生配信13 決戦1時間前

 現在、時刻は正午ぴったり。


 昼配信まであと1時間。だが、その前に、


「自己紹介しろ」


 今、聡太さんの配信にお邪魔させてもらっている。


「どうも、13時から昼配信をします。滝です」


 今日は、聡太さんの配信の頭からお邪魔させてもらっている。


 なぜ、この時間に配信せず、人の配信にお邪魔しているのかというと、


「いや~、あと1時間でダメージ勝負すね」


 俺の配信始まりが合図でダメージ勝負が開始されるからである。


 これは、俺の配信時間が13時であり、ダメージ勝負も13時始まりだから、俺の配信の通知を合図にしようと、向こうのチームと話し合い、決めた決め事。


「じゃあ、まずはあれだな。訓練所行くか」


「そうですね」


 エーペックスには訓練所という場所があり、エイム合わせや武器、キャラの確認なんかができる場所がある。


 まずは、そこでエイム合わせをするつもりだ。


「それにしても、サキサキさんのチームの助っ人って誰なんだろうな? 滝は知ってんの?」


 訓練所に入り、武器を選んでいると聡太さんが聞いてくる。


「いや、俺も知らないです。結構気になりますよね」


 俺も気になり、何度か絵茶さんに助っ人は誰か聞いてみたもの、絵茶さんは断固として言わなかった。


「そうだな、気になるな」


 そうなんですよ。気になるんですね、だって、


「だって、あの2人なら余裕で勝てる」

「だって、あの2人なら余裕で勝てますからね」


 聡太さんは絵茶さんと今回が初絡みらしく、絵茶さんのFPSゲームの動画を全て見たらしい。


 全て見て、この感想。


 俺たちに挑んでくるあたり、凄い助っ人を呼んだに違いない。と、俺たちは読んでいる。


「助っ人に関しては、サキサキさんの配信か絵茶さんの配信が始まれば分かりますよ」


「そうなんだけどな」


 会話はここで終わり、お互いに使う武器を決め、エイム合わせで、訓練所にある的に銃弾を当てていく。


 ちなみに俺と聡太さんの武器構成はほぼ同じ。スナイパーとショットガン。


「滝はトリテ使うの?」


「はい、これが1番性に合うっていうか」


 トリプルテイクという武器は、引き金を引くと1度に3発同時に出てくる銃。


「ちなみに聡太さんは?」


「俺はチャージライフルかな。弾が垂れる心配ないし」


 今、聡太さんが撃っているチャージライフルは、簡単に言ってしまえば、レーザーガン。当たればダメージが入るスナイパーではなく、当て続けないとダメージが出ない銃だった気がする。


 お互いスナイパーでダメージを稼ぐ作戦だ。


 弾を使い切るまで撃ち続け、無くなったら拾いを繰り返し繰り返し行う。


 狙うのは的だけでなく、俺が遠くを走ってそれを聡太さんが撃ったり、その逆をしたりする。


「大分、いい感じなんじゃないか?」


「そうですね、偏差撃ちも慣れてきましたね」


 このエイム合わせに30分かけ、自分たちのエイム力をいい状態まで持っていく。


「この後」


 カジュアルマッチを回しませんか、俺はそう言おうとしたのだが、


 ピコン! ピコン!


 スマホに2件通知がくる。


 通知が来たのは俺だけでなく、通話アプリ越しの聡太さんのスマホからも聞こえてきた。


 通知の内容は、


『今、サキサキチャンネルがライブ配信を始めました』

『今、絵茶チャンネルがライブ配信を始めました』


 というもの。


「あっ、始まりましたね」


「そうだな」


「………」


「………」


「………助っ人気になりません?」


「………気になるな」


「「………」」


 俺は通知から、サキサキさんの配信に飛ぶ。


 もちろん、聡太さんも配信に飛んだらしく、同じ音声が通話アプリ内に流れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はい、皆さん! 今日一日、私の配信を見て楽しんでいってください。サキサキチャンネルのサキサキです。よろ・しく・ね」


 サキサキさんのいつもの挨拶。いつも通り、代わりのない挨拶に対して絵茶さんは、


「やり直し」


 この一言。


「え?」


 突然のやり直しコールに間の抜けた声が出る。


「え、じゃなくて。猫語尾付けて喋らないといけないから、付けた状態で自己紹介。さあ、さあ」


 確かに今日勝てば猫語尾なしという約束だった。それをちゃんと守ってくれる絵茶さん。


 それに対して、サキサキさんのリスナーさん達は、


『猫語尾』

『にゃあ、と鳴くんだ!』

『やり直し草』

『やり直しを要求する』


 欲に忠実な素敵な人たちだった。


 そんな中、どうしてもやりたくないサキサキさんは、絵茶さんに言う。


「そ、そしたらえっちゃんもやるんだよ! いいの? 恥ずかしくないの?」


「別に」


 即答する絵茶さん。


 そして、


「じゃあ先にやるから、やったら猫語尾でやるんだよ? いいね、サキちゃん」


「………え、待っ」


「は~い、どうも絵茶ですにゃあ」


 サキサキさんの言葉を遮り、絵茶さんは短い挨拶を終える。


「そ、それで終わり! ずるいよ、ずるっ子だよ!」


「いつも通り」


 確かに絵茶さんの始まりの挨拶は、サキサキさんの挨拶よりかなり短い。


 一瞬だもんな。


 サキサキさんは諦めずに駄々をこねるが、絵茶さんの「私はやったよ」の一言で、黙りだし、自己紹介を始める。


「………はい、みにゃさん。今日一日、私の配信を見て楽しんでいってくださいにゃ。サキサキチャンネルのサキサキですにゃあ。よろ・しく・にゃあ」


 サキサキさんの自己紹介が終わり、コメントが荒れる。


『にゃあ!』

『可愛い』

『猫語尾ずっと付けて、毎日配信してほしい』

『かわい』


「は? 毎日猫語尾でやってほしい? 絶対嫌だ!」


「んんん? 嫌だ?」


「………嫌にゃ」


 いやぁ、絵茶さんがいたら、素直に猫語尾やるんだな。俺らの時とは大違いだ。


 さて、本題はここから。2人の自己紹介が終わったということは、次は助っ人の自己紹介だ。


「じゃあ、今日一緒にダメージ勝負を手伝ってくれる助っ人さんを呼ぶにゃ」


「………よぶにゃ」


 絵茶さんが助っ人の人を呼び出す。


「どうも、はじめまして! ゼロス&ワンスのワンスです!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふぁあああああああああああああああく」


 思わず口から出てしまった言葉。

 

 突然の叫びに聡太さんが、「うるさい!」と文句を言ってくる。


 文句言ってくる相手違うでしょ! 絵茶さんにそれを言ってください!


「聡太さん、絵茶さんに文句言ってきてください!」


「はぁ? なんで? なに、あのワンスっていう人、そんなに強いの?」


 はぁ、何この人? ワンスさんを知らないとか。


「あの人1人で4000ダメージ出しますよ」


「よしゃ、文句言ってくるわ!」


 この前、配信見たとき、普通に3000後半叩き出してたからね、あの人。


 ワンスさん連れてくるのはずるいよ、ずるっ子だよ。文句ものだよ、早く文句言ってきて、聡太さん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んんん、聡太にゃんがコメントしにきてるにゃ。にゃににゃに、『ワンスさんはずるいぞ! この卑怯者』

………何を言ってるか分からにゃいにゃあ~。コネも強さのうちにゃあ。雑魚は雑魚らしく震えてな。にゃはははははははははははは!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カチン。


 言ってくれたな、絵茶さんの野郎。


「やってやろうじゃねぇか!」


「恥かいてもしらねぇからな、あの猫娘!」


 絵茶さんの言葉は、俺らのヤル気を爆発的に上げてくれた。


 ぜってぇ、恥かかせてやる。


 あと5分で、ダメージ勝負が始まる。

 

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