告白

椎名由騎

ある男子の体験談

 これは俺が高校時代に起きたことである。俺はある日の放課後、生徒用の玄関から靴を取り出そうと靴箱の扉を開けた時に一通の手紙を見つける。


「手紙?」


 靴箱、手紙、そしてハート形のシールで封………俺はこの時ハッと気が付いた。これはラブレターではないかと思った。俺は手紙を鞄にしまうと、乱暴に上履きを靴箱に放り込むと靴に履き替えて急いで自転車を止めている駐輪場に向かう。急ぐ気持ちとは裏腹に表情では平静を保っていた。

 俺が駐輪場に着いて自転車の鍵を外した時にクラスでも中の良い男友達が声を掛けてくる。


「おーい、帰りどっかによっていくか?」

「あー……すまん、今日は急ぎの用事があって……また明日な」

「お、おう……じゃあな」


 男友達が言い終わるのと同時位に自転車に乗って横を通り過ぎる。いつもであればすぐに寄り道をする俺だが、今日はどうしても無理だ。心の中で謝りながらも自転車をこぎ、急いで家へと向かう。

 学校から家の距離は自転車で五分程。いつもであれば近い筈の距離が、何故だか五分でも遠く感じる。早く。早く。

 急いでこいだことでいつもより少し早く家に到着し、庭に自転車を置き、玄関へと駆けこむ。靴を乱雑に脱ぎ捨てて二階にある自室へと引き籠る。学校鞄をドカッと勉強机に置き、中から例の手紙を取り出して部屋の中央に置かれ小型テーブルに置く。そしてガン見をしながら正座をした。心臓の鼓動が早くなるのを感じながら改めてその手紙を見て思う。白い封筒にハートのシール。漫画に起きそうな展開が今、目の前で起こっている。

 俺は震える手で手紙を持ち、封を開ける。そして中から出てきたかわいらしい便箋を開く。開いて見た内容は明らかに『好きです』と書かれた告白文だということは分かったが、しかし読み進めて最後の名前を見た時に見慣れない名前が書かれていた。


紺野沙耶こんのさや?別の学年の子か」


 同じクラスにはそんな生徒の名前はいない。学年が書かれていればよかったのだが、それもない。相手が分からないとなれば返事の書きようがないと思うと、この手紙のことを誰かに相談しようと考えた。

 しかし俺はこの時は知らなかった。この手紙が毎日入るようになることを。

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告白 椎名由騎 @shiinayosiki

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