覇王女子高等学校
「はぁ~」いきなりのため息で申し訳ない。
ただ、俺がため息をついているのもそれはそれで理由があるのだ。
この世に生を受けてから、短い人生なりに様々な経験をしてきた。
女の子に恋をしたり・・・・・・ ただし、一方的な片思い専門ではあるが・・・・・・・。その子に告白して振られたり・・・・・・。ストーカー扱いされたり・・・・・・。
覇王女学院の二年生、総持寺 直美様。高嶺の花とはよく言ったものだ、彼女の姿を見ると優雅すぎて言葉が出てこない。
毎度、ため息しか出ないのだ。彼女の黒く長い髪に上品なカチューシャを飾り、膝下までのスカートが風にひるがえる。 彼女は清楚で美しく、全身からお嬢様オーラを発散しまくっている。
毎朝、同じ通学路を通い、彼女の姿を見ることが俺の朝の至福の時間である。誤解してもらっては困るので説明させてもらうが、俺は決して女子高生ではない。 ・・・・・・だからと言って変質者でもない。 れっきとした健全な男子高校生だ。
俺の通う県立西高等学校は、何の変哲も無い何処にでもある普通の高校である。
我が校に通う学友達は将来、何をやろうかとか目標を特に設定していない生徒が多い。(あくまで、俺の私見ではあるが・・・・・・)
男女共学の高校ではあり、女生徒も全校生徒の過半数を占めるが、俺の知る限り、総持寺 直美様ほどの逸材は存在しない。
ちなみに覇王女学院は西高の隣にある私立女子のお嬢様学校。
覇王女学院は、西高とは格段にレベルが違い将来有望なお嬢様達が、全国からこの学校に通う為に、全ての生徒達が全寮生活を送っている。制服も我が校のありふれた、セーラ服(今時珍しい・・・・・・)では無く、有名デザイナーがデザインした高級な品物だそうだ。
着用している衣類で判断するのは申し訳ないが、明らかに気品が違う。
「オッス、榊!」唐突に俺の名前を呼ぶ声がする。
「お前は孫悟空か……」振り返ると悪友の村上が後ろを歩いている。正直俺は、気持ちのゲージが急激に落ちていく感覚に襲われていた。
「なんだ、お前はまた、直美様に見とれていたのか?」村上が俺の肩に手を置きながら、いやらしい口調で聞いてきた。
「別に見とれてなんてねえよ! あんな・・・・・・女・・・・・・!」神様申し訳ございません。 私こと、榊 岬樹は心にも無いことを言いました。 お許しください。
俺の名前は、榊 岬樹、自分で言うのもなんだが何処にでもいるありふれた高校一年生、十六歳だ。
見た目は、不細工では無いと思うが、取り立て格好が良いわけでも無い。 彼女いない暦は・・・・・・・ お察しの通り十六年だ。
総持寺 直美様に目をやると、数人のご学友様とご一緒に和気あいあいと通学路を歩いていかれた。 俺の学校、西高の女子に目を移す。
彼女達も同じように連れとつるんで歩いている。 スカートを精一杯捲り上げて今にも下着が見えそうな勢いである。
もちろん、興味が無い訳では無いが、セーラ服を凝視する趣味はまだ俺には無い。 あぁ、直美様のような優雅さは欠片も感じられない。
「何、・・・・・・榊がこっち見ているよ。キモイ!」見た事があるが名前を思い出せないクラスメイトの女子が聞こえるような声で騒いでいる。
彼女のその目は、虫でも見るような感じであった。自慢では無いが、俺はクラスの女子の名前をほとんど覚えていない。
「殺す!」一瞬、俺の中で殺意が芽生えた。
「堪えろ、榊。 確かにお前の視線はエロイ!」村上は、それこそエロい顔で女子を物色しながら呟いた。 己に言われたくは無いわ! 俺は、こいつが授業中にスマフォを駆使して盗撮の限りを尽くしている事を知っている。
「ウフフ」直美様の上品な笑い声が聞こえた。 声の方向を見ると、直美様がこちらを見て笑っているような気がした。
まさか、この失態を見られたか? 直美様は、俺に軽く会釈をしたかと思うと、ご学友様達と歩いて行かれた。
その姿は、まるで映画の中にワンシーンでも見ているかのようであった。
「まさに、女神降臨だな」村上が言ったが、その言葉と顔が気持ち悪いので無視することにした。ふと道端に目をやると、覇王女学院の制服を着た女生徒がうずくまっていた。
朝から気分でも悪いのだろうか。少し躊躇したが、見過ごすのも後味が悪いので声をかけることにした。
「大丈夫ですか? 気分でも悪いの・・・・・・」俺は、彼女の目線に高さを合すようにしゃがんだ。
「ちよっと! こっちに近づかんといて!」関西弁で彼女は怒鳴った。
「ひっ・・・・・・、すいません!」彼女の迫力に驚き、俺は後ずさりした。怖すぎて少しちびりそうになった。
「ああ、御免な・・・・・・、コンタクトレンズ落としてもうてん・・・・・・、踏んだらわれてしまうやろ」彼女はキョロキョロと地面を見回していた。
その顔はかなり慌てている感じであった。
「ああ、そういうことなら・・・・・・」自分が怒られたのではない事に安心して、彼女と一緒にコンタクトレンズを探すことにして、俺はその場にしゃがみ込んだ。
「無くしたのは、ハードレンズですか?」ソフトレンズであれば風で吹き飛んでいるこの場に無い可能性もあった、
「うん、ウチは、目のコリコリ感が無いとアカンねん。 ソフトレンズは装着感が無いから不安で・・・・・・。 でも、無くすと高いから・・・・・・」高いとは、たぶん値段のことであろう。
お陰様で、俺は両眼とも2・0と良好な為、コンタクトレンズの装着感の感想は解らない。
地面を指差しながら、俺はゆっくりとレンズを探す。「あっ!」光るものを見つけた。「あった! ありましたよ!」俺は地面に落ちていたレンズを丁寧に拾い上げて、彼女に手渡した。
「有難う・・・・・・、助かったわ。 あんただけやったわ、声かけてくれたの・・・・・・あんた西高の生徒さん?」彼女の頬が少し赤くなっている気がした。 長時間しゃがんでいて血が頭に集中しているのであろう。
真正面で見ると、彼女はもの凄く綺麗なお姉さんの顔であった。
こんなに綺麗なお姉さんと解っていたら、俺も萎縮して声を掛けることは出来なかったかもしれない。
コンタクトレンズを無くして、目が見えないせいか、彼女の顔の距離が近すぎて恥ずかしくなり、俺は立ち上がり距離を取った。しかし、今度はお姉さんが、しゃがんだままの為、大きな胸の谷間が見えた。
白く綺麗な谷間の奥まで見えて、目が釘付けになった。
俺は赤くなった顔を感づかれないように、目を遠くに逸らした。
「はい・・・・・・。 そうです、あなたは覇王女学院ですよね」俺が言うのを合図にするように、お姉さんは立ち上がった。
改めて、立ち上がった彼女を見ると背は俺と同じ位で、モデルのようなスタイルであった。肌が白く、目鼻口が整っており美しい。薄く塗ったリップクリームが色っぽい。
「そうや。 ウチは睦美、塚口 睦美。 あんたの名前は?」睦美さんは、自分の自己紹介をした後、俺の名前を聞いてきた。
「あ、俺は榊 岬樹。 西高の一年生です」
「なんや、年下か・・・・・・、まあ、二つ位やったら範囲内かな」睦美さんは、軽く頬杖を突いて空を見上げていた。
「えっ?」俺は睦美さんの言葉を理解できないでいた。
「これあげるわ、岬樹ちゃん!」そういうと睦美さんは俺の手に、飴玉を手渡した。
「あっ、ありがとうございます」もらった飴玉を握りしめた。
「またな・・・・・・岬樹ちゃん!」言いながら、睦美さんは手を振りながら、覇王女学院の方に走っていった。睦美さんのスカートが風に揺れていた。 俺の目は、彼女の姿に釘付けになった。うん、今日は良い日だ・・・・・・。
「お前、直美様一途じゃなかったのか・・・・・・」背後から、村上の声がした。
「えっ、何の事・・・・・・?」俺は村上の声で、現実に引き戻された。見ていたのなら、お前も手伝えよと思ったが、言うのを止めた。
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