異世界グルメハンターズ~王都ラヴィニア編~

あきかん

自由の国の風土料理、アンドロニカス

智慧のある奴から見れば、俺は一片の智慧も無いという事になるだらうな。これだけの金貨を木の根元に埋めてしまつて、二度とそれを懐にしないというのだから。

~罪人エアロンの告白~


 王都ラヴィニアは自由の国と呼ばれる事がある。この国には多種多様な種族が暮らしているためだ。人間、ゴブリン、オーガ、魔女、吸血鬼、等々。意志疎通が出来ることだけが入国条件であるかのように。


 ヴァンダルが王都ラヴィニアを拠点として冒険者をしているのには訳がある。2メートルを越える体躯に褐色の肌。逆立つ短髪をよく見れば短い角が見える。彼はオーガと呼ばれる種族の者であった。しかし、他のオーガに比べれば小柄で細身である。初めて彼を見たものは大柄な人間にしか思えないだろう。故に、彼はオーガの村から逃げ出しこの国にやって来たのだ。


 ヴァンダルとタモーラはアルテミス祭りに繰り出していた。様々な料理が出ているが、ヴァンダルのお気に入りはアンドロニカスだ。

 アンドロニカスの作り方はいたってシンプル。小麦粉に香草を混ぜ、それを肉にまぶして焼くだけだ。これを王都ラヴィニアではアンドロニカスと呼ぶ。様々な肉が使用されるが、一般的にアンドロニカスと呼ばれる物は人肉が用いられる。


「タモーラも食うか、アンドロニカス。」

「私はカイロスが食べたいから、早く飲み屋に行こうよ。」

 ヴァンダルとタモーラはアンドロニカスの出店によっていた。香草と人肉が焼ける匂いが食欲をそそる。海竜のアンドロニカスもあったが、それは飲み屋で頼めば良いか。

「やっぱり旨いな。酒もあれば最高なんだが。」

 ヴァンダルは受け取ったアンドロニカスを食べ舌鼓を打った。

「オーガの本能?せっかくだから海竜のやつを食べればいいのに。」

 タモーラは軽口をたたく。しかし、彼女は知っている。オーガにとっての食事とは本来神聖なものであることを。店で食べ物を買うヴァンダルの態度こそが異常なのだ。


 ヴァンダルはアンドロニカスを頬張りながら夢想する。人間になりたい。この食材を調理出来るのは人間だけだ。少なくともオーガには難しい。

 オーガの力で人に触れると皮は裂け肉をこ削ぎ落としてしまう。血抜きをし皮を剥ぐことができないのだ。これでは繊細な料理はできない。

 だから想像するしかないのだ。鮮度を確かめる為に柔肌にふれる。押し返してくる肉の弾力。内臓を取り分ける為に入れる包丁。男性ならば最初に性器を切り落とし肛門から鳩尾まで刃を入れるという。内臓を傷つけずに行うには熟練の技量がいる。肉を切り分ける時には骨を折ってはならない。骨の欠片が肉につくし、何より骨髄が肉の味を変えてしまう。

 ヴァンダルはアンドロニカスを頬張りながら夢想する。彼は食べる事が何よりも好きだ。故に、料理人になりたかった。しかし、それは叶わぬ夢。オーガの彼に調理できる食材は限られている。何より好物の人間を調理できない。


「ヴァンダル、置いていくよ。」

 タモーラは飲み屋に向かっていく。ヴァンダルは慌てて後を追った。

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