適合者



「流石やな! ナオミちゃん。 ウチらは、待機していたけど今回も出番なしやな。でも、イツミと一緒にいた男の子は確か・・・・・・」野次馬の中で緑色の髪を後ろで束ねたムツミが呟いた。

「どうかしたの? ・・・・・・- まぁナオミさんは、もう一人で任せても大丈夫ね。ちょっとそそっかしい所があるけれど」青いショートカットの髪のサツキが返答する。二人は、甲乙付けがたいほど美しさで、まるでスーパーモデルが並んでいるようであった。


「任務完了よ、引き上げてムツミ、サツキ!」少女達の耳に女の声が響く。 少女達はナオミのピアスとよく似たものを装着していた。「あいよ!」緑の少女が返答する。

「キャー!外国のモデルさんかしら、キレイ!」野次馬の中にいたOL風の女性達が二人を見つけて少し騒ぎだす。

 二人は、白とそれぞれの髪の色と同じ色を基調にしたジャケット、ミニスカートを着用し茶色いロングブーツを履いている。ムツミの肩はウエスタン風のヒラヒラが飾り付けられている。口の中には飴を含転がしている。

「ウチらは外国人と違うで!でも姉ちゃん達、見る目があるなぁ!」緑の少女はウインクを一回した。

「行くわよ! ムツミ」サツキは既にその場を離れていた。

「ちょっと待ってえや、サツキ!」ムツミは、サツキを追いかけていった。

二人は艶やかな歩きを見せながらその場から姿を消した。


 イツミに手を引かれて建物の間にある路地に飛び込んだ。先ほど、ナオミと別れた後、イツミは奇妙な行動をした。

 逃げていく人質の前に立ちはだかり自分の目を見るように指示した。 人質達は一瞬躊躇したが、言われるままに彼女を見た。 次の瞬間、イツミの体から赤いオーラのようなものが発生して、人質達が魂の抜けたような顔をしたが、すぐに元に戻った。

「皆、何しているの! 早く逃げて!」唐突にイツミが叫ぶ。 その声に我を取り戻した人質達は飛び出していった。

 

 イツミはフーっとため息をついてから、岬樹の顔を見た。 一瞬の沈黙のあと、驚きの声を発した。

「あれ、お兄ちゃん・・・・・・逃げなくて、大丈夫なの?」

「イツミちゃんを置いて、俺だけ行けないよ・・・・・・!」そう岬樹が言うと同時に、イツミは彼の手を握りしめて、人質が逃げていった方向に走り出した。

「い、イツミちゃん・・・・・・!」突然の行動に、岬樹は驚いた。 イツミは答えずに岬樹を誘導して走り続けた。銀行の周りを囲んでいる、警察官達には気づかれなかった、というか走っていく岬樹達の存在を無視しているような様子であった。

「お兄ちゃんは、イツミの目を見ても、なんとも無いの?」イツミは岬樹の目をジッと見つめた。 赤みを帯びた綺麗な瞳を見て、岬樹は少しドキッとした。

「一度に、大勢の人に力を使ったから、お兄ちゃんには効かなかったのかな・・・・・・・イツミ、ショック!」イツミはガクッと肩を落とした。

「どうしたの?・・・・・・イツミちゃん」岬樹は独り言を続けるイツミに声をかけた。

「・・・・・・お兄ちゃん、駄目だよ、危ないからああいう時はジッとしていないと・・・・・・」イツミは岬樹の手を離したかと思うと唐突に言い放った。

「えっ?」女の子が何を言っているのか岬樹は理解できなかった。

「でも・・・・・・ありがとうね。イツミ、嬉しかった・・・・・・。岬樹お兄ちゃん、その制服は、西高の生徒だよね。 学年は?」女の子は質問してきた。

「・・・・・・一年生だけど・・・・・・」尋問でもされているような感じであった。

「そうなんだ・・・・・・」イツミはなんだか名残惜しそうな表情を見せた。

「・・・・・・どうかしたの?」岬樹は、イツミの表情の意味が気になって聞いた。

 イツミは軽く首を左右に振ってから、先ほど、犯人の男達に殴られた岬樹の肩の辺りに手を当て、念のようなものを込めた。なぜか、イツミの手が触れている辺りが、暖かくなったような気がした。それは、かなり心地の良い感覚であった。

「・・・・・お兄ちゃん、私の好みなんだけどなぁ・・・・・・、残念だけど仕方が無いわ・・・・・・、・岬樹お兄ちゃん、もう一度、イツミの目をジッと見て・・・・・・・」岬樹は、イツミに言われるがまま、彼女の目をじっと見た。

 二人の顔の距離がグッと近づく、年齢は中学生位だろうか、まだ幼さが残るあどけない可愛い表情を見て岬樹の頬は赤くなっている。イツミの目が赤く輝く。吸い込まれるように岬樹は、その目を見つめた。赤い輝きが消えて、瞳の色が元に戻る。

「・・・・・・と、どうお兄ちゃん」イツミは可愛く微笑む。

「どうって、言われても、イツミちゃんの目が赤く光って、綺麗だなって・・・・・・」岬樹は思ったままの感想を述べた。

「イツミちゃんって・・・・・・、お兄ちゃん、私の名前覚えているの?」イツミは驚愕の表情を見せた。

「覚えているのって、さっき名前を聞いたとこだし・・・・・・」岬樹はイツミが何を言っているのか理解出来なかった。

「さっきの、銀行の出来事も全部覚えているの?」イツミは確かめるように問いかけてきた。

「ああ、銀行に預金を下ろしにいったら、強盗が現れて綺麗な女の子が撃退した」見たままを簡単に言った。女の子といった瞬間、ナオミの事を思い出し、少し顔がにやけた。

「驚いたわ。 イツミの力が効かないなんて・・・・・・、お兄ちゃんもしかして?」言いながらイツミは、もう一度岬樹の目を凝視した。イツミの頭の中で、先ほどの強盗と岬樹のやり取りを思い出した。岬樹の体から電気が発せられて、男がたじろいだ事を・・・・・・。

「なっ、なに・・・・・・」イツミの顔が密着しそうな位の距離になり、岬樹は恥ずかしそうに横を向いた。

「やはり、適合者のようね・・・・・・・」イツミは顎に手を添えると、視線を下に落とした。

「適合者って、一体何の事?」岬樹は、何を言われているのか理解出来ないでいた。イツミは、不意に目を上げると微笑んだ。

「いいえ、こちらの事。今日は、これで失礼します。 また、改めて会おうね、岬樹お兄ちゃん」言うとイツミはしゃがんだかと思うと、ジャンプして建物の壁を登っていった。


「なっ、なんだ! あの子は、・・・・・・忍者か・・・・・・・」岬樹は、呆気に取られたまま、消えていくイツミの姿を目で追いかけた。


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