面倒。

江戸川ばた散歩

第1話

「はあ……」


 惑星ナントカにおけるドーム外での作業を終えて、私はため息をついた。第一エリアではまず服を脱がなくてはならない。


「どうしたの?」


 同僚は既に上着を取り、ぷるんとした胸を弾ませている。


「ああ…… 外に出るたびに全身洗浄しなくちゃならないということがね……」

「確かに面倒だよねえ」


 そう言いつつも、胸を揺らし、二の腕のふわふわとした白い肉をも露わにし、彼女は次々に服を取り去っていく。

 私は既に彼女の様なみずみずしい肌も持たない。外のほんの少し高い重力にすぐ疲れて、肩が重い腰が痛いとすぐ身体が悲鳴を言う。


「お先に行きまーす」


 彼女はたたた、と裸足で駆け出していく。その向こうにあるのは「全身洗浄機」だ。

 大きさは一人向けシャワールームといったところ。

 外の作業が一時間ならば、洗浄も同程度だ。この洗浄機が開発されて以来、いちいち専用のスーツを用意して作業させるより、出しておいて後で洗いついでに検査をした方が良いということになった。

 入室が認められるとIDを確認され、洗浄が始まる。

 当初はぬるい湯だ。

 そして次にスライム状の液体。

 満たされていく液体は次第に私の身体を持ち上げていく。

 当初はこれが口や鼻や耳に入っていくことになかなか慣れなかった。音が消え、肺が呼吸のできる液体に満たされる。

 無論上の穴だけではない。下の三つのそれにも液体は入り込む。つるりとした温かなものが前から後ろから入っていき、やがて中で膨らむ感覚は―――

 私はその時、彼女のぷるんとした胸を思い返していた。ああこの入ってくる液体は彼女の胸くらい弾むのだろうか。

 そう思うと中のものも想像した通りにぷるんと弾む。耳から入ったそれが、情報を認知するのだろう。

 むずがゆい感覚と、細かな形状の場所を逐一洗浄していく動きに、私の内側は確実に濡れていく。声が出るならば、どれだけ大きなものだろう。

 液体はそれら全てを吸い込んで行く。


『お疲れ様でした』


 一通り洗浄が終わると、機械がいつもの通りに検査結果も報告してくる。


「すっきりしたわありがとう」

『ところで理解できない発言があったのですが』


 機械は私に問いかける。何、と返す。


『先ほどの発言において、面倒、という単語が見受けられましたが、どの部分なのでしょう』


 内部機械の構成要素であるスライム――― 液体型記憶素子集合体は私の体調はどんどん良くなっていると判断して報告してくる。

 にとっては、外の様々なダストだけでなく、私の老廃物全て除去し、あちこちマッサージまでしてくれるそれに関して、「面倒」というマイナスワードが出てくるのが理解できないのだろう。


「ああ、あなた達に問題は無いわ」

『では何が』

「調子よすぎて止まってた生理がまた始まってしまっただけよ」


 同僚に欲情したせいでホルモンが活性化し、その上こんな気持ちよさを毎度毎度味わわせてもらったらアナタ。


「また明日もよろしくね」


 そのうち卵も提出できるかしら。


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