、誰がくるの?』

『サキサキさんじゃね?』

『サキサキさんは今コラボ中だよ』

『聡太さんとかは?』

『聡太さんかもね』


 コメント欄では誰が来るのか予想を立てている。


「んん? 『サキサキさんと聡太さんが来るのでしょうか?』って? サキちゃんも聡太さんも来ないよ」


 おっと、絵茶さんのコメント欄にも俺と同様のコメントが来ているようだ。そのコメントに対して、律儀に答えている。


『マジか』

『えっ、じゃあ』

『滝の友達ではないな』

『滝、友達少ないもんな』

『滝の友達、3人しかいないもんな』


 は? 何こいつら?


「俺は友達が少ないと。サキサキさんと絵茶さんと聡太さんしか友達はいないと思ってんだね、君ら」


『うん』

『うん』

『分かんないよ、友達と思ってんの滝だけかも』

『可哀想』


「ふふふふふふ、友達少な」


 は? 何この人? 今、俺のこと笑った?


「え、絵茶さん? 今笑った? 今、俺のこと笑った上に、馬鹿にした?」


「して、ふふふふふ。してない、ふふふふふ」


「笑ってんね、笑ってんなぁ! えっ、喧嘩? 喧嘩します?」


『やめとけ』

『おい、やめとけって』

『おい、相手を考えろ』


 おいおいおいおい。俺は女だからって手加減しねぇぞ。男女平等に拳を叩き込む主人公を尊敬してんだから、やる時はやる、


『『『『やめとけって。相手はブラック絵茶だぞ』』』


 ぞ………あっ。


「んん? やるか、喧嘩? いいぞ、やってやるぞ! ほら、かかってこいよぉ‼︎」


 ………なんか思ってたのと違う。圧が、すごい。ってか、通話アプリ越しなのに、めっちゃ怖い。


「おん、聞こえてんのか? おい、声出せよ!」


『ほら、呼ばれてるぞ』

『やめとけ言ったのに』

『体育館裏に呼ばれてるぞ』

『お前、確か、これが終わったら結婚するんだよな』

『お前なら必ず帰ってこれる!』


 ………リスナーさん、勝手に死亡フラグ立ててない? 

俺まだ生きていたいんだけど。


「ビビってんのか!」


 はい、ビビってます。


「………ぁ」

 

 絵茶さんの圧に負け、声を出そうとすると、


「お疲れ様です」

「お待たせしました。お疲れ様です」


 救世主が来てくれた。


「お疲れ様です! 勇者ゼロスさん、聖女ワンスさん!」


 俺の救世主『ゼロス&ワンス』チャンネルの男性配信者ゼロスさんと女性配信者ワンスさんがいいタイミングで駆けつけてくれた。


「チッ」


『チッ』

『チッ』

『チッ』

『チッ』


「えっ? 今舌打ちした人いませんでしたか?」


 いるんですよ、ワンスさん。魔王とその配下が、ここに。


 いやぁ、本当にいいタイミングで通話アプリに入ってくれた! 


 この2人はマジ命の恩人。


 ヘヘヘへへ、どうした魔王絵茶よ。なんか言ってきたらどうだ。わははははははははは、


『絵茶チャンネル : お前、覚えてろよ』


 はは、は、は、心読まれたのかな。


 ええっと、スマホスマホ。


 俺はスマホを取り出して、絵茶さんのチャンネルに行く。絵茶さんのチャンネルで、コメントをする。


『Takiチャンネル : 誠に申し訳ございません』と。


 スマホは音を消して、絵茶さんの配信をつけたままにする。


 別に絵茶さんは本気で怒っているわけではない。あんなで怒る絵茶さんではない。


 さて、絵茶さんに謝ったわけだし、配信について話していこう。


「ゼロスさんとワンスさんが来てくれたので、先程話していた耐久配信の説明をもう1度していきます」


 耐久配信については事前に俺がゼロスさんに、絵茶さんがワンスさんに話している。が、確認を兼ねて、もう1度説明をしていく。


「今回の耐久配信は、俺、絵茶さん、ゼロスさんとワンスさんの4人で行っていきます。ゲームの方は#DbD__デトバイデイライト__#をプレイして、4人が1回も吊られずに脱出出来たのなら、配信は終了。誰か1人でも吊られたら、出来るまで配信は続けます」


 説明は以上。難易度は結構高いような気がする。


 誰も1度も吊られてはいけないということは、キラーからうまく逃げなければいけないということ。初心者の俺が1番危ない。ところでなんだが、


「お2人さんのDbD歴はどれくらいなんですか?」


 そういえば、聞くのを忘れていた。


「ワンちゃんはね、何度もやってるって言ってたよね?」


「そうだね。絵茶には、誘われた時言ったね」


 相変わらず絵茶さんのワンスさんに対する愛称が独特過ぎるし、ワンスさんは絵茶さんのことを呼び捨てにするんだ。


 まあ、ワンスさんは経験者でいいのかな? そうなると、上級者の絵茶さんに経験者のワンスさん。初心者の俺に、ゼロスさんは?


「ゼロスさんはどうなんですか?」


「………」


「ゼロスさん? ゼロスさん?」


「………」


 おや、これはまさか!


「ワンスさん、もしかしてゼロスさんって………」


 こんだけ聞いているのに、無言という事は、もしや!


「あああ、ゼロスはね、めっちゃくっちゃビビリなの」


 やっぱり!


「ち、違うから! ビビリじゃないから」


 ワンスさんがビビリと言っているので、ゼロスさんがビビリなのだろう。


 ということは、DbDみたいなゲームはあまりしない。


 そうなると、


「ゼロスさんはDbD初心者ですか?」


「………2回だけ遊びました」


「ゼロっさん、それを初心者って言うんですよ?」


 ゼロっさん、ねぇ。愛称のことは少し置いといて、絵茶さんの言う通り、初心者だね。ゼロスさんも。


 じゃあ、この耐久配信は初心者が2人いるっていうことで良いのかな? じゃあ、これは、


「絵茶さんとワンスさんにキラーは任せようかな」


「そうっすね。初心者の俺と滝さんは修理をメインにしていくって事で」


 初心者の俺達がキラーとチェイスなんて出来ないので、チェイスの方は経験者と上級者に任せる。


「まあ、1マッチ目は様子見でいいんじゃないですか? ワンちゃんもゼロっさんも、操作方法を思い出してもらって、2マッチ目から本番ってことで」


 絵茶さんのこの言葉に、みんな相槌を打ち、1マッチ目を始めることにする。


 ロビーで殆ど待つことなく、1マッチ目に入れた。


 マッチが開始したらまずは、皆を探す。


 開始地点から周囲を見回すと、4人ほぼ同じ場所にいた。


「うわー、久しぶりだな。最近は銃の撃ち合いしかしてこなかったからなぁ。武器さえあればキラーを何とか出来るんだけど」


「うわぁ、嫌だこの雰囲気。マスティフさえ有れば、キラーなんかぶっ殺してやるのに」


 ゼロスさんもワンスさんもエーペックス配信者。脳がエーペックスにやられているようで、キラーから逃げるよりも、倒すことしか考えていない。


「この世界線に武器は存在しません」


「武器は板だけなので、そこんとこよろしく」


 みんなが集まったところで、操作の確認。


「なるほどね、うん、うん、うん、うん。おーけい! 私は大丈夫そうだね。あとはチェイスを練習するのみ」


 経験者なだけあって、ワンスさんはもう操作に慣れたみたい。


「じゃあ、ワンちゃんさ、一緒にキラー探しに行く?」


「………うん、行こう。練習したい」


 そう言うと、2人は走ってキラーを探しに行く。


「ねぇ、滝さん。このゲームって」


「言うな、最後まで言わなくていい。ゼロスさんの言いたいことは分かっている」


 このゲームがどんなゲームかって話だろ。言わなくても分かってるよ。


『このゲームってキラーがサバイバーを探すんだよね?』

『サバイバーがキラーを探すの?』

『俺の知ってるDbDだけはないような気がする』

『上級者の楽しみは、キラーと追いかけっこらしいよ』


 ほら、俺たちだけじゃなくてリスナーさん達も疑問に思ってるもん。


「キラーさん出ておいで!」


「キラーさん、遊びましょ!」


 キラーさん、逃げてぇええええええ!


 絵茶さんとワンスさんがキラー探しをしている間、俺はゼロスさんに発電機の修理の仕方を説明する。


「発電機を修理していると、ゲージみたいなものが出てきてタイミングよく押すと、爆発しないで済みます」


「ああ、なんかやったなそれ」


 俺とゼロスさんは2人で発電機を修理する。修理していると、ボンッと音を立て、発電機が爆発する。


 俺がミスってないということは、


「すみません。失敗しました」


 ゼロスさんが犯人。


「まあ、しょうがないですよ。ゼロスさん」


 話していると丁度スキルチェックが、


 ボンッ!


「………ゼロスさんも俺も初心者ですし」


「そうっすね」


 そうだ、初心者なんだから仕方がないのだ。


『滝はミスっちゃいけないだろ』

『昨日もやってただろ』

『そろそろ慣れろ』

『慣れろよ』


 うっさいな、分かってるよ。


 今修理している発電機が、あと少しで終わりそうなので、ゼロスさんに後は任せる。俺は次の発電機を修理するため、探しに行く。


 ………


 ……


 …


「いやあ、まさか全員吊られるとは思っても見ませんでしたね」


 1マッチ目の結果は先程言った通り、全員吊られて終わった。


 最初に吊られたのは俺。次の発電機を探しに行ったとき、たまたまキラーと遭遇。逃げようとしたのだが、捕まり、そのままフックへ。


 次に捕まったのがゼロスさん。ゼロスさんは吊られている俺の目の前で屈伸運動をしているところをキラーに見られ、捕まり、フックへ。ざまぁみろ。


 あとは、ワンスさんと絵茶さんなのだが、この2人はわざと吊られた。理由は簡単、キラーとチェイスの練習が出来たから。


 こんな感じで、試しの1マッチ目は終わり、これからが耐久配信の本番。


「じゃあ、この2マッチ目からが耐久配信の本番となります。準備はいいですか?」


 俺は準備が整ったので、準備完了のボタンを押す。


「うん、オーケイ。アイテムも持ったし、私も準備完了」


 絵茶さんも本気でプレイするらしく、キャラにアイテムを持たせ、準備完了ボタンを押す。


「いやあ、マジで怖い。急に後ろから来んのやめてくれないかな?」


 俺を煽ったゼロスさんも準備完了ボタンを押す。


「絵茶、アイテムって懐中電灯で良かったんだっけ?」


 絵茶さんと同じアイテムを片手に、ワンスさんも準備完了ボタンを押す。


 全員が準備完了ボタンを押し、2マッチ目がすぐに開始される。


「じゃあ、みんなで頑張って、吊られずに脱出しましょう!」


「「「おおおおおお」」」


 そして耐久配信、本格的に始まる。

 


                    続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る