エピソード・ナイト〈ローグ〉:アスリア騎士王伝説
とざきとおる
プロローグ:再会と契約
第1話 プロローグ:少年の背負う過去①
夢を見る。
それは、俺にまだ両親が居た頃の夢だ。
当時はまだ10歳だった。
「かつてアルアトールの世界は、たくさんの強い野生生物たちが覇を競い合う世界でした。その中で、竜のように炎を吐き頑丈な鱗をもつことも、魔獣のように奇跡の術を使い凄まじい肉体をもつこともなかった人間は、生存競争に負け絶滅をする寸前でした」
俺に隣で昔話の英雄譚を聞かせてくれる彼女は、なんとこの国のお姫様だ。
「多くの人間は、自分達が世界の弱者でいることを受け入れて、ただひたすら隠れて、逃げて生きていくことを認めていました」
そして俺が今話を聞いているのは、国の王族がいる居城の敷地にある王立図書館の中だ。大陸国家アルエルドの中で最も書蔵数が多く、巨大な本棚がいくつも並んで長い木製のテーブルを有してなお、余裕のある空間が広がる広大な場所となっている。
「しかし、たった1人、その状況を嘆き、人間が安心して暮らせる世界を作りたいと願う若者が居ました。人々は後に彼を英雄と呼ぶことになります。この物語はその英雄のお話です」
俺がこの国のお姫様と仲がいいのは、俺の親が王に仕える騎士であるからだった。
母はこの城で文官として働いており、父は騎士として戦場に出たり王の警護をしたりでかなり忙しい日々を送っていることから、1人っ子の俺が家で寂しく留守番をすることが多かったのを不憫に思った当時の王が、城の一室を俺の家族に差し出してくれたのだ。
そして俺もその部屋で済むことになったのだが、その際、俺には親父から1つの仕事を任された。それが、当時の王と正妻との間にいた娘2人のうち、末っ子の自由時間での遊び相手になってほしいというものだった。
城と王立図書館の中でしか行動を許されなかったので、俺は、その末っ子、アスリアとよく行動を共にしていたのだ。
今は、彼女がこの国の建国の伝説を読み聞かせてくれるのに付き合っているところだ。
「彼は人間が野生の魔獣に負けないようにするために、危険を承知で勇敢な12勇士と旅をしたました」
俺は頷いて、彼女の読み聞かせに耳を傾けていることをしっかり示しながら、アスリアのしてくれるを頭に入れている。
「そして、英雄と彼の仲間の勇士たちは、旅の果てに1つの場所にたどり着きました。それは世界樹と呼ばれる、この世界と別の世界を繋ぐ大きな樹だったのです」
「大きな樹。アンスロッドにあるって言われている?」
「そう。知っているのね、ローグ」
「あ、ごめん、話の途中で」
「いいの。何か気になることがあったら聞いていいからね」
微笑んで俺の失態を許してくれるアスリア。
これは王宮の中で評判がいいのも納得できる。綺麗な赤髪から始まって容姿端麗となることが期待できる姿、そして勉強も運動も贔屓目なしにとても優秀だと教育係に言わせるほどの才能。その上で、性格も問題ないとなれば将来が楽しみな美女であることに違いない。
「話の続きをするね。そこで英雄は異世界から来たとされる妖精とお話をしたそうです。妖精たちは彼らに武器と知恵を授けました。その武具は力を宿し、その武器を持った人間は神が起こすような奇跡、現代で法理術と名付けられた奇跡を起こすことができるようになったそうです。そして、知恵はそのような武器をこの世界にあるものを使って作る方法でした」
この辺りの話は少し聞いたことがあった。
これでも騎士の息子として、将来を家族に期待されている身だ。本格的な勉強は15歳になってからでないと国の法律で許されていないが、騎士についての話は父や母から、いろいろと聞かされている。
この伝説のこの辺りの話は、現代の騎士が使う武器の起源になっているそうだ。
「英雄と12勇士は託された伝説の武器と、その神秘の知恵を持ち帰り人間たちに伝えました。そしてそこから人間が強靭な生物たちに抗う戦いが始まったのです」
そして、アリシアには不機嫌になってほしくないので内緒にしていたが、この伝説は俺も知っている話だ。
なぜなら――。
「英雄は12勇士とともに最前線で、魔獣や竜と戦い、死闘の果てに勝利を飾り続け人々の希望となりました。希望をもらった人々はそれを見て、妖精たちから授かった知恵を使い、各地から素材を命がけ回収して、武器を作り、その英雄たちに続きました。そして、英雄たちと共に戦い、野生生物たちから徐々に、人間の生活圏を勝ち取っていったそうです。そう、そこで戦った者たちが」
騎士の原点。
現代に至ってなお、この世界にいる脅威、野生生物達と戦い人の世を守る戦う者、騎士と呼ばれる者たちの始まり。
「そうして野生生物を撃退した彼らは、英雄と12勇士とともに1つの国を作りました。その国はアルエルドと名付けられ、英雄はその初代王となり、人々を導いたといいます」
そして。
「その王様の子孫は他ならぬ君、アスリアだろう?」
「そう。そうなの。でも、もう少し待ってほしかったわ。もう少し続けて、一番盛り上がったところでその話をしようと思ったのに」
「そうだったの? それはすまない」
「まあ、いいわ。そこらへんはもっと勉強して、貴方が騎士になったころにはできるようになってくださいな」
「はい、善処します」
「ふふふ、お父様が最も信頼している騎士はあなたの御父上なのだから、私を守ってくれるのはきっとあなたよ。精進してね。私、楽しみに待ってるんだから」
「うん。頑張るよ」
俺とアスリアは、こんな形で将来を誓い合った仲だ。
俺にとってアスリアはお姫様というよりは、初めての友達だった。同年代で一緒に居るだけで楽しかった人は初めてだった。
目を覚ましても、夢にあった伝説の続きを呟く。
「彼らの活躍を起点に人間の余波始まった。現代はアルエルド歴507年……」
実はこれは俺が勝手につけ足した本来の伝説にはない話なのだが。
「アルエルド王国はすでに滅び、大陸には数多くの国が新たにつくられた。しかし騎士は、人類の救世主として崇高な存在と扱われ、今を生きる子供たちの憧れの存在として崇められている。」
あれから7年。
本当に世の中は変わってしまった。
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