天使の歌声
「おい、榊! 昨日はどうだったんだよ」村上が声をかけてきた。
「どうって、なにが?」俺が発した声を聞いて村上は驚いたような顔を見せた。
「なんだ、その声は? それにその顔・・・・・・」俺の声はガラガラ声になっていた、そして目の下には黒いクマが出来ていた。その顔を見て村上が引いていた。
「お前・・・・・まさか、夜通し直美様と、絶叫しながら・・・・・・!」村上の頭の中にどんな妄想が繰り広げられているのかは、俺にはわからない。
「昨日、直美さんとカラオケに行ったのだけど、結局一人で歌わされて、声が枯れたんだ」
あの後結局、一人で4時間歌わされた。 気合が入っていたのも災いして、見事に声がおかしくなった。 その間、直美さんは全く歌うことは無かった。
最後に天使の歌声を聞きたいと必死にお願いして一曲歌ってもらった。懐かしいアイドルソング・・・・・・。ただし、俺が期待した天使の声を聞くことは出来なかった。
直美さんは・・・・・・。
猛烈な音痴であった。 酸欠に近い体に、猛烈な超音波を浴びて、俺は瀕死の重傷を負った。 心に・・・・・・。何とか苦行に耐えたご褒美として、『直美さん』と呼ばせていただける許可を頂けた。 昨日一番の収穫であった。
一曲歌い終えた直美さんは、満足げに微笑んだ。 あの微笑を俺は忘れる事はないだろう。
「お前、皆の憧れの直美様とカラオケって・・・・・・、何か進展はあったのか?」
「進展って、よく解らないけど採血されたな・・・・・・」俺は思い出すように村上にいった。
「サイのケツか? ・・・・・・その先は何かあったんだろ!」訳の解らない事を、村上が口走った。
「何も無い、ただ歌を歌っただけだ」俺は昨日の出来事を正直に言った。
「直美様の歌を聞いたのか? お前羨ましいな!」村上は羨望の眼差しで俺を見た。 俺は昨日の惨劇を思い出し、少しだけ気分が悪くなった。
「岬樹さん!」背後から声をかけられた。 振り返るとそこには直美さんが立っていた。今日も、美しい天使の笑顔であった。
「あっ、直美さん、おはようございます・・・・・・」俺は丁寧に朝の挨拶をした。
「今日も、放課後お付き合いいただけますか?」直美さんが小悪魔の顔を見せる。
「えっ、は、はい」俺は嬉しさ半分、疲労感半分で返事をした。まさか、またカラオケ地獄が待っているのか・・・・・・。
「ぼ、俺もご一緒してもいいですか?」村上が精一杯の凛々しい顔をして直美さんに聞いた。
「いいえ、駄目です。 岬樹さん、昨日と同じ時間に正門で待っています!」直美さんは冷たく村上の申し出を断った。 可愛いく手を振ると笑顔で覇王女学院の方向に走っていった。 俺も軽く手を振り微笑みを返した。
俺の横では、白い灰と化した村上が立ち尽くしていた。
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